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第10話 「だよなぁ!話わかるじゃん」「ふふっ、私たち気が合いますね」

「高校の勉強は大変です。授業は難しいですし、宿題も多いです。マオくんは好きな教科とかありますか?」


「俺は数学だな。暗記系と違って、覚えなくていいのが楽だ」

「ふふっ、なるほどです」


 俺のストレートな物言いに、ルミナがクスッと笑った。


「だいたいさ。あそこまで細かく名前や年号を覚えても仕方なくないか? 今は調べたらすぐにわかる時代だろ?」


「それもすっごく納得ですね。大事なのは名前や年号それ自体よりも、どういう流れで何が起こったか。つまり理由と結果ではないでしょうか?」


「そう! そうなんだよ! 大事なのは過去の事例から学び、それを未来にどう生かすかであって、細かい年号を覚えることじゃあないんだ」


「過去の失敗を繰り返さない。よりよい未来を創るための知識を得る。そのために歴史を学ぶわけですね」


「そういうこと! 話わかるじゃんルミナ!」

「ふふっ、私たち気が合いそうですね、マオくん」


 妙なところで意気投合した元魔王の俺と、元勇者のルミナだった。


「逆にルミナの好きな教科は? 今の言い方だと多分、歴史以外なんだろうけど」


 せっかくなので同じことを聞き返してみる。


 ルミナの個人情報は、俺の命に直結する最重要事項だ。

 何が役に立つかわからないからな。

 どんな些細なことでも知っておきたい。


「私はぶっちぎりで体育ですね。身体を動かすのが好きなんです」


「いやいや。こういうのって普通は、英・数・国・理・社の主要教科で答えるもんじゃないか?」


「それで言うなら、どれもあまり好きではないですねぇ。頭を使うのは不得手なので。やはり体育で身体を動かすのが一番楽しいです」


「あはは……」


 やっぱり勇者は勇者か。

 少しは知略というものを使うようになったと思ったが、それでもやはり本質的には頭を使うよりも、肉体言語のほうが好みのようだ。


 というか、本当に何でもない会話すぎて正直、拍子抜けした。


「まぁ、中学まではそうでもなかったんですけど」

「そういや中学までは目立たない女の子だって、クラスの誰かが噂してたな」


「春休みにいろいろありまして、いわゆる高校デビューですね。ふふっ」

「いろいろ、ね……」


 ルミナはおそらく春休みに、勇者だった前世の記憶と取り戻したに違いない。

 俺がカツアゲされて突き飛ばされた時に、魔王としての前世の記憶を思い出したよ

うに、ルミナも何らかの原因で前世の自分を思い出したのだろう。


 なにが原因だったのかは聞いてみたくはあるが――これに関しては完全に興味本位だ――前世の話と直結する話なわけで、さすがにまずい展開になる可能性もある。


 藪をつついて蛇を出す必要はないだろう。

 この話題はお口にチャックだ。


「えっと、どうしました?」


「ああいや、なんでもないんだ」


「遠慮せずになんでも聞いてくれていいですよ? 初めての男の子の友だちなので、特別サービスしちゃいますから」


「いやほんと、なんでもなくてさ。ルミナが高校デビューしてくれたおかげで、こうやって仲良くなれたのかなって、ちょっと思っただけなんだ」


 ふふん。

 さっきからどうよ、俺の演技力は?


 人気の女子と仲良くなれてちょっと調子に乗ってる男子を、見事に演じているだろう?

 まぁ今の俺の人格の大部分を占める黒野真央の本心でもあるので、さして難しくもないのだが。


 ちなみに100%嘘を言っているわけでもない。


 ルミナが勇者に覚醒さえしなければ高校デビューもなかったし、俺の持つ闇の魔力に気付くこともなく、俺が今されているように、ルミナから友だちという名の鎖で束縛され、危険人物として監視されることもなかったのだから。


「はわっ!? も、もう! 本当にマオくんはおだて上手ですね! どうせ私以外にも、いろんな女の子に言ってるんでしょう? そういうのは、よくないんですからね! ぷんぷんです!」


 そしてルミナの演技もまた見事だった。

 どこからどう見てもただの女の子だ。


 ま、頭脳明晰な俺にはその程度の演技、全てお見通しだがな。

 騙されることはあり得ないぜ?


「いやいや、他の女子には言ってないから。そもそも、俺も女の子と仲良くなるのは初めてだからさ」

「マオくんはすごく大人びていますし、話も面白いですし、かなりモテそうですけどね?」


「学校で一番可愛いって噂されているルミナにそう言ってもらえるなら、少しは自信にもなるかな」


「だからそういうのをサラッと言っちゃうのは、よくないと思うんですけどぉ!」


 ルミナが顔を赤くしながら、プイっとそっぽを向いた。


 くっ、なんだこいつ!

 言動がいちいち可愛いすぎるんだよ!

 勇者じゃなかったら完全に惚れとるわ!


 その後も、俺とルミナは「友達」が行うような軽妙なやり取りを――魔王と勇者というお互いの本心を隠したままで――いかにもそれっぽく続けながら、俺たちの教室へとたどり着いた。

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