《第三章》第三節:静かなる決意と、おにぎりの行方
どうも、モモスケだ。健太との一件で、真司は変わった。昨日、桃に守られたことへの感謝と、桃への気持ち。それを伝えるために、彼が選んだのは、なんと手作りのおにぎりだった。不器用な男の静かなる決意が、今、桃の心に届く。俺のひねくれた観察眼が捉えた、最高の瞬間だ。
資料館から帰り、アパートの部屋に戻ると、桃は俺のケージにそっと俺を戻した。
「モモスケ、今日はありがとうね。楽しかった」
桃はそう言って、俺の頭を優しく撫でる。その手つきは、いつも以上に温かく感じられた。俺は、彼女の言葉に小さく瞬きを返した。きっと、彼女は真司との「遠足」が、仕事抜きで、心から楽しかったのだろう。
翌朝。桃はいつものように俺の肩に乗せ、職場へと向かう。真司はすでにデスクにいた。彼は、パソコンに向かっているが、その背中からはどこか気合いのようなものが感じられた。俺のひねくれたセンサーが、微かに波打つのを感じた。
「おはよう、真司さん!」
桃が元気よく挨拶をすると、真司は振り返り、その顔を俺は見て驚いた。彼の顔には、いつも以上に晴れやかな光が宿っていた。
「おはようございます、桃さん。モモスケも、おはよう」
真司は、そう言って微笑んだ。そして、彼のデスクの上には、小さな紙袋が置かれていた。
桃は、その紙袋を見て、不思議そうな顔をした。
「真司さん、それ……?」
真司は、少し照れくさそうに、紙袋を差し出した。
「お弁当です。その……昨日は、桃さんにお弁当を作っていただいて、とても嬉しかったので。俺も、お返しにと思って」
真司の言葉に、桃の頬が、一瞬でリンゴのように赤くなる。
「え……真司さんが? ご自分で?」
「はい。桃さんのように、凝ったものは作れませんでしたが……おにぎりだけなら、と思いまして」
真司が紙袋から取り出したのは、ラップに包まれた、少し不格好な二つのおにぎりだった。その形は、桃が作ったタコさんウインナーの可愛らしさとは対照的で、不器用な真司の人柄をそのまま表しているようだった。
桃は、そのおにぎりをじっと見つめ、そして、その瞳を潤ませた。
「ありがとう、真司さん……! すごく嬉しい……」
桃は、そう言うと、真司の差し出したおにぎりを両手でそっと受け取った。彼女は、まるでそれが世界で一番価値のある宝物であるかのように、大切に抱え込んだ。
その光景を見て、俺は悟った。
真司は、健太との一件以来、変わったのだ。
彼は、言葉ではなく行動で、桃への想いを伝えることを決意した。
昨日、桃が自分を守ろうとしてくれたこと、そして、桃が自分にだけ過去の秘密を打ち明けてくれたこと。その一つ一つが、彼の心に大きな勇気を与えたのだろう。
不器用な男が、一歩を踏み出した。
そして、その一歩は、小さな二つのおにぎりという形になって、桃の心に届いた。
俺は、桃の肩の上で、小さく微笑んだ。
もはや、口を出さなくとも、この二人は大丈夫だろう。
彼らの純愛コメディーは、俺の想像を遥かに超える、最高のエンターテイメントだ。
俺のひねくれた観察眼は、今日も彼らの物語を追い続ける。
真司の不格好なおにぎり、あれは言葉以上のものだったな。桃もすごく嬉しそうだった。この一件で、二人の関係はもう後戻りできないところまで来たようだ。俺のひねくれた予想は、毎回裏切られてばかりだぜ。この純愛コメディのクライマックスは、もうすぐそこまで来ている。




