第4話「崩壊の道路」
「……了解。予定通り、湾岸線を南下中だ。渋滞なし、進行スムーズ」
トラック運転手・滝本和也 はハンドルを握りながら、指令センターとの無線に応じた。
阪神高速湾岸線。眼下に広がる大阪湾の海面は穏やかで、午後の日差しが鈍く反射している。
「このまま大阪方面へ抜けるが、特に問題は──」
その瞬間だった。
ズドォンッッ!!!
腹の奥にまで響く爆音。
前方、視界の先で 高架橋が崩れる のが見えた。
「……っ!? なにが……!?」
トラックを咄嗟に減速させる。
ブレーキを踏み込み、ハンドルを強く握るが、車体は激しく揺れた。
反射的に前を見ると、高速道路の一部が崩落 し、鉄骨とコンクリートの塊が真下へと落ちていく。
崩落地点のすぐ後方にいた乗用車が、間一髪で停止。
だが、その直後──
ガタガタガタッ……!
突如として、道路全体が不気味に揺れ始める。
滝本のトラックも大きく左右に揺さぶられた。
「指令センター! 緊急事態だ、高速湾岸線の──」
だが、無線にはノイズが走り、耳障りな音が流れるだけだった。
「……おい、応答しろ!」
さらに目の前で道路が崩落し、乗用車が悲鳴とともに奈落へと落ちていく。
「なんなんだ、ちくしょう……!」
指令センターは無言のまま。
さらに悪いことに、トラックのナビもブラックアウトしていた。
「クソ……何が起こってる……?」
サイドミラー越しに後方を見る。
他の車両も混乱し、次々に停車している。
だが、何より異様なのは──周囲の灯りが次々と消えていくことだった。
さっきまで見えていた大阪湾沿いの和歌山市の街並みに、奇妙な違和感を覚える。
滝本はトラックを降り、下を覗き込んだ。
真下に見えるパチンコ屋の電飾が、消えている。
街灯も、信号機も、道路標識の照明すらも……すべての光が消えていく。
「……電気が……消えた……?」
まるで、都市そのものが断ち切られたような静寂。
高速道路の下では、人々が騒然とし、道にあふれ出している。
上にいるドライバーたちも、一様に不安な顔で周囲を見回している。
遠くで煙が上がり、焦げた匂いが風に乗って流れてくる。
滝本は息を呑んだ。
──何かが、おかしい。
今までの人生で感じたことのない、不気味な違和感だった。