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第1話 蘇る『前世の記憶』

 異世界ラビリントスの最果てに、魔界と呼ばれる暗黒大陸はあった。


 分厚い雲が太陽の光を遮断するせいで植物はろくに育たず、どこまでも荒野が広がる不毛の大地だ。


 その最奥にある魔王城の最上階『玉座の間』にて、この日この時この瞬間。

 勇者ルミナスと魔王ブラックフィールドによる、最後の決戦が行われていた。


『ククク、アーッハハハハハハ!』


 玉座の間に、部屋の主である魔王ブラックフィールドの哄笑(こうしょう)が響き渡った。


 筋骨隆々の褐色の肌。

 鋭い目付きにふてぶてしい顔。

 黒い鎧に、漆黒のマント。


 これぞまさに魔王といったおどろおどろしい出で立ちだが、その身体は至るところに深い傷を負っており、なによりその腹には一本の美しい剣が深々と突き刺さっていた。


 それは勇者ルミナスが女神アテナイより与えられた聖なる剣――聖剣。

 その聖剣が魔王ブラックフィールドの腹をグサリと貫いていたのだ。


 魔王ブラックフィールドの口元から一筋の血が流れ落ちる。


『この状況で何を笑っている?』


 魔王の身体に聖剣を突き刺した勇者ルミナスは、邪悪を焼き清める聖光魔法を、魔王の身体の中へこれでもかと流し込みながら、いぶかしげに問いかけた。


 そんな勇者ルミナスは、流れるようなサラサラの金髪と、女神のごとき端正な顔立ち、出るところは出た魅惑的な身体を、神の奇跡と同クラスと言われるほどの強大な聖なる加護が付与された白銀の鎧に包んでいる。


 しかしその身体は、魔王同様に満身創痍でボロボロ。


 神の加護を受けし最強の鎧も、そのいたるところに大きな傷や、強大な魔法攻撃を受け止めたことで魔力焼けした跡があり、2人の戦いがいかに激しかったかを、雄弁に物語っていた。

 

 それでも勇者ルミナスはボロボロになりながらも、残された最後の力を振り絞って、魔王ブラックフィールドに止めを刺さんと、決死の思いで聖光魔法を発動する。


 残された力を必死に振り絞る勇者ルミナス。

 しかし魔王ブラックフィールドは、そんな彼女をあざ笑うように言った。


『ククク、これで勝ったつもりか? おめでたいな。だが俺は死なん。転生の秘術が発動したからな。この身体はここで終わるが、俺の魂は違う身体へと転生し、再び魔王として新たな生を得るのだ! ハハハハハハ! 貴様らの頑張りすぎだ!』


 転生の秘術。

 それは生あるものは必ず死という形で終わりを迎える──そんな神の作りたもうた絶対のルールをねじ曲げる、背徳の暗黒魔法。


 実質的に己の死をなかったことにしてしまう禁断の秘術を、魔王ブラックフィールドは発動していたのだ!


 勇者ルミナスはあまりに強く、ついに魔王ブラックフィールドは討たれてしまったが、魔王には転生の秘術によってやり直すチャンスが残されていた。


『それはどうかな?』

 しかし勇者ルミナスは、それがどうしたと言わんばかりに不適に微笑んだ。


『強がっても無駄だ。お前は俺とともにここで死ぬが、俺だけは新たな場所で再び生を得る。つまり俺の勝ちだ!』


『転生魔法によって貴様の魂がどこへ行こうとも、勇者である私は、必ずお前を追いかける。そして魔王、もう一度お前を殺す!』


『ふん、やはり負け惜しみか。いったいどうやって俺を追おうというのだ? 俺の魂は誰も知らぬ新たな器の中に蘇る。追いかけられるものなら追いかけてみろ。そもそもお前はここで死ぬのだから、追いかけようにも追いかけられんだろうがな――――な、なにっ!? なんだこれは、バカな!?』


 しかしそこで、今まで勝ち誇っていた魔王ブラックフィールドが一転、顔色を驚愕に染めた。


『ようやっと気付いたようだな、愚かな魔王め』


『こ、これは!? くっ、俺の転生魔法が外部から介入されているだと!? どういうことだ!? 勇者と言えど矮小(わいしょう)な人間ごときが、最強の魔族たるこの俺が編み出した禁断の秘術に、こうも易々と介入できるはずがない! くそがっ! 勇者、貴様! いったい何をした!』


『私の力ではない。これは偉大なる女神アテナイの力だ』


『女神アテナイの力だと?』


『女神アテナイは、貴様が死の間際に転生魔法を起動することも、お見通しだったのだ。そして転生魔法に介入することができる特殊な神聖魔法を、私に授けて下さったのだ』


『なんだと!? 俺の転生魔法に介入する神聖魔法だと!?』


『たしかに転生を完全に止めることはできない。だがしかし! ならば貴様とともに私も転生すればいいだけのこと! 貴様の転生先に私も一緒について行く!』


『なにィ――っ!?』


『たとえ貴様がどこへ逃げようとも! 神の定めた絶対のルールを破らんとする者を! 無法の限りを尽くす悪逆の徒を! 世界の守護者たる女神アテナイは決して許しはしない!」


『ま、待て! バカなことは止めろ! この転生魔法には、2人分の魂を転生させる力はないんだぞ! これでは何が起こるか分からん! 最悪、転生に失敗して2人とも死ぬぞ!?』


『私はもともと、貴様と相打ちしてここで死ぬ定めだった。そんな私が、今さら転生の失敗など恐れるとでも思ったか?』


 勇者ルミナスが不適に笑った。


『くっ、くそが――! 神に仕えるしか能のない、神の言葉を盲信するだけの狂信者めが! この世界は、この世界に生きる者の物だろうが! 決して神のものではない!』


『なんとでも言うがいい、愚かな魔王よ。それで、どうする? 転生魔法を中止してここで仲良く私と死ぬか? それとも何が起こるか分からない転生魔法に、最後の望みをかけるか? 私はどちらでも構わないぞ?』


『クソが! クソがクソがクソがぁぁぁぁぁっっっっ! 下手をすれば知能ない虫けらや、ドブの中で生きる野ネズミに転生してまうではないか! この俺が! 最強の魔王ブラックフィールドが!! ありえん! ありえんありえんありえん!!』


『ははっ。神を冒涜する貴様には実に相応しい結末だな』


『お前も俺と同じ目に合うというのに、この筋金入りの狂信者めが……!』


『なんとでも言え、愚かな魔王よ』


『だがしかし、死んでしまってはそれこそどうにもならん! 死ぬよりはまだ、博打を打つ方がはるかにマシなはず! ええい、ままよ!』


 こうして魔王ブラックフィールドは、勇者ルミナスとともに転生の秘術によって新たな器へと転生した─―――


 ――――などという『前世の記憶』を思い出したのは俺――黒野真央くろの・まおが日本で高校生になってすぐ。


 柔らかな風に桜がふわりと舞う、春の始めのことであった。

新作をお読みいただきありがとうございます!(≧◇≦)


気に入ってもらえたら、

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執筆の励みになりますので、なにとぞ~(*'ω'*)

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