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第7話 魔王ブラックフィールド ✖ 勇者ルミナス → マオくん ✖ ルミナ

「ふふっ、よかったです。最初にマオ、と呼んでしまったので、今さら黒野くんと呼ぶと、なんだか変な感じがしてしまって」


 まったく、実にもっともらしいことを言いやがる。


「あはは、そういうのあるよな。最初の印象に引っ張られるっていうかさ。一目惚れなんて言葉もあるわけだし、最初の印象ってのは大事なもんだ」


「ひ、一目惚れなんかじゃないですからねっ! マオくんの理知的で落ち着いたしゃべり方が大人っぽくて素敵かもとか、なんだか昔から知ってるような不思議な気がするとか、別にそんなの全然思ってませんからっ! ほ、ほんとですからねっ!」


 と、なぜか遊佐さんが早口でまくし立てるように言ってきた。


 両手を胸の前で左右にブンブンと振り、一息で全部言い切って酸素が足りなくなったのか、顔が赤くなっている。


「や、今のは一般論だから、別に遊佐さんがそうだとは言ってないよ」


「こ、こほん……そ、そうでしたか。あ、いえ、だからと言ってその、マオくんが大人っぽくないとか思っているわけでもなく――」


「ああうん、それも分かってる。言葉の綾だろ? そんなの俺はいちいち気にしないから」


 やれやれ。

 お互いに本心を隠しているとはいえ、まさかこんなラブコメ漫画みたいなベタなやり取りを、よりにもよって俺を殺した勇者とやるとはな。


 というか遊佐さんの演技力はすごいな。

 まるで本物の恋する乙女のようだ。


 俺も気を抜くと、つい勘違いしそうになってしまうが――、


「マオくんは本当に大人びていますよね。憧れちゃいます。人生2週目とか言われたりしませんか?」


 はい来た。

 しっかりと油断させておいて、これだ。


 1週目の人生とはつまり魔王時代のことだろう。

 ここで俺が「はい」と答え、誘導尋問でもされて余計なことをポロっと口にすれば、俺は魔王認定されてジ・エンドってわけだ。


 もちろんこんな程度のかまかけで、ボロを出しはしない。


「あはは、言われたことはないかなぁ。普通に一週目だよ。遊佐さんと同じでね」


「ルミナでいいですよ」

「え?」


「私がマオくんと呼ぶように、マオくんも私のこともルミナと呼んでくれませんか? 自分の名前、けっこう好きなんです。遊佐よりも、ルミナの方がおしゃれな感じがしません?」


 ふふふっと、遊佐さんが楽しそうに笑った。


「わかったよ、ルミナ」


 俺としては、前世の俺をぶっ殺した勇者ルミナスを彷彿とさせる名前なので、あまり呼びたくはないのだが。


 これも人気の美少女から名前で呼び合うことを許されながら、それを拒否する男子高校生なぞいないであろうことを考えれば、ノータイムで受け入れるしかない。


「ふふっ、男の子から名前で呼ばれるのは初めてなので、なんだかくすぐったいです」


「そんなこと言って、けっこう呼ばれ慣れているんじゃないのか? ぶっちゃけモテるだろ?」


「残念ながら、そのぶっちゃけは外れです。男子の友だちはぜんぜんいないんですよね、これが。だからマオくんは正真正銘、初めての男の子の友だちですよ」


 ルミナが軽く握った右手を口元に軽く当てながらクスクスと小さく笑った。


「お、おう──」


 そのあまりに可憐な姿に──それが自分を殺そうと追ってきた勇者ルミナスの転生体だとわかっていながら──俺は、思わず息をのんだ。


 知らずのうちに見惚れてしまっていた。

 なんて可憐なんで美しいんだ──――はっ!?


 い、いかんいかん!

 この笑顔に騙されて気を緩めるなよ黒野真央。


 遊佐ルミナは、魔王である俺を殺しにきた勇者の生まれ変わり。

 絶対に気を許してはならない相手だ。

 ゆめゆめそれを忘れるな。


 魔王だとバレた瞬間、俺の命は消し飛んでしまうのだから。


「急に頭を左右に振ってどうしたんですか?」


「ああいや、ルミナと友だちになれるなんて、もしかして夢でも見てるのかなって思ってさ」


「も、もう……。マオくんはけっこう口がお上手ですよね! やだなぁもう!」


 ルミナは早口でそう言うと、恥ずかしそうに地面に視線を移した。


 まるで恋する乙女が好きな人の前でするような仕草──しかも迫真の演技だ──だが、もちろんそれが俺を油断させるための演技だと、俺の明晰な頭脳は完全に見抜いていた。


 とまあ、そういうわけで。


 魔王ブラックフィールドの転生体である黒野真央と、勇者ルミナスの転生体である遊佐ルミナは、まるで運命に導かれるようにこの世界でめぐり逢い、友達になってしまったのだった。

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