表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/42

41 橋のたもと

 サラエボ市庁舎前の車列に、続々と人が乗り込み始めた。小野とワタルは、姿を消して、大公夫妻の乗る車、前から3台目のオープンカーのすぐ近くで待機する。


 大公夫妻が車の進行方向右側の市庁舎から出てきた。車に乗り込む。


 車は右ハンドルだ。大公が助手席の後ろ、後部座席左側、ゾフィーが右側に乗り込む。総督は助手席に、随行1名が大公の横、車の進行方向左側、川側の乗降用踏板に立って乗った。


「よし、行こう」


 ワタルが小声で言った。小野がワタルの手を持って車に近づく。二人は、随行の逆側、車の進行方向右側、庁舎側の乗降用踏板に立って乗った。ワタルが前側、小野が後ろ側だ。


 車列が出発した。運転手は、車がかなり重く加速しないことを(いぶか)しんでいたが、随行が立って乗っているせいだと思っているようだ。


「車列が市庁舎を出発しました。大公は3台目。我々も乗りました。川沿いの通りを西に、来た道を戻っています」


 小野が小声でインカムに言った。すぐそばにゾフィーがいるが、幸いエンジン音で聞こえていないようだ。


 スナリッチから連絡が来た。


「了解。こちらはプリンツィプを見つけた。史実どおり、君達から見てラテン橋の交差点を右折してすぐの店の前だ。私はプリンツィプの近くに立って、不測の事態に備える」


「分かりました」


 小野が答えた。それから少しして、小野は思わず叫びそうになった。車列の先頭、1台目がラテン橋の交差点を右折したのだ。くそ、総督の調整不足だ。


「右折じゃない、直進だ!」


 ワタルの声がインカムから聞こえた。どうやら、指向性マイクで運転手に向けて話しかけたようだ。


「あれ、総督、右折じゃないんですか?」


「ばかもん! 直進だ」


 運転手が総督に聞くと、総督が怒鳴った。


 車列の2台目もラテン橋を右折した。小野がインカムでスナリッチに連絡する。


「3台目、大公の車は直進予定です」


「分かった。プリンツィプはまだ動いていない」


 スナリッチが答えた。


 大公の車がラテン橋の交差点に差し掛かった。



† † †



 突然、ラテン橋の交差点右側から、男の子が飛び出してきた。運転手が急ブレーキをする。大公の横に立っていた随行が、車から転落してしまった。


 小野はオープンカーのドアを掴み、何とか落ちずに済んだ。ワタルもどうやら落ちずに済んだようだ。


 子どもの父親と思われる男が慌てて道路に出てきて、子どもを抱きかかえてラテン橋を走り去って行く。


 運の悪いことに、車がエンストしてしまった。ラテン橋前の交差点で立ち往生する。


「何をしている! 早くエンジンをかけろ」


 総督が叫ぶ。小野は進行方向右側に伸びる通りを見た。群衆をかき分けて、若者がこちらに走ってくるのが見えた。プリンツィプだ。


 プリンツィプが群衆から飛び出す直前、後ろから赤いトルコ帽の男性がプリンツィプの服を掴んだ。スナリッチだ。プリンツィプは、スナリッチの手を必死に振りほどくと、こちらに走ってきた。


 小野は、姿を消したまま車を降りてプリンツィプに向かって走った。プリンツィプが車に向かって走りながら拳銃を構える。間に合ってくれ!


 小野がプリンツィプに真正面から飛びついた。プリンツィプが後ろに倒れそうになりながら発砲した。


 バン!!


 群衆から悲鳴が聞こえた。背中から地面に倒れ込んだプリンツィプが、体の上に乗っかった小野に構わず、無理矢理上半身を起こし、なお発砲しようとする。


 その直後、プリンツィプの拳銃が宙に浮き、プリンツィプの背後にフワフワと飛んでいった。プリンツィプが驚き顔をしかめる。姿を消したワタルが持って行ったようだ。


 プリンツィプのところへ、官憲や群衆が走ってきた。小野は急いで立ち上がると、大公の車へ走る。どうか、無事であってくれ。


 大公は、ゾフィーを守るように覆い被さっていた。一見する限り、怪我はなさそうだ。


 オープンカーのフロントガラスが割れていた。運転手も総督も、車の向こう側の随行も怪我はなさそうだった。


「小野さん!」


 ワタルの叫び声が聞こえた。小野が後ろを振り向く。プリンツィプが腰の辺りから何かを取り出すと、地面に叩きつけた。パンッとタイヤがパンクしたような音がした。


 プリンツィプを取り押さえようとしていた官憲や群衆が、それを見て慌てて逃げる。


 その直後、プリンツィプがその何かをこちらへ投げ飛ばした。


「死ねえ!!」


 プリンツィプが叫ぶ。小野の足下に何かが転がってきた。小野に知識はなかったが、どうみてもこれは爆弾だ。


「2度も死んでたまるかあ!!」


 小野は大声で叫びながら、足下の爆弾と思われる物体を持ち上げると、ラテン橋を避け、川に向かって走りながら力一杯放り投げた。

12/4 誤字を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ