《第四章》第四節:バス遅延と、深まる縁
どうも、モモスケだ。バスの遅延は続くが、桃と真司は坊主とのゲーム談義に夢中だぜ。真司の熱意が、ついに坊主の心を動かした。仏道とゲーム。まさかこんな場所で、新たなビジネスの縁が生まれるとはな。俺のひねくれた予測を遥かに超える展開だ。
バスがなかなか来ない。太陽の光がジリジリと俺の羽を焼くような感覚にとらわれながら、まだかまだかと迎えを待っていた。東屋で時間をつぶす従業員たちは、それぞれ疲れた様子を見せている。だが、桃と真司だけは、相変わらず坊主の話に夢中だった。
「阿闍梨様のお話、本当に面白いですね! 精神とゲーム、確かに通じるものがあるかもしれません」
桃が目を輝かせながら言うと、真司も深く頷いた。
「ええ。特に『記憶の再構築』というお話は、フルダイブVRゲームの設計に大きなヒントを与えてくださると思いました」
真司は、メモ帳を取り出し、熱心に何かを書き込んでいる。普段、あまり感情を表に出さない彼が、ここまで前のめりになるのは珍しい。俺は、その熱意に、わずかながら感心した。やはり、ゲームに対する情熱は、彼ら二人にとって特別なものなのだろう。
坊主は、そんな二人の熱意を嬉しそうに受け止めていた。彼の表情は、先ほどの厳かな祈願の時とはまるで違う、親しみやすい笑顔だ。
「うむ。ゲームもまた、一つの『道』。人の心を動かし、世界を創造する。仏道と何ら変わりはない」
坊主はそう言って、深く頷いた。そして、ちらりと俺に目をやったが、俺は知らんぷりだ。彼が俺を見た瞬間に驚いていた理由が、いまだに俺には分からない。
時間は刻々と過ぎていく。バス会社に電話する者、日陰に移動する者。従業員たちが、少しずつ苛立ちを募らせる中、桃と真司は坊主との会話を止めようとしなかった。むしろ、話せば話すほど、二人の目はさらに輝きを増していく。まるで、目の前にゲームの神様がいるかのように。
「阿闍梨様は、武術も嗜んでいらっしゃるとか。ゲームで、武術の動きを再現する際のモーションキャプチャなど、ご協力いただけたりしませんでしょうか!」
真司が、前のめりになって提案する。彼にとって、これは単なる偶然の出会いではない。未来のゲーム開発に繋がる、大きな可能性を見出しているのだ。
坊主は、真司の言葉に満面の笑みを浮かべた。
「ほう。それは面白そうですね。仏道に励む傍ら、ゲーム制作に貢献できるとなれば、これほど嬉しいことはありません」
二人の間に、具体的な話が持ち上がり始めた。俺は、この会話の展開に、少しだけ驚きを隠せない。まさか、護摩焚のために来た寺で、新たなビジネスチャンスが生まれるとは。人間というのは、どこでどういう縁が繋がるか、本当に分からないものだ。
ようやく、遠くからバスのエンジン音が聞こえてきた。迎えのバスが到着したのだ。従業員たちは、安堵の声を上げる。
「来た! やっと来たぞ!」
俺は、バスの到着を心待ちにしていた。
真司のゲームへの情熱は、坊主をも動かすとは驚いたぜ。この出会いが、桃と真司の会社に、そして二人の関係に、どんな影響を与えるのか。俺のひねくれた好奇心は、最高潮だ。この坊主、ただ者じゃない気がするぜ。そんなこんなで次節も、見逃さないでくれ。




