第1話「封鎖の日」
兵庫県神戸市中央区加納町
「……なんだ、いったい何が起こったんだ……」
神戸市役所の高層階から、藤井誠一は東の空を見つめた。
彼の視線の先、大阪の街が黒煙を上げている。
最初に大地震のような、地が爆ぜるような爆発音を聞いたのは正午前だった。
立っていられないほどの振動、連続する爆発音──。
現状を確認するため、部下を伴い高層階へ移動した。
だが、どこを見ても、見渡す限り黒煙ばかり。
爆発と同時に、関西圏の放送は一斉に途絶えていた。
「竹下、ニュースはどうなっている? 政府から何か発表は?」
「まだ何も……テレビもネットも全滅です。宮上、おい宮上、そっちはどうだ?」
宮上が焦りながら報告する。
「ダメです。広域災害を想定して、副知事が災害対策センターを開設しようとしましたが、横井知事の行方が分からないようで……」
藤井の表情が曇る。
「横井知事は東京での会議中じゃなかったか?」
「それが、一切連絡が取れないと秘書課が……」
「なんだ、それは……」
藤井は、沈黙する携帯を握りしめる。
画面には**「圏外」** の文字。
同時に、九州・四国の放送は通常通り流れている、という噂が広がっていた。
つまり、関西圏だけが遮断されているのか?
藤井の眉が深く寄る。
外では、警察と消防が緊急車両のサイレンを鳴らしながら避難誘導にあたっていた。
市の広報も避難所の案内を続けている。
しかし、どこにも政府からの指示はない。
「課長!」
振り向くと、20代の新人職員が駆け込んできた。
「どうした、何か分かったか?」
「いえ、確認しましたが、どこも全部……通信が……ネットも全滅です……」
新人職員は息を切らしながら報告した。
藤井の背筋が冷たくなる。
家族のことも気になるが、まずは状況把握が最優先だ。
部下も、他部署の職員も、取り乱している者はいない。
彼らは、あの震災を乗り越えてきた者たちだ。
だが、この沈黙は、震災の時とは違う。
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