第21話「えっ? あれ? あれれれ? もしかして魔王様ですか? えっ、魔王様ですよね! わわっ、魔王様だ~!」
翌日以降も、俺が魔王ではないかと疑うルミナからの積極的なアプローチが続いた。
例えば体育の時間。
「準備運動をするから、二人一組を作るように」
体育の先生の号令がかかると同時に、
「マオくん、一緒にやりましょう」
ルミナが俺のところへとやってきた。
もちろん断ることはできない。
なにかしら強い理由もなくルミナのお誘いを断れば、それだけで俺への疑惑が深まるからだ。
「いいね、やろう」
ほとんどが男子は男子同士、女子は女子同士でくっつく中、俺はルミナと組んでツーマンセルで準備運動を開始した。
両手を繋いだまま、体を横に倒して引っ張り合ったり。
背中合わせで腕を組んで、相方を持ち上げたり。
地面に座り、開脚しながら足裏をお互いに合わせて両手を引っ張りあったりと。
そのたびにルミナの身体の柔らかい感触が体操服越しに伝わってきて、俺は男子高校生のアオハルを過度に過激に刺激されてしまう。
くっ!
柔らかい感触とともに、じんわりと温もりが伝わってくる……!
さらには甘くていい匂いまでしてきた。
女の子っていい匂いがするんだな――って、いやいや!
触覚や嗅覚まで使って、俺を油断させようとしてくるとは、まったく狡猾な勇者様だぜ!
それでも俺は決してボロを出すことなく、ルミナとの仲良しこよし高校生活を上手く演じ続けていた。
ま、慣れればなんてことはない。
もちろん油断は禁物だが、明晰な俺の頭脳さえあれば、この先もルミナと付かず離れずの関係を保ちつつ、魔王であるという秘密を隠し通せるであろうことを、俺はある程度、確信していた。
あの筋金入りのバカが現れるまでは――。
◇
それはとある休み時間のことだった。
俺はルミナとともに廊下を歩いていた。
次は移動教室なので、特別棟にある視聴覚室で授業が行われるからだ。
「だいぶ慣れましたけど、移動教室は少し面倒ですよね」
「休み時間は10分しかないからなぁ。うちのクラスは校舎の端で、特別棟から一番遠いから、トイレに行ったりしてちょっとモタモタしてるだけで、ギリギリになっちまうもんな」
「ですです。忘れ物をして教室まで取りに戻ったら、間違いなく授業に遅れちゃいますよね」
「しかも移動教室って時々しかないから、どうしても忘れ物が出やすいんだよな。行動がルーティン化されていないからさ」
「実になるほどですね。マオくんは物事の説明が上手ですよね。いつもすごくわかりやすいです」
「あはは。別にこれくらい普通だから」
「そんなことありません。きっと頭がすごくいいんだと思います」
「うちの高校は学区内のランク2番手校だろ? 俺もその程度だよ」
「そうでしょうか? そんなことないと思いますけど」
ルミナが歩きながら、やや納得いかなさそうに小首をかしげた。
やれやれ、「魔王のように頭がキレますね?」とでも言いたいのか?
俺にプレッシャーをかけているつもりだろうが、残念だが俺の冷徹な頭脳の前にはまったくもって無意味だな。
「ま、頭がいいって褒めてもらえるのは、素直に嬉しいかな」
俺は移動教室の時に当然のごとく、
「一緒に行きましょうマオくん」
と誘ってきたルミナの友達作戦を、笑顔で受け流していたのだが――。
「えっ? あれ? あれれれ? もしかして魔王様ですか? えっ、魔王様ですよね! わわっ、魔王様だ~!」
校舎内を移動中に偶然、前から歩いてきた女子生徒から、俺は「魔王様」と呼び止められてしまったのだ――!




