《第一章》第二節:真司という男、その存在感
桃の肩に揺られ、毎日職場に通う俺。そこで目の当たりにするのは、副社長、三上真司という男の存在感だ。彼は口下手で引っ込み思案。しかし、桃への想いは、行動の端々に滲み出ている。俺は今日も、その不器用な愛を観察する。
新しい生活は、俺にとって刺激的だった。特に、久山桃という人間は、飽きさせない。そして、彼女の傍には必ずと言っていいほど、あの三上真司という男がいた。彼らの会社の社長が桃で、副社長が真司だと聞いている。俺は毎日、桃の肩に乗り、彼らの仕事場に通う。わずか三軒隣のアパートとはいえ、この短い通勤時間ですら、桃は俺に今日の出来事を語りかける。
「モモスケ、今日はね、真司さんが新しい企画書を朝までかけて仕上げてくれたの。すごいでしょう? 私なんて途中で寝ちゃったのに……」
桃はそう言って、誇らしげに、そして少し照れたように微笑む。その顔を見ていると、俺のひねくれた心にも、わずかな温かさが宿るのを感じる。
会社に着くと、真司はすでに自分のデスクに向かっていた。朝から晩まで、彼は黙々とパソコンに向かっている。桃が話す通り、彼はまさに「仕事の鬼」なのだろう。だが、俺の人間観察眼は、そんな彼の表面だけでは終わらない。
真司という男は、一見すると地味で目立たない。眼鏡の奥の瞳は常に画面に向けられ、言葉数も少ない。けれど、時折、桃が困った顔をしていると、サッと手を差し伸べる。例えば、サーバーの不具合で桃が唸っている時だ。
「桃さん、貸してください。多分、この辺りかと……」
真司は桃の傍らに立ち、数回キーを叩くと、あっという間に問題を解決してしまう。その時の真司の横顔は、まるで魔法使いのようだった。桃は「わー、真司さんすごい! ありがとう!」と目を輝かせるが、真司は照れたように「いえ、大したことありません」と呟くだけだ。だが、その耳の先が、ほんのり赤くなっているのを、俺は見逃さなかった。
彼は口下手だが、桃に対する気遣いは半端ない。
昼休憩の時間には、必ず桃が「真司さん、お昼、何にします?」と尋ねる。
すると真司はいつも「桃さんが食べたいものでいいですよ」と答える。
最初は、こいつ、こだわりがないのか? と思ったが、そうじゃない。
桃が「じゃあ、この前行ったカフェのパスタがいいな」と言えば、真司は立たりにするのは、副社長、三上真司という男の存在感だ。彼は口下手で引っ込み思案。しかし、桃ち上がり「では……」と、カフェまで一緒に行く。
雨の日だって。
桃が「傘、忘れちゃった……」と呟けば、真司は自分の傘をさっと差し出す。
そして、自分は小走りで別の傘を取りに行くのだ。
決して多くを語らないが、その行動一つ一つに、桃への深い配慮と、おそらくはそれ以上の感情が込められている。
従業員たちも、そんな真司の行動に気づいている。
休憩室で、彼らはこそこそと話している。
「真司さんって、本当に桃社長のこと大事にしてますよね」
「ですよねー! 桃社長も、もっと早く気づけばいいのに!」
「いやいや、社長も真司さんのこと意識してるでしょ。だからこそ、もどかしいのよ」
俺は彼らの会話を黙って聞く。
やはり、この会社の人間たちは、皆、二人の関係を応援しているようだ。
真司は桃に、まるで自分の存在意義を賭けているかのように尽くしている。
その姿は、俺のひねくれた目から見ても、純粋で、どこか微笑ましい。
そして、桃もまた、真司の行動を、当たり前のように受け入れているようでいて、時折、彼がしてくれたことについて、ぽつりと俺に語るのだ。
「ねえモモスケ、真司さんって、本当に優しいのよ。私、彼がいてくれないと、この会社、きっと立ち行かないわ」
そう言う時の桃の瞳は、いつも以上に輝いていた。
まるで、真司の存在そのものが、彼女にとっての光であるかのように。
俺はただ、彼女の肩の上で、小さく瞬きをする。
真司という男。
彼は、桃の傍で、誰よりも雄弁に、その感情を表現している。
言葉ではなく、行動で。
そして、その行動の全てが、桃を「大好き」と叫んでいるかのようだった。
俺の観察は、ますます面白くなってきた。
真司という男、予想以上に桃に尽くすタイプだったな。言葉じゃ伝えられない愛情を、行動で示す。人間ってやつは、本当に奥深い。従業員たちも二人の恋路を応援しているようだし、今後の展開が楽しみで仕方がないぜ。