《第四章》第三節:山寺での珍事と、ゲーム談義
どうも、モモスケだ。会社繁栄祈願のため、山奥の寺へ。しかし、まさかそこで、北海道から来た高僧と出会うとはな。しかもこの坊主、とんでもないゲーマーらしい。桃と真司が目を輝かせているが、俺には早くバスが来てくれることしか頭にないぜ。
梅雨明けの初夏。蒸し暑さが残る中、桃のゲーム会社「株式会社MOMO」の会社繁栄を祈願する護摩焚が、都内某市の東密寺で行われた。社員全員が参列し、もちろん俺、モモスケも桃の肩の上だ。山奥に位置する東密寺へは、貸し切りバスで向かった。
モクモクと煙が立ちこめる中、厳かな護摩焚が終わり、一同は少しリラックスした雰囲気になっていた。住職……ではなく、今回は北海道からわざわざ来たという、霊験あらたかな高僧が特別に祈願をしてくれたらしい。阿闍梨というらしいが、やたらと精神がどうの、記憶がどうの、仏教がどうの、と難しい話ばかりしていて、俺には興味が全く沸かなかった。早く終わらないかな、とそればかり考えていた。
祈願が終わり、一行はお寺の境内で談笑していた。最近話題のフルダイブシステムを使ったゲームや、AIを活用したアプリなど、最新の技術トレンドについて熱く語り合っている。やはりゲーム会社の人間は、どこにいても仕事の話になるものだな。
そんなところに、あの阿闍梨様……いや、言いづらいから坊主でいいか。坊主が現れた。坊主は一瞬、俺を見て何やら驚いたような顔をしたが、俺は知らんぷりだ。そんなことより、早く迎えのバスが来ないかなと、俺は空を見上げていた。
坊主は、境内の東屋で話している俺たちの元へ近づいてきたかと思うと、桃に話しかけ始めた。坊主の口から出てきたのは、意外な言葉だった。
「わたくしも、実はゲームが好きでして。特に最近のオープンワールドゲームには、学ぶべきものが多い」
おいおい、まさかのゲーム好きかよ。
坊主はさらに、自分が幼少期に坊主が嫌で色々な職業を経験したことや、武術を嗜んでいることなどを語り始めた。桃と真司は、目をキラキラさせて坊主の話に聞き入っている。まさかこんな場所で、ゲーム談義に花が咲くとはね。
従業員たちは、それぞれ思い思いの行動をとっている。境内の景色を眺める者、スマートフォンをいじる者。そんな中、桃と真司だけが、坊主の言葉の全てを吸収しようとしているかのように、真剣な眼差しを向けていた。二人の顔は、まるで新しいゲームのアイデアを見つけた時のように、輝いていた。
早くバスが来ないかな。俺は、生暖かい風に吹かれながら、そう願っていた。
まさか、坊主がこんなにもゲームに詳しいとはな。桃と真司が興奮しているのが、肩に乗っている俺にも伝わってくる。仏教とゲーム。何やら不思議な縁が生まれそうだ。俺のひねくれた勘が、この出会いが今後の二人に、何か大きな影響を与えるような気がしてならないぜ。




