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決断の日

あら還を目前に、自分らしく生きたいと思った専業主婦の茉里奈。

二十数年連れ添った夫の宏忠は、挨拶しても挨拶が返ってくることはなく、日常の会話も業務連絡のような会話しかできない冷え切った夫婦の現状。

もう十分我慢した!これから先の人生、自分らしく明るく楽しく生きたい!と決意するも自立をしていない。まずは、5年をめどに自立を目指す!

その前に今の気持ちを夫に伝えるぞ!


紅葉眩しい秋の夜、夕食を終えて、ひと段落した後、探偵ドラマを見ながら三人掛けのソファーで寛いでいる主人の朝比奈あさひな 宏忠ひろしの隣に座り、私 朝比奈あさひな 茉里奈まりなは二十数年連れ添った夫に静かに声をかけた。


「少し話したいことがあるのですがいいですか。」


何だか、よそよそしい言い方になってしまったが、今ここで話さないわけにはいかない!私は思いを伝えようと声が上ずりそうになるのを必死で堪えて冷静を装った。


「え、え~と、実は前々から思っていて、中々言い出せないでいたんだけど、貴方とこれ以上この生活を続けていくのを難しいと感じています。」


今まで、ドラマをみてリラックスしていた彼の大きな目が見開いて息をのむような顔をしている。

彼は、年齢こそ五十半ばを過ぎてはいるが、目は綺麗な二重で瞳は大きく、まつ毛が長い、鼻筋はスッーと通りギリシャ彫刻のような美しい顔立ちをしている。

身長は、180cmを超える長身で、髪は英国騎士のように短髪だが白髪が銀髪のように光輝き、全体の2割ほど黒髪があるが銀髪と合わさって、綺麗なグラデーションのグレーヘアーである。

よく雑誌でみるようなイケオジである。


そんな整った彼の顔が、目を見開いて固まった。

フリーズしてしまった。。。


そりゃ~いきなり言われたら驚くわよね。。。

でも、私の中では、もう何十年と蓄積してきた思いをやっと言葉にすることができた記念すべき一日だ。

正直、よくここまで我慢した、ようやく気持ちを伝えられて偉いぞ!と自分を褒めてあげたいくらいだ。


「え?!理由はなに?」

真顔になった夫から、戸惑いを感じるような言葉が返ってきた。


「その・・・理由は、結婚して今に至るまで挨拶をしても貴方から挨拶が返ってくることはなく、たわいもない会話をしようにも、話を途中で止られて、これ以上は話さない!と言われたり、日常のなかで話したいことも話せず、生活する上で必要な業務報告のような会話しかできない状態だと私は感じています。今まで貴方から気遣うような感謝の言葉も一切なく、一緒に生活していて正直苦しいです。もう我慢の限界を感じています。」


話しをしながら声が震えがとまらない。胸の鼓動が大きくなる。

いけない!気持ちが高ぶって感情的になりそう!

ここは冷静に気持ちを伝えるのだ。

踏んばれ!茉里奈!深呼吸しろ!心の中のもう一人の私が応援する。


「え~と、これからの先の人生を考えた時に、もっと自分らしく生きたいと思いました。私は挨拶したら挨拶が返ってきて、たわいのない会話を楽しみ、互いに思いやりを持って感謝できるような関係性の中で、暮らして生きたいと思っています。

当たり前のようなことですが、今の私の貴方との生活にはないことです。とは言え、私は自立できていませんので、ここ5年くらいで自立できるようにして、新しい人生を歩みたいと思っています。」


何とか、冷静に気持ちを伝えられた。しかし、心臓はバクバクだ。もうお風呂入って寝たい!

今まで、こんな風に自分の気持ちを言う事ができなかった私にとっては、かなりの勇気が必要だった。


これから先、死ぬまで我慢に我慢を重ねて自分を抑え込んで生きたくない。


何十年と無理して合わせて、傷ついているのに、自分の心の傷に気づかない振りをして、この先も自分を誤魔化して生きたくない。もう自分を自分でいじめたくない。私は私を大切にしたい。私を守りたい。


私を大切にしてくれる人たちと心の通った生き方をしたいと心の底から湧き上がった思いをとめることが出来なくなっていた。


私の思いを聞いた夫の宏忠は、何か思考を巡らしているようで視点があっていない。

目が泳いでいる。大丈夫だろうか?


「茉里奈の気持ちは分かりました。今までの生活のなかで茉里奈にそう思わせたのは私なので、色々と気が付かず申し訳ありませんでした。ごめんなさい。」


え?!そんな簡単に受けとめてくれるの?

明日にでも出ていけ!と言われるかもしれないと心の準備をしていたのに。なんか調子が狂う。


「あ、、、えーと、私自身なんか分からない遠慮があって、色々と傷ついても気づかない振りをしていたのもいけなかったと思っています。」


彼の日常の言動は、全て無意識なのだ。だから厄介なのだ。

彼自身、どこが悪かったのか、きっと理解できていないだろう。

ただ、彼の言動で、私が何度も心が折れて、限界を感じていることは理解して貰えたようでホッとする。

この際、心が折れた言動を伝えておこう。


「結婚当初、手をつなごうとしたら無言で振り払われるし、更には、感謝の言葉も殆どないですし、

愛情表現は皆無ですよね。」


自分で話しながら、何だか虚しさが込み上げてきて声が震える。

しっかりしろ!茉里奈!


「別に期待している訳ではありませんが、私がする事を当たり前だと思って欲しくなかったです。

私は出来る限り、普段から貴方に感謝の言葉をかけ続けてきましたが、貴方がそれに答えてくれることは殆どありませんでした。」


少しの沈黙の後、次の言葉を吐き出す前に勢いがほしくて、深呼吸をした。

もう少しだ!自分で自分の背中をおす。


「これから風の時代に入るなかで、貴方とこの生活を続けていきたいか?と自分に問いかけると、このままでは自分らしく生きられないと感じました。

これ以上、自分の心に虚しさと寂しさを蓄積させたくないし、この生活に我慢して生きたくないです。」


ここまで話すと、自然と目から涙がポトポトと零れ出した。

あ~20年もの間、我慢してきたのだなぁ。よくやったよなぁ~と感慨深くなったらこみ上げるものを抑えることができなくなった。


そして、涙がポタポタ落ちている私をみて、愛犬のトイプードルのモコが心配そうに上目遣いで覗いてくる。そして、スリスリと体を擦り付けた後、クルッと体を回転させながら私にぴったり寄り添って丸くなった。彼女なりに寄り添ってくれているのだろう。

愛情表現をしてくれるモコに胸が温かくなり癒される。


私はずっと我慢してきた。

寂しさと虚しさと我慢で自分の大切な人生を終わりにしたくない!

明るく喜びにあふれた新しい人生を生きたい!私は私の使命をまっとうしたい!


「それで、今後ですが、私はご存じの通り今は専業主婦で自立ができていません。

なので、今すぐどうこうするのは難しいですが、貴方が定年退職する5年後くらいを目途に自立した生活ができるように色々と準備していきたいと思っています。

直前になって出ていきます!と言うのは違う気がしたので、今はこうした気持ちを抱えていると言う事をお伝えしておきたくて貴方にお話しています。」


ふぅ。ようやく、思いを伝えることができた。よくやった茉里奈!自分で自分をほめる。

もうお風呂入って寝たいけど、彼の思いも聞かないといけない。。。

私の話が終わると、彼は重たい空気を纏ったようにゆっくりと話し始めた。


「いろいろと話してくれてありがとう。茉里奈の気持ちはわかりました。

今まで、気づかずごめんなさい。いろいろと行き違いがあったようですみません。」


素直に謝るところは、彼の良いところよね~なんて思ったのも、つかの間、

行き違いって?何?

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