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《第二章》第五節:真司の一歩と、モモスケの喝采

どうも、モモスケだ。健太の挑発が続く中、俺は沈黙を破るか迷っていた。だが、俺が動くよりも早く、真司が動いた。彼の口から飛び出したのは、予想だにしない、真っ直ぐな言葉。この不器用な男が、ついに一歩を踏み出した瞬間を、俺は見逃さなかった。


健太の挑発が続く中、俺は沈黙を貫くか、それとも喋るか、葛藤していた。俺のプライドが「喋るな」と叫ぶ一方で、桃と真司を守りたいという、わずかながら芽生えた感情が俺を突き動かそうとする。だが、その時、予想外の人物が動いた。


真司だった。


彼は、一歩、桃の前に踏み出した。健太の視線から桃をかばうように。そして、その静かな瞳は、まっすぐに健太を射抜いた。


「健太さん」


真司の声は、驚くほど冷静だった。しかし、その声には、底知れない力が宿っていた。


「桃さんのことを、そういう風に言うのはやめてください」


普段の彼からは想像できないほどの、明確な拒絶の言葉。真司は、決して口数の多い男ではない。だからこそ、彼の放つ一言一言には、ずっしりとした重みがあった。俺は、その言葉に、密かに舌を巻いた。


健太は、真司の予想外の反撃に、一瞬言葉を失った。彼の顔に、それまでの嘲笑が消え、わずかな焦りが浮かぶ。


「な、なんだよ。副社長さんが、僕らの関係に口を出すことじゃないだろ」


健太はそう言いながらも、明らかに動揺している。彼の目が、真司の真っ直ぐな視線から逃げようとしているのが見て取れた。


真司は、一歩も引かない。


「桃さんは、俺にとって大切な人です。仕事のパートナーである以上に、俺が守りたい人だ」


その言葉を聞いた瞬間、俺の全身に電流が走った。

桃は、真司の言葉に、ハッとしたように目を見開き、そして、その頬は一瞬にして林檎のように赤くなった。彼女の瞳は、感動と驚きで潤んでいるように見える。真司は、いつもは感情を表に出さないくせに、こんな土壇場で、ここまでストレートな言葉を口にするとは。俺のひねくれたセンサーが、過去最高の数値を叩き出した。


健太は、真司の言葉と、その真っ直ぐな視線に、完全に打ちのめされたようだった。彼は、何も言い返すことができず、ただ口をパクパクさせている。まるで、言葉を失った金魚のようだ。


「……っ、分かったよ! 勝手にしろ!」


健太は、そう吐き捨てると、踵を返して資料館の出口へと早足で向かっていった。彼の背中は、まるで負け犬のようだった。


健太の姿が見えなくなると、資料館の空気は、再び穏やかになった。だが、桃と真司の間には、先ほどまでの緊張感とは全く異なる、新たな静寂が流れていた。


桃は、ゆっくりと真司の方を向いた。その顔は、まだ赤く、瞳は潤んだままだ。


「し、真司さん……今、なんて……?」


真司は、桃の問いかけに、先ほどの勢いはどこへやら、耳まで真っ赤にして俯いてしまった。


「あ、いや……その……」


普段の口下手な真司に戻ってしまっている。だが、彼の背中から伝わる熱は、先ほど彼が発した言葉の真実を物語っていた。


俺は、桃の肩の上で、大きく息を吐いた。

そして、心の中で、盛大な喝采を送った。

まさか、こんな形で真司が本心をぶちまけるとはな。

俺の沈黙の誓いを破る必要など、全くなかったわけだ。


この不器用な男が、ついに一歩を踏み出した。

この純愛コメディーは、ここからが本番だ。

俺のひねくれた観察眼は、次の展開を、今か今かと待ち望んでいる。

真司の一言で、健太は完全に撃沈。桃の顔も真っ赤になっていたな。あの不器用な男が、まさかあんなにストレートに感情をぶつけるとは……。俺のひねくれた心をここまで揺さぶるとはな。この純愛コメディー、いよいよ面白くなってきたぜ。

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