第20話「ベリーグーです♪」「ベリーだけにな」「……えっ? あ、はい」
「あはは、それじゃあ本心を全部言っちゃってるよ」
俺は前世のことを思い出しているなんてことは微塵も見せずに、ルミナに笑いかける。
「あっ、はうぅ……」
ルミナが顔を真っ赤にして俯いた。
くっふぉあああ!?
なんだこいつマジのガチで可愛すぎんだろうがよぉぉぉぉ!!!!
――なんてことはやはりおくびにも出さず、俺は笑顔でルミナに語りかける。
「よかったら俺のクレープも一口食べるか?」
「いえいえ、お腹がペコペコな真央くんのクレープを貰うわけにはいきませんから」
「別に一口くらいたいした量でもないだろ? ほい、どうぞ」
まさかヤンチャな小学生男子みたいに、一口と言って大きな口でかぶりつく、なんてことはルミナはしないだろう。
俺が差し出したクレープを、ルミナは少し見つめた後、言った。
「でしたらお互いに一口交換とかどうでしょうか?」
言いながらルミナが自分のクレープを俺の顔の前へと差し出す。
その顔はまだ赤いままだ。
前世では互いの眼前に剣を突き付けあった魔王の俺と勇者のルミナ。
しかも俺は最終的に腹に聖剣をぶっ刺された。
そんな仇敵の2人が、現代ではまるでカップルのように、甘いクレープを「どうぞお食べください」と互いの口元に差し出しあっている。
まるで運命のいたずらだ。
そのことがどうにも可笑しくて、
「ははっ――」
俺は思わず小さな笑い声を出してしまった。
「な、なんで笑うんですか」
赤い顔のまま、抗議するように上目遣いでつぶやくルミナ。
「や、ごめん。ルミナのことを笑ったんじゃないんだ。クレープをお互いに突き付けあっている姿を想像したら、なんだか可笑しくてさ。周りからも結構見られているし」
フードコートのお客さんの幾人かが、俺たちに野次馬のような視線を向けているのだ。
俺の言葉に、ルミナが左右をちらちらと見た。
「たしかに、冷静に考えると今のこの格好はちょっと恥ずかしいかもです」
「な?」
ま、俺はだいぶ前から周囲の視線には気付いていたがな。
アイドル級に可愛い美少女ルミナは、ただでさえ目立つ。
それがバカップルみたいなことをしていたら、目立つなという方が無理だった。
しかしここでうだうだしていたらもっと目立つ。
ルミナも同じことを思ったのか、俺たちはほぼ同じタイミングで目の前に差し出されていたクレープを一口、ハムっと咥えた。
「はむ、はむ……美味しいです。うっすらと感じる酸味が、甘さをさらに引き立ててくれますね。ベリーグーです♪」
「ベリーだけにな」
「……えっ? あ、はい」
つい口走ってしまった一言で、その場の空気が恐竜を絶滅させた大寒波のごとく凍り付いたのは、言うまでもなかった。
その後、クレープを食べ終えると軽く雑談して、今日はお開きとなった。
その後、ルミナと別れて家に帰った俺は、自室に戻ると制服を雑に脱いで部屋着に着替えると、身体を投げ出すようにしてベッドに倒れこんだ。
「もしこれがラノベなら『序盤が長すぎる』って読者から言われてしまうくらいに、濃密すぎる一日だったな……」
魔王覚醒後の勇者との息詰まる神経戦に疲れ果てた俺は、ホッとしたのもあって猛烈な睡魔に襲われてしまい、晩御飯の時間に母親に起こされるまで、そのままベッドで泥のように眠ったのだった――。




