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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

気持ちを切り替え、異世界で頑張りま〜す

_王立魔法学園 1年生の教室


「マリア!」

 休み時間になるといつも来る、短い金髪に碧眼の王太子アルバート様が()の名前を呼びながら、私の机の前に立つ。

「どうしたの、アル」

 フワッとした腰まである茶髪に緑色の瞳。

身長は低めで、小首を傾げる姿はまさに小動物の様な愛らしさがあった。

名をマリア・ヴィンテンと言う。


(目尻は低く、垂れ目みたいに見せないと。緑色のカラーコンタクトを着けてるし、染毛料で髪も染めてる。ヘアアイロンでフワッと感も出しているんだから、これで可愛らしさはカンストする筈よ。あぁ、それと声も可愛く、地声は絶っっ対に出さないようにしないと…!)


「マリアは本当に可愛いなぁ」

 その様子を見て、クラスメイトのアルの婚約者が睨んでくる。

「か、可愛いなんて…恥ずかしいです…♡」

 私は照れる振りをする。

「フフッ、そういう所も可愛いよ♡」

 頬を1回だけ突く。

「キャッ、もうビックリしちゃうじゃないですか〜!」

「ははは、ごめんね」

 アルは婚約者がいらっしゃるのに私に向けてデレデレとした表情を向ける。


(ひっ、気持ち悪い…!でも…お義父様とお義母様が王太子達を引っ掛けて来いって言ってたし…出来なきゃ…私、今度こそ家を追い出されちゃうかも…) 


_放課後 空き教室


「平民上がりの子爵令嬢如きが、アルバート様に話しかけられただけで図に乗らないで!!!」

 ゴテゴテした赤色の薔薇をあしらったドレスを纏っている。長い金髪を縦ロールにした公爵令嬢が私に向かって怒鳴っている間に、公爵令嬢の取り巻き達が私を殴ったり蹴ったりしてくる。


(あぁ、いつものだ…)


「私はアルバート様の婚約者。貴方の家を潰すのは簡単なのよ!!!」

 サァっと顔が青ざめていく。


(お義父様とお義母様に迷惑を掛けたりしたら…また、折檻される!!)


「それだけは…止めて…下さい…」

 地に伏し、土下座をする。

「分かったわぁ。でも、条件があります」

「な、何でしょう…?」

「私の靴の裏を舐めなさい」

「そ、れは…」

「嫌、なんて言わないわよね?」 

「……はい」

 差し出して来た靴を舐めようと覚悟を決めた時…

「何をしている!!!」

「あ、アルバート様…!ち、違うのです!!卑しい下民が私をこの部屋に連れ込み、虐められている振りをしているだけなのです!!!」

「一部始終を見させてもらっていた。ガッカリだよ、エリザベル」

 『エリザベル』とはこの公爵令嬢の名前だ。


(見ていたなら助けてよ…!私、殴られたり蹴られたりしてたんだよ…!?)


「違いますのよ!!!私はこの子を虐めてなんかない!!!ほら、貴方も何とか言ったらどう!!?」

「私は…」

 ギロッと公爵令嬢が睨んでくる。

「虐められてはいません…」

「そうなのか…?」

「だから、言いましたでしょう?これは遊びなのです」

 一言も『遊び』とは言っていない。

「そうか…遊びか。なら、良いか!」

 アルは少し頭のネジが緩いのだ。


(これが、遊びなの…?)


「〜〜〜〜〜!」

「〜〜〜〜〜」

 2人が話している声はするのだが、内容が聞き取れない。


(この日常はいつまで続くの?)


「〜〜〜〜♡」

「〜〜〜♡」

 2人は婚約者らしくイチャイチャしだした。


(私は、何なんだろう…?)


「〜〜〜〜」

「〜〜〜!」

 取り巻き達もそれを見て好き勝手に話しをする。


(はぁ、もういいか)


 持っていた鞄からカッターを取り出す。

「〜〜〜!!?」

「〜〜〜〜!!!」

 アルバート様も公爵令嬢もその取り巻き達も酷く驚いていた。

 チキチキと刃を出し、制服を第2ボタンまで開け、顕になる首元にカッターを添える。

「バイバイ。来世ではもう、貴方達に会いたくない」

 カッターを持つ手に力を込める。

「「「マリア!!!」」」

 取り乱し叫ぶ声だけが耳に残った。

 ゴボゴボと口から気泡が出て紅い水の中に体が沈んでいく。

目を開け、周りを見ると映画のように()()の記憶が流れていた。


洋服を作るのが趣味の優しい母に手芸を初めて教わった日。

公務員の厳しい父が頬を緩め勉強を頑張ってるご褒美だ、とケーキを買って来てくれた日。

()を可愛がってくれた祖母が死んじゃった日。

幼馴染に誘われて剣道を始めた日。

幼馴染が日常的に虐めに会い自殺した日。

女だからって理由で剣道で馬鹿にされた日。

母が病で倒れ、入院した日。

父が頑張り過ぎて狂っちゃい、車で海に突っ込んだ日。

母は嘆き、私を父の代わりにした日。

()が男として生きると決めた日。

僕は父の口調や仕草を真似して母を元気付けた日。

母が心の病に食い尽くされて死ぬ前に一言呟いた。

【アナタナンテ、ウマナキャヨカッタ】


 ゴボゴボとまた、口から気泡が出る。


(僕はもう…生きている意味が無い…)


_でも、死にたくは無い


(何て、中途半端なんだろう。漫画の主人公みたいに生きる覚悟を決めて前向きに過ごすとか、死ぬ覚悟を決めて大切な人を守るとか)


_選ばれた人しか出来ない、夢物語だ。


(凡人は凡人なりに、来世を謳歌する事にしよう)

 

 スッと瞼を閉じた。

「マリア!!」

 アルバート様の声がした…気がする。

「…?」

 ゆっくりと瞼を上げる。

そこは、外向け用の僕の部屋だった。

アルバート様は僕が寝ているベッドの近くにある椅子に腰掛けていた。

「生…きて…る…!」

 

(傷口が塞がってる…どのくらい寝てたんだろう?)


 ペタペタと自分の首を触る。

「あぁ、良かった!!」

 デレデレとした顔で平たい胸をみてくる。


(あぁ、寝巻きだからか。だが、)


「キモ」

「え?」 

「未婚の女性に向ける目?それ」

 かぁっと顔を赤くする。

「お、俺はお前を心配して…」

「だから?」

「この俺が、わざわざ見舞いに来たんだぞ!!!?」

「はいはい。あざ〜〜っす」

 滅茶滅茶軽い態度で返す。

「っ!!!」

 アルバート様は怒りを懸命に堪えている。

「じゃっ」

 僕はベッドから起き上がり、風呂場に直行する。


(今の記憶もあるからか、風呂場が何処か分かる)


 酷いな扱いしかしないお義父様とお義母様には挨拶せず、風呂場に入り体を流し、染毛料も洗い流す。


(ヘアマネキュアだっけ?それで良かったぁ。洗い流しただけで直ぐに落ちるってゆー優れものだったよね〜)


 風呂から上がり、カラーコンタクトを外す。


「寝たまんまの傷病人にカラーコンタクトとヘアマネキュアつけっぱって引くわぁ」

 ストレートの長い赤髪に光り輝く金の瞳。

「邪魔だし髪を切りたいな…」 

 ポツリと独り言を零す。


(フフッ、これでマリアの仇を討つぞぉ!!!)


ザワザワ


(良い感じに注目を浴びてるね)


 制服のロングスカートを切り、それを使ってスラックスにした(服を作るのは前世で母の折り紙付き)。

上着は男女同じな為、手を着けなかったがそれでも効果は抜群だろう。


(ここは、ヨーロッパみたいな世界だから女性が男性みたいな服を着ている人は少ないはず)


 注目を浴びたまま、アルバート様とエリザベル様がいるであろう教室に入る。

「マリア…?」

 アルバート様は動揺している。それはそうだろう。髪色と目の色が変わっているし、何より自作のスラックスを履いているんだから。


(一応好きだから分かったのかな?)


 化粧もしない、口紅も塗らないで来た為、知り合いでも分からない人が多い。

「皆さん!!!!」

 いつもの可愛い声で出来る限り大きい声を出す。

淑女らしからぬ、声で叫んだ為、『何だ何だ?』と注目が更に集まる。

「皆様がご存知の通り()は王太子アルバート様と話す回数が増えています。その件に関して婚約者様であるエリザベス様は勘違いをなさってしまい私を虐めてきました。当たり前です。私もエリザベス様の立場であったら虐めるでしょう。ですので、私は声も出さずに耐えていました」

 先程とは打って変わって悲しそうな声を出す。

皆の視線が僕、アルバート様、エリザベス様、僕の順に変わる。

「私はアルバート様とエリザベス様の仲を勘違いで引き裂く事が耐えられなくってしまい…!先日首をこれで切ってしまいました…」

 件の血が着いたカッターを取り出す。

ザワザワと『そこまで追い詰めるなんて王太子、サイテー』『エリザベス様もこんな健気な方を虐めてたなんて』と周りの方と話し始めた。

「違う!!勘違いなどでは無く、俺はお前の事が好きなんだ!!!」

 アルバート様が叫ぶ。

ジトッと周りの目がアルに向く。

「私はそれに答えられません。淑女の鑑と呼ばれているエリザベス様の代わりなんて私では、勤められません…」

「それでも良い!!だから、俺の側妃に…」

「なりません!!!」

 次はエリザベス様が叫ぶ。

「エリザベス!お前は黙っていろ!!」

「黙っていられません!」

「大丈夫です、エリザベス様。私は貴方様に近い椅子など座れぬ身。ですが、身を引いたとてアルバート様は諦められないでしょう」

 こくんこくんと首を縦に振るアルバート様。   

「ですので…」

 血だらけのカッターを取り出す。

「「「!!!?」」」

 長い赤髪を1つに束ねる。

「私はアル(貴方)が大嫌いでした」

 ザクッと髪を顎より短く切った。

切れた長い髪を、昨日夜な夜な練習した炎魔法で燃やし、灰にする。

「これで、『マリア・ヴィンテン』は死にました」

 低くてコンプレックスだった地声を出す。

「僕は()()()()()・ヴィンテン!!マリアの生まれ変わりだ!!!」

 演劇の主役の様に声を張り、周りを更に注目させる。


(前世が演劇部で良かった)


 僕に圧倒されて皆、黙っている。

「ま、マリア…?」

 アルバート様が恐怖の目で僕を見てくる。

「アイザックです。殿下」

「で、殿下なんて畏まらないで、いつものように『アル』と呼んでくれ…!」

「生まれ変わった僕に『いつも』なんて無いです」

「そ、んな…」

「1つだけ覚えておいて下さい」

 耳側まで近寄る。

「貴方がマリアを殺したんです」

 絶望する殿下。

その表情に僕の中の『マリア』がザマァ見ろと喜んでいる。

「マリア…」

 踵を返し自分の席に着く。


(後で灰を魔法で回収しとこっと)


「マリア…マリア…!」

 結局、殿下は授業を受けず帰って行ってしまった。


(これから、どう生活しようかなぁ…でも)


_僕は僕らしく、生きれたら良いな

☆、良いね、感想をよろしくお願いします!!


追記・ESN大賞7に応募させて頂きました…!

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