6 冥官の職務
「さて問題です、閻魔様は裁判をするとして、我々は何をするのでしょうか?」
一緒に久場の話を聞いていた阿佐美が、突然小野に質問してきた。小野は慌てて考える。
「えっと……」
「ブッブー、はい、不正解!」
1秒もしないうちに不正解認定されてしまった。まあ、実際分からなかったけど。
「では正解は、司命様からどうぞ!」
「え? いきなりだなあ」
阿佐美の無茶振りに笑いながら、久場が説明を始めた。
「我々の仕事は、大きく分けると、閻魔様の裁判の事前準備とフォローアップだね」
「まず、簡易判定で天国行きを判断できなかった人の一生の記録を精査して、『天国相当』か、別の人生を経験して臨終時幸福度を上げてもらう『援助相当』か、あるいは『地獄相当』かを検討する」
「次に、その検討結果を閻魔様に報告して、判断を仰ぐ。そして閻魔様の判断に応じて、正式な裁判をしたり、我々で決定の言い渡しを行ったりする」
「その後、並行世界で臨終時幸福度が上がる人生を送れるようにサポートする、とまあこんな感じだね」
なかなか大変な仕事のようだが、まだ分からないことだらけだ。
小野は質問してみることにした。
「大変そうですね……ちなみに仕事の分担はどのようになっているのでしょうか」
久場が答える。
「記録の精査や取りまとめ、並行世界の人生の流れの監視等を、司録と司録付が行うことになっているよ」
「そして、閻魔様の判断結果を対象者に伝えたり、並行世界まで赴いて人の幸福度を上げるサポートを行うのが、司命と司命付だね」
「こんな大変な仕事なのに、司命様は、司命付がいないだけでなく、司録も兼務してたのよ。凄いでしょ?」
阿佐美が自慢気に言った。小野は素直に驚く。
「ほんと司命様は凄いんですね」
「慣れだよ慣れ。あ、私のことは『久場』でいいよ。阿佐美さんは趣味で『司命様』なんて呼んでるだけだから」
「だって、何だか格好良いでしょ」
そう言って阿佐美が笑った。久場も笑う。
「ははは。さて、小野君には、さっきの改心した強盗殺人犯のサポートから対応してもらおうかな」
久場がそう言うと、阿佐美と小野の顔をそれぞれ見て言った。
「とはいえ今日は初日だし、仕事はここまでにして、これから小野君の歓迎会でもしようか」
「賛成! お店予約します」
阿佐美がソファーから立ち上がり、スマホでどこかに電話した。
† † †
「それじゃ行きましょう!」
阿佐美が執務室のドアを開けた。その先は廊下ではなく、何故か和風の居酒屋になっていた。
入り口の暖簾には「居酒屋えんま」と書かれていた。
小野達3人は暖簾をくぐった。とても広いお店で、数多くのテーブルで様々な服装の冥官が飲食していた。
中には先程法廷で見た大きい牛頭と馬頭の鬼もいた。大きいテーブルと椅子を使って、体の大きさが全然違う他の冥官と楽しそうにお酒を飲んでいる。
「お、鬼がいるんですが……」
驚く小野に、久場が笑顔で答える。
「ああ、あれは、ある異世界の管轄庁の冥官だよ。その世界の種族は、たまたま鬼の姿をしてたんで、閻魔庁に出向してもらって廷吏の仕事をしてもらってるんだ」
3人は、和服姿の店員に案内されて、テーブル席に座った。久場と阿佐美が向かい合って座り、阿佐美の右隣に小野が座った。
「小野君は、享年は20歳以上だったっけ? お酒は飲めるの?」
阿佐美が聞いた。テーブル近くの壁には「お酒は享年20歳から。享年20歳未満の方は応相談」と書かれている。小野が答える。
「はい、ちょうど21歳になったばかりでした。お酒は嗜む程度です」
「了解! それじゃ、好きなの頼んでね」
そう言うと、阿佐美が小野にメニューを渡した。ごく普通の居酒屋メニューだが、「チーズ地獄」とか「血の池ジュース」等々、気になる名前もある。
小野は、レモンサワーを頼んだ。久場は「鬼撃沈」という日本酒を、阿佐美は「血の池ジュース」を頼んだ。ブラッドオレンジジュースらしい。食べ物は阿佐美が慣れた様子で適当に注文していた。
ほどなくしてお酒とお通しが来た。3人は乾杯した。
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