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とある村に翼の生えた少年が生まれました。名をカロといい、淡く光を纏う純白の小さな翼を背にもって誕生した少年のことは、すぐに村人たちの知るところとなりました。話を聞いた村人たちは居ても立ってもいられず、少年の姿を見に行き、本当だと分かるとさらに湧き立ちました。少年が生まれてから数日間は、連日連夜のお祭り騒ぎだったとのことを、少年は言葉が理解できる年になるより以前から、両親に言って聞かされました。
なぜ村人たちが、これほどまでの熱狂ぶりを見せたのかと言いますと、それはやはり、村に古くから伝わる詩にあります。というのもそれはこんな詩でした。
天におわすは御使い様の
魂ちょいとはぐれてやってくる
やや子に宿りし御霊の調べ、伏してあらわる帰路への翼
それは純白はたまた天明
大器そろえて万象を統べ、願いを背に受け翼を広げ、
発ちつ飛びては天上昇り、背にした願いは祖のもとへ
村ではその昔、同じように翼を持った少年が生まれました。村人たちははじめ、大層気味悪がっており、しかしどのような危険があるかも分かりませんので、陰でひそひそと、鳥の子や化け物などと言って遠巻きにしていました。少年の両親も同様で、触らぬ神に祟りなしとして、ろくに会話もしたがりません。少年は生まれた時から一人ぼっちだったのです。
しかしながらその少年はすくすく育ち、成人が目前というところ、その村は天災に見舞われ、飢饉に陥り、伝染病で多くの人々が亡くなりました。村人たちは必死になって、毎日ところかまわずいつでも、ぶつくさと天に祈りを捧げました。その祈りを聞いていた少年は、どうにかして助けるすべはないだろうか、そんな気持ちになっていきました。少年は思いました。「この翼で天に昇り、神様に願いを届けることはできないものか」その思いに応えるように、それまで小さかった翼は見る見るうちに大きくなり、いつしか少年は飛べるようになっていたのです。
少年は村人たちを集めて言いました。
「この翼に願いを託してくれ」
村人たちはぽつりぽつり、しだいに声は大きくなってあれもこれも。少年はその言葉の一つ一つ、どれも余すことなく聞き、また全てを翼に宿して飛び発ちました。
そうして、村は救われ今日までの平和が訪れている、ということを乳飲み子から老人まで、皆が知っていました。