第3話「揺れる街」
ドン……!
突如として、腹の底に響くような轟音が三宮の街を貫いた。
「……え?」
買い物袋を持ったまま、佐伯奈々(さえき なな) は足を止めた。
同時に、大地が不気味に揺れる。
ビルの窓ガラスがガタガタと音を立て、通行人たちが足を踏ん張る。
観光客らしき女性が悲鳴を上げ、近くの商業ビルから人々が一斉に飛び出してきた。
「地震……?」
立っていることができず、奈々はその場に崩れるように座り込んだ。
窓ガラスなどは割れていない。
周囲を見渡し、安全を確認した奈々は、慌ててスマホを取り出した。
画面には「圏外」の表示。
テレビの速報も見当たらない。
その時、彼女の視界に黒い煙が立ち昇る光景が飛び込んできた。
「なに、あれ……」
震える手で、もう一度スマホを操作する。
しかし、ネットにも繋がらない。
「おかしい……ニュースすら見れないなんて……」
周囲の人々も次々とスマホを取り出しているが、誰もが不安そうに画面を見つめ、顔を上げるたびに互いに首を振る。
すると、LINEの通知が一瞬だけ届いた。
開くと、
『すぐに避難しろ。』
たったそれだけの短いメッセージ。
送信者の名前は知らない人だった。
誤送信か、あるいは一斉送信されたものなのか……。
しかし、返信を打とうとしても、既読すらつかない。
「どういうこと……?」
恐怖がじわりと広がる。
「すみません、大丈夫ですか?」
奈々は近くに、自身と同じように座り込んでいる高齢の女性たちに声をかけた。
買い物帰りなのか、彼女たちは不安そうに顔を見合わせている。
「揺れがすごかったけど、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫……でも、一体何が……」
誰もが不安を口にするが、何が起こっているのか分からない。
誰も答えを持っていない。
「避難したほうがいいかもしれません」
奈々はそう言いかけたが、果たしてどこへ避難すればいいのか分からなかった。
「私たち淡路から買い物に来ていて……どこに避難したらいいかしら」
「私も姫路から来ていて……」
再び視線を向けると、三宮の街の奥で黒煙が濛々と立ち昇っている。
遠くの方から、微かにサイレンの音が聞こえる。
だが、いつもの災害時とは何かが違う気がした。
「……何も繋がらない」
この場から動くべきか、それすら分からない。
不安だけが、静かに広がっていく。