推定・野生のお餅となりまして
もしよろしければ、全自動餅つき機の動画をご覧になりながらお読みください
白くほたほたした絹肌。柔らかくもっちりとしたボディ。
果たして今、自分は夢を見ているのか、死んで転生したのか。分からないが、どちらかなんて些末なことだ。
大事なのは、今自分がスライム──というより搗き立てお餅みたいな生き物になっているということと、
「捕まえろ!!あいつ絶対美味いから!!」
「え、あの下等生物食べられるの!?」
「にわかには信じがたいが、サトーがいうなら間違いないんだろう」
「マジで美味いから!醤油でよし、あんこでよしの万能の美味さだから!」
食い意地の張りまくった同郷の人間に食われそうになっているということだ。
同郷の人間。それすなわち「なんだかんだ言ってどの国も何でも食べる」でお馴染みの東アジア諸国の中でも、食が絡むと謎のポテンシャルを発揮する日本人である。
食欲バーサーカーに巻き込まれた現地人には乗り気にグラデーションはあるものの、捕まったら絶対においしくいただかれる確信がある今、自分史上最高速度で逃げていた。
その足の速さたるやレッド・フク並だ。今なら三重から大阪と言わず東京までだって行ける。
「ナニアレ!? 低級魔物のくせに足速すぎない!?」
「危機感があるんだろう」
人間のだしてよい速度を余裕で超過しながら追いかけてくるうえに、冷静にこちらの分析をしながら現地人。その通りです早く諦めろください。
「サトー、もー諦めようよー。さっきコカトリスが鉱石糖つついたから、それでプリンとか親子丼とかにしようよー」
何それ超食べたい、と止まりかける足(足などない)を押しとどめて逃げ続ける。危機感がないと言われそうだが、自分だって目覚める前までは食欲バーサーカー《日本人》だったのだ。文字通り遺伝子に刻まれた食欲なので許してほしい。今はもう遺伝子構造変わっただろうが。
「いや、新年に餅を食べないでいられる日本人はいない。たとえ命がかかってようともだ」
「なにそれ怖い」
「実際年間3000人ぐらい詰まらせて死んでる」
「自制心や改善の余地はないのか」
──ない訳では無いが、起きるんですよそれが。
逃げながらごもっともな言葉たちに頷く。客観視すると本当に何やっているのかという話だが、ドイツのメット(※生の豚挽肉使った料理。衛生法が敷かれているがやっぱり肝炎患者は出る)やアメリカの生牡蠣(※産地の問題によりノロウイルスだけじゃなくてもっとヤバいバクテリアのリスクがあり当たるとマジで死ぬ)のように、『危ないのは分かっていても美味しいから止められない』は日本人のみならず人類共通なのだ。
異世界にはないのかな、ハイリスク飯。いや、狩る段階でハイリスクなのか?……などと思考がそれたのが致命傷となった。
「この距離なら当たる! 移動阻害魔術だ!」
「分かった!」
くんと、何かに引っかかるようにして動きが止まったのと、まるで杵を振り下ろすが如く大剣が自分に振り下ろされるのはほぼ同時だった。
わずか数分にして、第二の生は終わりを迎え──
「ふがっ!?」
気道に何かがつっかかるような不快感に、目が覚める。目の前には見慣れたアパートの天井
があった。
ぼーっと、天井を見上げながらそれまでを思い出す。確か、正月からゼミの友人と鍋パと言う名の酒盛りをしてて、お腹いっぱいになってコタツに横になって寝落ちて、
「お、越後起きた?」
「もー! 揺すっても起きないからプリン先に食べちゃったよ?」
「ほら、水のめ水」
「お、おう……」
わいわいと目が覚めた途端に声をかけてくる友人たちからありがたく水を受け取り、ちびちびといただく。
ありがたい、が、現状確認が進むにつれ言わねばならないことが浮上してくる。
「……揺すって起きない酔っ払いがいたら!救急車を!呼べ!!せめて横向きにしろ!!」
正月早々臨死体験をしたらしい俺は、そう叫ぶしかなかった。
おまけ
お正月のお酒のススメ
・『もしも』に備えて出来れば多人数で飲みましょう
・酔っ払いを寝かせるときは、吐物による窒息を防ぐため、横向きに寝かせてあげてください。
・酒飲んで揺すっても起きないは寝ているのではなく意識障害です。救急車を呼びましょう。
よいお正月を!




