エピローグ:ひねくれインコが見た、本当の奇跡
どうも、モモスケだ。結婚式を終え、日常に戻った俺たち。すべてが順調に進む中、桃と真司から衝撃の真実を告げられたぜ。なんと、俺が喋っていたことを、彼らは知っていたらしい。このひねくれインコが最後に見た、本当の奇跡とは――。
ハワイでの結婚式から数日が経ち、桃と真司、そして俺は、日本へと戻ってきた。
「株式会社MOMO」のオフィスは、相変わらず活気に満ちている。従業員たちは、新婚旅行から帰ってきた二人に、改めて祝福の言葉を贈っていた。
桃と真司は、結婚式での幸せそうな笑顔をそのままに、日々の業務に励んでいた。
そして、以前にも増して、お互いを気遣い、支え合っている。
俺は、そんな二人を、桃の肩の上から、いつものように見守っていた。
俺のひねくれた純愛観察日記は、彼らの夫婦としての物語を、これからもずっと綴っていくのだろう。
ある日の夜。
会社での仕事を終え、アパートに戻ってきた桃と真司は、リビングでくつろいでいた。
俺は、ケージの中で、今日の観察記録を頭の中で反芻していた。
すると、桃が、そっと俺のケージに近づいてきた。
「ねぇ、モモスケ。今日、真司さんと話してたんだけどね……」
桃は、そう言って、俺の頭を優しく撫でた。その目は、少しだけいたずらっぽく輝いている。
真司もまた、俺のケージに近づいてきた。その顔には、どこか照れくさそうな笑みが浮かんでいる。
「モモスケ……あの、実はですね……」
真司が、言葉を詰まらせながら口を開いた。その様子に、俺は首を傾げる。なんだ? いったい何の話だ?
桃が、ふふっと笑って、真司の言葉を引き継いだ。
「モモスケ、結婚式の時、最後に私たちに言ってくれたでしょ? 『おめでとう』って」
俺は、桃の言葉に、ハッと息をのんだ。
……まさか。
確かに、俺はあの時、心の中で二人に祝福の言葉を贈った。だが、俺は喋らないインコだ。俺の声が、人間に届くはずがない。
真司が、俺の心の動揺を察したかのように、優しく語りかけた。
「あの時だけじゃないんです。モモスケは、時々……本当に、ごく稀にですが、ケージの中や、桃さんの肩の上で、寝言みたいに、色々なことを喋っていたんですよ」
「えっ……!?」
俺は、クチバシが完全に体から離れてしまいそうなほど、驚きに固まった。
寝言だと? 俺が?
桃は、俺の驚いた顔を見て、くすくすと笑った。
「そうよ、寝言でね。初めて聞いた時はびっくりしたんだけど、真司さんも聞いたことがあるって言うから……。私たち、モモスケの言葉に、いつも励まされていたんだからね」
桃の言葉に、真司も深く頷いた。
「モモスケの言葉に、何度救われたか……。俺たち、モモスケが喋れるって知ってたんですよ。でも、モモスケが自分から話したがらない理由があるんだろうと思って、ずっと黙っていたんです。だから、結婚式で、モモスケが自ら言葉を贈ってくれた時、本当に嬉しくて……」
真司の瞳は、温かい光に満ちていた。
俺は、信じられない思いで、桃と真司の顔を交互に見つめる。
まさか、俺の沈黙の誓いを、彼らが知っていたとは。
そして、俺が喋っていたことすら、俺自身が気づいていなかったとは。
「ありがとう、モモスケ! これからも、私たちのこと、見守っててね!」
桃が、満面の笑みで俺に語りかけた。
真司もまた、優しく微笑み、俺を見つめている。
俺は、二人の温かい視線を受けながら、心の中で、大きく息を吐いた。
この人間たちは、俺がひねくれインコであることを知りながら、俺の全てを受け入れてくれていた。
俺の沈黙の奥にあるものを、理解し、尊重してくれていたのだ。
俺のひねくれた純愛観察日記。
それは、二人の愛の物語だけではなかった。
それは、俺自身が、人間との間に、言葉を超えた深い絆を見つける物語でもあったのだ。
この奇跡のような真実に、俺のひねくれた心は、もはや一点の曇りもなく、温かい光に満たされていた。
俺は、ケージの中で、静かに、そして深く、頷いた。
これからも、この二人の傍らで、彼らの人生を、そして、俺自身の物語を、綴っていこう。
「ありがとう、桃。ありがとう、真司」
――数年後、画期的なゲームが「株式会社MOMO」から販売される。
その名は。
――『Echoes of Logos』――
まさか、俺が寝言で喋っていたとはな。しかも、桃と真司がそれを知っていて、黙っていてくれたとは。俺のひねくれた純愛観察日記は、彼らの愛だけでなく、俺と人間の間に生まれた絆の物語でもあったんだ。俺のインコ人生は、これからも彼らと共に続いていくぜ。




