元ギルド専属魔法杖職人、役立たずとギルドを追放されたけど、ちょっとした発想で最強の魔法杖ができちゃいました。~もちろん特許取得済みです。今更欲しいって?絶対にあなたたちには売りません~
「ヒイラギ、お前はクビだ」
唐突に告げられたその言葉で、俺――ヒイラギは、長年尽くしたギルドから追放された。
「……一応、理由を聞いてもいいか?」
俺は、湧き上がる諦めムードを隠そうともせず、ギルドの職員に聞いた。
「自分でもわかってるだろう? お前の作る魔法杖は、はっきり言ってゴミだ。全く使えない」
ぐうの音も出ない。
俺は、このギルド専属の魔法杖職人として働いていた。魔法使いたちのための杖を作る、名誉ある仕事だ。
だが、俺の杖はすこぶる評判が悪かった。
「それは、そうだが……」
「『バランスが悪い』とか『魔力が馴染まない』とか、散々な言われようだ」
俺は、理論上最高の魔法杖を作っている自負があった。自信作だった。
だが、現実として評判は最悪。それが答えだった。
「うちも評判が悪い人間をおいておくわけにはいかない。さっさと荷物をまとめて出てってくれ」
周囲には、俺を見てニヤニヤと笑う冒険者たち。
「あばよ、ヒイラギ! ジジイみたいに体を支える杖でもいるか? 『杖職人』なんだからよぉ! ギャハハ!」
背中に突き刺さる嘲笑。こうして俺は、屈辱を噛み締めてギルドを後にした。
……さて、どうするか?
俺は、この辺境の町から出たことはなかった。だが、もうここには思い残すことはない。
「行こう。王都へ」
新天地を目指すなら、デカい場所がいい。
こうして俺は、王都を目指して歩き出した。
……この時の俺はまだ、自分の杖に秘められた『とんでもない可能性』に気づいていなかった。
******
俺は、王都の方角に向かって鬱蒼とした森を歩いていた。
だが、一つ致命的な問題がある。俺は絶望的に方向音痴だ。
数日前から、進んでいる道が正しいのか全く自信がない。
どこからともなく聞こえるフクロウの怪しい鳴き声が、俺の心細くさせる。
そのとき、遠くで鳥が一斉に飛び立つのが見え、ドォォン! と腹に響く爆発音が響く。
「うぉ! なんだ?」
俺は、思わず地面に伏せる。地震か?
だが、その音はドォン、ドォンと断続的に続く。これは、戦闘か?
ならば、誰と誰が? モンスター同士が争っているのか?
だが、直後に森から上空に青白い雷が走ったのを見て、その予想は否定された。
あれは、雷魔法だ。つまり、人が何かと戦っている。
俺は、気がついたら駆けていた。
ただの魔法杖職人の俺に何ができるというのか。戦力の足しにもならない。
だが、魔法使いがモンスターと戦っているのだ。見て見ぬ振りをして逃げては魔法杖職人の名が廃る。
音の元に着くと、そこには、一人のローブ姿の魔法使いが、巨大な獣――ベヒィモスと対峙している光景があった。
ローブの魔法使いは果敢に魔法を当てているが、ベヒィモスの鋼のように硬い皮膚には深いダメージを与えることができない。
刹那、ベヒィモスの薙ぎ払いがきた。
ローブの魔法使いは防御魔法を咄嗟に展開したが、ベヒィモスの圧倒的な攻撃力にシールドは紙のように壊され、その体ごと吹っ飛んだ。
「ガッ!」
ローブの魔法使いは木に背中を強くうち、肺から空気が漏れた音がした。
最悪なことに、衝撃で握られていた魔法杖が半ばから折れてしまっている。
魔法杖が折れたということは、剣士で言えば剣無しで戦うことと同義だ。
つまり、無力だ。
だがローブの魔法使いは、折れた杖を構えている。まだ戦う気なのか。
べヒィモスは、攻撃の反動で追撃せず、唸り声をあげている。
俺は、自分の魔法杖を掴んで、ローブの魔法使いに投げようとした。
だが、一瞬躊躇する。
『お前の杖は、クズだ』
ギルド職員の言葉が脳裏に響く。
刹那、怒りが湧き上がる。
……うるせー。誰が俺の杖の評価を勝手に決めていいと言った?
「俺の……、俺の杖は最強だ!」
俺の叫びに、ローブの魔法使いが気づく。
「なんで! 一般人が?!」
俺は構わず魔法杖を投げた。ローブの魔法使いがそれを受け取る。
「杖が壊れても良い! お前の最大魔力で、撃て!」
魔法杖には耐久性がある。普通ならリミッターをかけるが、それをオーバーしても良い。
全力で打ってくれ!
ローブの魔法使いが「感謝する」と短く言うと、魔法杖がカッ! と眩く光りだす。
ベヒィモスの次の攻撃がくる。
「嵐よ、穿て――ディガ・ウィンド!」
一瞬、森の木々が、ローブの人物が構える魔法杖の先端に強烈に引き寄せられ――
直後、一気に圧縮された空気が放たれ、世界が弾かれたように吹き飛ぶ。
ドゴォォォォォォォォッ!!
俺は吹き飛ばされないように踏ん張りながら、腕で顔を隠す。
砂埃が晴れ、目を開けると、そこには、上半身が跡形もなく消えた、ベヒィモスだったものが残っていた。
後ろの木々も扇状に消え失せている。
「す、すげえ……」
俺がつぶやく。ローブの魔法使いと目が合った。
「これ、何?」
「へ?」
俺は間抜けな声を出した。
「私、こんな強い魔法知らない」
ふわり、とローブのフードが落ちる。
金髪の長髪が風になびいて広がる。
これが、S級魔法使いのカレンとの出会いだった。
******
「なるほどね。話はわかったわ」
カレンはほう、と息を吐いて言った。
焚き火に照らされ、端正な顔の影が、炎の揺らぎに合わせて揺れている。
ベヒィモスを粉砕した後、俺とカレンは、開けた場所で火を囲み、お互いの事情を聞くことにした。もちろん、戦闘後の休息も兼ねている。
「しかし、方向音痴にも程があるわ。まさか非戦闘職が『禁忌の森』に入るなんて、前代未聞よ」
「き、禁忌の森……?」
俺が自信満々に進んでいた道は、全くの見当はずれだった。
気がつけば、A級以上の冒険者以外は入ってはいけない危険地帯――『禁忌の森』と呼ばれる場所に入っていたのだ。
「あの森はね、普段は魔物もいない平和な森に見えるんだけど、時折、A級クラスのモンスターが出現するの。私は、その討伐に来たってわけ」
カレンは、森の奥を睨むように視線を向けた。
「けど、まさか三本ツノ持ちのベヒィモスだとは思わなかったわ。3本ツノはS級よ。ったく、ギルドの情報屋には文句を言わないと」
S級……。俺は背筋が凍る思いだった。
「けど、あなたのおかげで助かった。礼をいうわ。ありがとう」
そう言って、カレンは真剣な眼差しで頭を下げた。
「いや、こちらこそ、俺の魔法杖が役に立てて嬉しいよ」
俺がそう言うと、カレンはガバっと勢いよく顔を上げ、詰め寄ってきた。
「それよ! あの魔法杖。一体何?!」
「うおっ……。あれか、あれは俺が作った杖だけど……」
「え? あなた、魔法杖職人なの!?」
カレンはまじまじと俺の顔を見る。そして首を振った。
「……ごめんなさい、私、大体の有名な魔法杖職人は知ってるはずなのに」
「知らないはずさ。片田舎にずっと引っ込んでいたんだから。っていうか、こっちのセリフだよ。なんだ、あの魔法の威力は?」
「ディガ・ウィンド。私が使える最上位の風魔法よ」
でも……とカレンは言葉を濁し、自身の掌を見つめた。
「あんな威力は、今まで見たことない。あれは間違いなく……杖の性能のおかげ」
「それは嬉しいが……うちのギルドでは『最悪の杖』という評判だったんだぜ」
俺は、ことの経緯を伝えた。
『バランスが悪い』『馴染まない』と罵倒され、追放されたことを。
カレンは鼻で笑った。
「ふーん。『魔法使いあるある』ね。杖の性能を引き出せない二流魔法使いが言う負け惜しみだわ。間違いなく、あなたの杖は一級品よ。私が保証する」
俺はそれを聞いて驚きと共に、目頭が熱くなった。
職人として全否定され、絶望していた俺だ。まさか、こんなところで最大の理解者に出会えるとは。
「でも、それにしても説明できない威力だったわ。一体、どうやって作ったのか教えてくれない?」
俺は、火をくべながら話す。
「魔法杖の役割は知ってるだろう?」
「ええ、魔力のコントロール。わかりやすく言えば、砲身ね。魔法使いが体内で魔法を錬成し、それを魔法杖を通して外部に出力する。その際、杖は魔法の速度や精度を高めるわ」
「その通り。だから、魔法杖は、魔法使いの内部の魔力と、ある意味リンクしているとも言える」
「だから、繊細なのよ」
「そうだ。だが、こう考えたことがある。『火吹き棒』だ」
「火吹き棒?」
「ああ。火吹き棒は、口を離して息を入れると、周囲の風も巻き込んで、より多くの風を送ることができる。あれと同じだ」
俺は周囲の空気を手で仰いだ。
「人間の体内にある魔力は有限だが、俺たちを包む空気には、無限の魔力が漂っている。これを取り込めたら? どうだろう」
「……数倍の魔力が、込められる」
カレンがごくりと喉を鳴らす。
「その通り。俺の作る魔法杖は、それだ」
「考えたこともなかった……。そもそも、大気中の魔力はコントロールが難しい。言ってみれば、それは精霊使いや勇者などの領分だわ」
「それを、俺の魔法杖は自動的にやるんだよ。あんたが流し込んだ魔力を呼び水にして、大気中の魔力を根こそぎ吸い込んだんだ」
「……すごい」
カレンの目が輝いている。
「だが、今までは全くうまくいかなった。説明しても理解してもらえなかった。『机上の空論を吐くな』なんてね。だが、あんたの魔法を見てわかったよ」
俺は、自分の仮説に確信を持った。
「俺の理論は間違っていなかった。ただ、それを実行できる『出力』を持った人がいなかったんだ。火吹き棒だって、吹く息が弱すぎれば風は巻き込めないからな」
カレンが、じっと俺の目を見る。
炎の光ではない、強い光がその瞳に宿っていた。
俺は、ドギマギした。
「ヒイラギ、あなた、王都を目指しているのよね? 丁度いいわ。うちのギルドに来ない?」
「何?」
「ウチのギルドで、二人で天下をとるのよ」
******
カレンの誘いを断る理由など、微塵もなかった。
俺は王都へ到着するとすぐに、カレンの属するSランクギルド「クラウン・ギルド」に入会し、魔法杖のブラッシュアップに没頭した。
「ヒイラギ! ここ、もう少し魔力の通りを良くできない? あと、発動のタイミングをコンマ1秒早めて!」
「無茶言うなよ……! やってやるけどさ!」
カレンは厳しいが、最高のテスターだった。
俺の理論が正しいことは証明されている。あとは、いかにしてそれを理想の形にするかだ。
カレンという超優秀な使い手が、限界まで負荷をかけてくれるおかげで、俺の魔法杖の性能は日増しに、飛躍的に上がっていった。
そうして、数ヶ月後。
とうとう、魔力(=魔力操作量)が少ない一般的なレベルの魔法使いでも、大気中の魔力を吸い込める魔法杖が完成した。
俺は、この魔法杖のシリーズを、着想の元となった火吹き棒からとって、『ファイア・ブロウズ(火吹き)』と名付けた。
「完成したわね。じゃあ、次は手続きよ」
落ち着く間もなく、カレンが次に動いたのは、王都魔法局への特許申請だ。
魔法に関する発明の権利を守る組織で、かなり厳格な審査と運営がされていることで有名だ。
「これだけの発明よ。真似されたらたまらないわ。権利をガチガチに固めるの」
カレンの嫌に巧みな政治力と、現物の圧倒的な性能のおかげで、審査は異例の速さで進んだ。
俺の作った魔法杖の特許は正式に認められ、構造そのものが知的財産として保護されることになった。
これで晴れて、『ファイア・ブロウズ』は俺だけの魔法杖になったのだ。
当初、カレンのみが使用していた『ファイア・ブロウズ』だが、量産型が完成すると、クラウン・ギルドの魔法使いたちにとてつもない驚愕を持って迎えられた。
「なんだこれ!? いつものファイアボールが、爆撃魔法みたいになってる!?」
「魔力消費はいつも通りなのに……威力が倍だ!」
あまりにも他の魔法杖と性能が違いすぎた。
そりゃそうだ。流石にカレンほどではないが、一般レベルの魔法使いでも、最低でも1.5倍、うまくいけば2倍は威力が上がる。
生死をかける冒険者にとって、そんなチートアイテムを欲しがらない魔法使いなんていない。
「ヒイラギさん! 俺の分はまだですか!?」
「私にもお願いします!」
クラウン・ギルドはたちまちトップギルドの中でも一歩抜きん出た存在となった。
「申し訳ありませんが、お渡しできるのは、クラウン・ギルドのメンバーだけなんです」
外部からの問い合わせに対し、俺はそう答えた。
クラウン・ギルドだけでも魔法使いは百人近くいる。今の俺にとって、メンテナンスや管理に責任を持てる範囲は、身内であるクラウン・ギルド内だけだった。
それに、俺の腕を見抜き、ギルドに誘ってくれたカレンと、快く受け入れていれたギルド長にも借りがある。
彼らが良いと言うまでは、他所に売るつもりは一切なかった。
俺の方としても、魔法杖の価値がわかる人間にだけ使って欲しい。
だが評判は、王都の他のギルドはもちろんのこと、徐々に王都の外へも広がっていき、俺の店には杖を求める客が殺到した。
そして、もちろん――
この噂は、俺を「役立たず」と追放した、前のギルドにも届くことになる。
彼らに売ったかって? もちろん、売らなかった。
彼らがどんな手のひら返しをし、逆恨みでどれほど卑劣な干渉をしてきたか……。それを語り始めると長くなるから、やめておこう。
ひとつだけ言えるのは、カレンの頭脳と、王都最強の権利団体「魔法局」によって、彼らがボコボコに叩き潰されたということだけだ。
平穏が戻った工房に、カレンがやってきた。
今では、俺たちは単なる仕事仲間を超えた仲になった。
「今度は何を作っているの?」
「ちょっと、思いついたアイデアがあってさ」
「良いわね。私に一番にテストさせてよね」
「もちろんさ。けどファイア・ブロウの時みたいなスパルタは勘弁してくれよ」
「それは……ものによるわ」
二人でくすくすと笑い合う。
魔法杖の素材がずらりと並ぶアトリエで、俺は杖を作り続ける。
「本当にお礼を言わなくっちゃ。こんな素晴らしい魔法杖職人を追放してくれて」
カレンのその言葉を聞きながら、俺は幸せを噛み締めていた。
(完)
【後書き】
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