表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/42

36 作戦

 バルカン半島のサラエボとまったく関係なさそうな「京都」という単語に、小野とワタルは驚いた。


 藤原が笑いながら説明する。


「実は、サラエボ事件で暗殺されるフランツ・フェルディナント大公は、事件の21年前、29歳のときに、世界一周旅行の途中で日本に立ち寄っているのです」


「そこで、この日本滞在中に、サラエボ事件を回避する『きっかけ』を作り、事件前に思い出してもらう、というのが今回のお二人の具体的な仕事となります」


「詳しくは、この資料をお読みいただければ分かるかと思います。それではよろしくお願いします」


 藤原はそう言うと、小野とワタルにそれぞれ紙の資料を手渡すと、会議室を足早に出て行った。



† † †



「色々説明してくれたけど、結局何をしたらいいんだろう」


「閻魔庁の偉い人って、忙しいせいか肝心なところの説明が抜ける傾向がありますよね……」


 二人だけになった会議室で、小野とワタルが愚痴を言いながら資料を読んだ。



 ……フランツ・フェルディナント大公の日本滞在中に、サラエボ事件を回避する「きっかけ」を作る。


 大公にとって神秘的・非日常的な体験である日本旅行中に、日本の「精霊」から啓示を受けるという形で、サラエボ事件を示唆し、印象づける。


 サラエボ事件回避に対しては、非常に強い復原力が働くため、平行世界の不安定化に留意しつつ冥官(みょうかん)2名で臨機応変に対応する。


 「きっかけ」の内容は、大公の状況に応じて臨機応変に検討する……



「この『冥官2名』が僕達ですかね?」


 小野がワタルに聞く。


「そうみたいですね。ということは、我々が『精霊』役をするということですか……そして、とにかく臨機応変に対応・検討することになるみたいですね」


 ワタルが苦笑しながら答えた。小野も苦笑しながら応じる。


「まあ、メインは欧米の所管庁らしいですし、僕達は念のための対応って感じかもしれませんね。気楽に、やるだけやってみますか」


 二人は第1部門の会議室を後にした。



† † †



「ワタルさん、やはり着替えてきて良かったですね」


「そうですね。思ったより和服の方が多いんですね」


 小野とワタルが来たのは、明治26年、西暦1893年8月13日、日曜日の夕方。京都の祇園、八坂神社前。小野とワタルは和服姿で、二人ともリュックを背負っている。


 道行く人を見ると、洋服姿もいるが、多くは和服だ。小野とワタルの和服は、新品で生地も良いらしく、若干目立っているようだが、何とか溶け込めそうだ。


 二人は、祇園から見て八坂神社の裏側・東側にある円山公園を抜けて、坂を上がったところにある旅館の前に来た。


 阿佐美に調べてもらったところ、フランツ・フェルディナント大公は、今晩ここに滞在して、ひとり観想にふけるそうだ。「精霊」として大公に接触する絶好のチャンスだ。


 しばらくすると、坂の下からぞろぞろと集団が上がってきた。先導する警官が群衆を追い払っている。


 日本の官吏と思われる数名に先導されながら、立派なカイゼル(ひげ)の外国人の一団が坂を上がってきた。おそらくあの中の一人が大公のはずだ。


 小野とワタルは、旅館の陰に隠れると、翻訳機を作動させ、消えるくんのスイッチを押した。そして、立派なカイゼル髭の外国人の一団に続いて、旅館に入っていった。


「殿下、こちらの部屋でございます」


 2階の客室の入口で、側近の者が大公に説明した。何故かこの旅館の部屋の入口にはドアがなく、カーテンで仕切られている。


「ありがとう。それでは私はしばらく夕暮れの街を眺めるとするよ。皆もそれぞれ休憩してくれ」


「承知しました」


 側近達にそう声をかけると、大公はカーテンを開け、2階西側に面した部屋に入った。


 部屋の窓からは、円山公園をはじめ京都の市街地が一望できる。ちょうど日が落ちたところで、空はオレンジ色から徐々に暗くなりつつあった。


 大公は、窓辺に胡坐(あぐら)をかいて座ると、静かに外を眺めた。


 入口のカーテンは閉められているとはいえ、いつ側近が来てもおかしくない。早めに接触しよう。


 小野は、姿を消したまま、大公の後ろから小声で話しかけることにした。


「大公殿下」


 大公が座ったまま後ろを振り返った。小野が小声で話を続ける。


「大公殿下。お一人のところすみません」


「何者だ?」


 さすがは大公。まったく動じず、声が聞こえる方に向かって尋ねてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ