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《第二章》第二節:過去の影と、真司の静かな闘志

健太という男の出現は、桃と真司の間に確かな波紋を広げた。過去の関係を匂わせ、真司を牽制する健太。そんな挑発に対し、真司は言葉ではなく、その存在と静かな怒りで応戦する。俺は、この人間たちの複雑な感情の絡み合いを見守る。

健太という男の出現で、公園の穏やかな空気は一変した。俺は桃の肩の上で、彼の薄っぺらい笑顔と、真司の硬い表情を交互に観察する。健太は、桃の腕を軽く叩くような仕草をして、真司の方へわざとらしく目をやった。


「ももは昔から、頑張り屋だったからねぇ。まさか社長になってたとは。でも、ゲーム会社なんて、大変なんじゃない? 僕の会社だったら、もっと気楽に働けたのに」


その言葉には、明らかに真司への牽制と、桃を懐柔しようとする意図が込められていた。健太は、桃の過去を知る人間であり、その関係性を利用して、真司との間に線を引こうとしている。俺のひねくれセンサーが、ジリジリと警報を鳴らす。こいつは、桃のことが好きなのか? だとすれば、面白くなってきた。


桃は、健太の言葉に困ったような笑みを浮かべた。

「健太さん、相変わらずね。でも、大変だけど、毎日すごく楽しいの。真司さんもいるし」


桃が真司の名を出すと、健太の顔がわずかに歪んだ。真司は、一言も発しないまま、健太の言葉を静かに受け止めている。その瞳の奥には、確かな警戒心と、静かな闘志が宿っているように見えた。彼は感情をあまり表に出さないタイプだが、こういう時こそ、彼の本質が垣間見える。


健太は、そんな真司の視線から逃れるように、再び桃に話しかけた。


「そういえば、モモスケ! お前、まだ生きてたのか!」


健太は、俺に気づくと、驚いたような声を上げた。そして、俺に手を伸ばそうとする。反射的に身構えた俺だったが、桃が健太の手を制した。


「あ、健太さん、モモスケはちょっと……」


桃が俺を守るように身を寄せる。俺は、その優しさに、ほんの少しだけ温かい気持ちになった。前の飼い主だった健太は、俺の沈黙を不気味がるどころか、ただ単に「反応しないつまらない鳥」としか思っていなかっただろう。しかし、桃は違った。俺の意思を尊重し、優しく接してくれる。俺は、改めて桃という人間を選んで正解だったと確信した。


健太は、桃の制止に少しだけ不満げな表情を見せたが、すぐに笑顔に戻った。


「そっか。相変わらず可愛い顔して、ツンツンしてるな。でも、桃に飼われてるなら、幸せだろ?」


その言葉は、まるで俺の所有権が自分に在るかのように主張している。真司の表情は、ますます硬くなる。彼は、健太の挑発に乗らず、ただ静かに桃の隣に立っていた。その沈黙は、雄弁だった。彼は、言葉ではなく、その存在そのもので、桃を守ろうとしているように見えた。


健太は、腕時計をちらりと見ると、「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。桃、また近いうちに連絡するから」と、桃にウィンクしてみせた。そして、真司には一瞥もくれず、去っていった。


健太の姿が見えなくなると、真司は小さく息を吐いた。そして、桃の方へ向き直った。


「あの……健太さん、ですか。桃さんの、大学の先輩?」


真司の声は、普段よりも少しだけ低い。桃は、そんな真司の様子に気づいたのか、慌てたように言葉を継いだ。


「うん、そうなの。大学の時の先輩で、ちょっとお調子者だけど、悪い人じゃないんだよ。まさか、こんなところで会うなんてね」


桃は、どこか気まずそうに笑う。真司は、桃の言葉を信じているのか、それとも別の感情を抱いているのか、表情を読み取ることはできなかった。しかし、彼の瞳の奥に宿っていた静かな闘志は、まだ消えていない。


健太という男は、単なる過去の知り合いではない。桃の過去に存在する、何かしらの「影」だ。そして、その影が、真司の心に波紋を投げかけた。俺は、この予期せぬ遭遇が、二人の関係にどんな化学変化を起こすのか、ますます目が離せなくなっていた。真司の静かな闘志が、桃への「大好き」を、どのように表現していくのか。俺の観察は、新たな局面を迎えたのだ。

健太の言葉に、真司が静かに怒りを燃やしているのが分かったぜ。桃を守ろうとする彼の不器用な優しさが、俺のひねくれた心をまた少しだけ揺さぶる。この因縁の対決が、二人の関係にどう影響するのか。目が離せない展開になってきたな。

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