第5話「封鎖された海路」
「こちらジャンボフェリー つばさ、大阪南港へ入港許可を申請します。応答願います」
静かな船内に、船長の低く響く声が流れた。
フェリーは淡路島・岩屋港を出港し、通常なら40分ほどで大阪南港に到着する。
だが、いつもの海路を進んでいるにも関わらず、大阪港からの応答がない。
「……応答願います。こちらジャンボフェリーつばさ、大阪南港、聞こえますか?」
無線にはノイズが走り、何の返答もない。
「どうしたんですか?」
船員の一人が眉をひそめる。
船長は無線機を握りしめたまま、沈黙した。
その時、船内アナウンスが流れる。
「お客様へお知らせいたします。ただいま大阪南港との通信に不具合が発生しております。現在、状況を確認中ですので、しばらくお待ちください」
甲板では、乗客たちが大阪湾の向こうに広がる港を眺めていた。
だが、普段なら見えるはずの誘導灯が一つも点いていない。
「港が……静かすぎる……」
いつもなら賑やかに行き交うはずの釣り船が、一隻も浮かんでいない。
視線を神戸側に移すと、そこには普段通り、漁船やプレジャーボートが点在している。
──大阪だけが、不自然なほど静まり返っている。
「なぁ……これ、やばくないか?」
「誰もいない……」
ざわざわと人々の声が広がる。
やがて、フェリーの進行方向に一隻の巡視船が現れた。
船員たちが緊張する。
大阪湾を管轄する海上保安庁の巡視船だ。
「こちら巡視船“さくらぎ”。ジャンボフェリーつばさに告ぐ」
無線が突如繋がった。
「直ちに進路を変更せよ。大阪南港への入港は許可されない」
船内が凍りつく。
「許可されない……?」
「そんな馬鹿な……!」
「繰り返す。大阪南港への入港は不許可。速やかに進路を変更せよ」
乗客たちのざわめきが一気に怒号へと変わる。
「どういうことだよ!?」
「うちの家族が大阪にいるんだぞ!」
「仕事があるんだ! ふざけるな!」
混乱する船内。
だが、海上保安庁の巡視船は、フェリーの進路を塞ぐように並走していた。
船長はなおも無線を握る。
「大阪側の担当者と話を──」
「これ以上の交信は不要だ。繰り返す。進路を変更せよ」
ピッ……
無線が、切れた。
乗客の一人が、息を切らしながら駆け寄ってきた。
「船長! 神戸の方で何か……!」
ドォォォンッッ!!
突如として、神戸の方角で大きな爆発音が響き渡る。
黒煙が一気に立ち昇り、雲のように広がっていく。
「おい、何がどうなっているんだ……」
船内はパニック状態となった。
泣き叫ぶ者、船員に詰め寄る者、ただ呆然と海を見つめる者。
この異常事態を説明できる者は誰もいなかった。
船長の怒声が、泣き叫び崩れ落ちた乗客たちの上を駆け抜けた。
完全に、海の道は閉ざされたのだった。