第19話 千載一遇のブルー・スプリング・ビッグウェーブ!
「はい、取れました」
ルミナの手が、俺の頬を拭うように軽く触れた。
頬に触れた柔らかい感触に、胸がドキドキドキ! と激しく高鳴る。
「あ、ああ。さ、サンキュー」
しかもルミナは右手の人差し指で救ったクリームを、ペロッと小さく舌を出して舐めとると、
「美味しいです♪」
これまたとびっきりの笑顔を向けてくるのだ。
ドキドキドキドキドキドキドキドキ――!!
ルミナの行動に、俺の中の男子高校生が今だかつて経験したことがないほどに激しく動揺してしまう。
か、可愛いじゃねぇかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!
知ってたけどな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「どうしました?」
「あ、いや、なんでも……」
動揺しすぎて言葉が出てこなくて、俺は言葉を濁した。
くっ、自分の可愛さをこれでもかと利用して、俺の心のガードを下げさせようとしている!
油断したところを一刺しするつもりなんだろう?
ルミナ、お前の魂胆は全部分かっているんだからな!
だが分かっていても、俺の中のアオハルな男子高校生は、過剰反応してしまうんだよぉぉぉぉ!!!!
もし、ルミナが勇者でなければ。
もしくは、俺が魔王でなければ。
全力で飛び乗る千載一遇のブルー・スプリング・ビッグウェーブなのに──!
なんてことを思いつつ、ドキドキをルミナに悟られないように必死に平静を装いながらクレープを食べていると、
「じー……」
ルミナの視線が俺の3種ベリーのレアチーズケーキに向けられていることに、俺は気が付いた。
なぜ気付いたかというと、ルミナの計略をずっと警戒し、その一挙手一投足を観察していたからなのだが。
ルミナの視線は明らかに俺ではなく、俺の手元へと向いている。
その視線の意味するところといえば――。
「3種ベリーも美味しいぞ? 良かったら、一口食べるか?」
俺はルミナの意図を完璧に読み取って、そう提案した。
「え、いいんですか!? あ、いえ、別にそういうつもりで見ていたわけではないと言いますか! さっき舐めたクリームに付いていたベリーが甘酸っぱくて美味しかったなぁとか、別にそういうことは思っていませんので!」
図星を指されて恥ずかしかったのか、ルミナがそれはもう、とてつもない早口で言い訳をした。
人間の口ってこんなに早く回るんだなぁ。
ああ、あれか?
前世の勇者ルミナスが得意としていた超高速詠唱の賜物か?
俺は前世の記憶に思いをはせる。
無意識に息を吸うように、無詠唱で魔法を使うことができる魔族と比べて、長々とした詠唱が必要な人間は、特に魔法戦では圧倒的な不利を背負う。
だから人間は長きに渡る魔族との戦いの中で、詠唱の無駄を徹底して省いた高速簡易詠唱を編み出し、さらには魔法具による詠唱の一部代替によって、その不利を補ってきたのだが。
しかし勇者ルミナスは、超絶早口で一瞬で全ての詠唱を行うという、誰にも真似できない強引な力技でもって、SSSランクの聖光魔法ですらほぼノータイムで発動するというキ〇ガイじみた超高速の魔法詠唱を行っていたのだ。
俺も勇者ルミナスの超高速詠唱を初めて見た時は、無詠唱だと勘違いして、「こいつもしかして魔族じゃないのか?」と思ったものだ。
それはさておき。
なるほど、勇者ルミナスの記憶や技を取り戻しているのなら、これくらいは早口のうちにも入らないか。
(ここまで0.5秒)




