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34 第1部門

「おはようございます。昨日はありがとうございました!」


 朝、第128部門の執務室に出勤してきた久場と阿佐美に、少し前に出勤していた小野がお茶を淹れながら挨拶した。


「こちらこそ昨日はありがとう。いやあ、楽しかったね」


「ほんとですね、司命(しみょう)様。それにしても春之助さんはお話が上手でしたね。まるで落語を聞いているようでした。小野君が尻餅をついた後に姿を現すところなんて、ふふふ」


 阿佐美が思い出し笑いをした。


 昨晩は、新たに第263部門に配属された春之助の歓迎会に、小野や久場、阿佐美も参加させてもらったのだ。


 春之助は、小野のことをよく覚えていて、小野との再会をとても喜んでくれた。小野と春之助は、思い出話に花を咲かせた。


 小野が尻餅をついてしまい春之助の前で姿を現すことになってしまった話には、一同大笑いだった。ちょっと恥ずかしかったが、春之助は話し上手で、聞いていて本当に楽しかった。


 小野が久場と阿佐美の机にお茶を用意した後、自席のノートパソコンを見ると、メールが1通届いていた。


 差出人は「第1部門」で、本日午後に説明したいことがあるので、上司の了解を得た上で、第1部門に来て欲しいというものだった。


 小野が久場の席まで行って相談する。


「久場さん、すみません。私のところに第1部門からメールが来ていて、今日の午後に来て欲しいということでして……」


「あ、小野君、当たっちゃった?」


「え?」


 驚いた小野に、久場が席から立ち上がり、苦笑しながら答える。


「詳しいことは分からないんだけど、どうも世界各地の冥官(みょうかん)が協力して、大規模な何かを実施するらしいんだ」


「それで、閻魔庁の全体を統括している第1部門が、各部門から人を集める予定って聞いてたんだけど、多分それだね」


「大規模な何かですか……」


「うん。小野君を取られるのは辛いけど、小野君の頑張りで長期未済案件のうち特に古い案件が解決したしね。こちらのことは気にせず行っておいで」


「まあ、小野君ならどんなミッションでも大丈夫だよ」


 心配そうな小野に、久場が笑いながらそう言った。


 単なるリップサービスかもしれないが、久場が「小野君を取られるのは辛い」と言ってくれたのが嬉しかった。



† † †



 午後、小野は第1部門の執務室に入った。第128部門の何十倍はあるのではないかという大部屋で、数多くの冥官が働いていた。


 小野は、係員に案内されて、小さな会議室に入った。中には長机を挟んで椅子が並べられていて、以前の飲み会で異世界の話を聞かせてくれたワタルが座っていた。


「ワタルさん!」


「あれ、小野さんじゃないですか!」


 小野とワタルがそれぞれ驚いていると、平安時代の貴族のような服装の若者が入って来た。ちょっと暗めな顔立ちだ。


 若者は小野達の向かいに座り、二人に話し始めた。


「松本(ワタル)さんに、小野(あつし)さんですね。はじめまして。私は、司命(第1部門)(づき)参事官(調整担当)(づき)参事官補佐(総括担当)の藤原重隆(ふじわらのしげたか)です」


 まったく覚えられなかったが、とりあえず藤原さんという名前であることだけは分かった。藤原が説明を始める。


「本当は、第1部門の司命、小野篁(おののたかむら)からご説明させていただく予定でしたが、急用が入ってしまいまして。代わりに私からご説明させていただきます」


「今日、お二人にお越しいただいたのは、あるミッションに参加して欲しいからです」


 平安貴族っぽい若者が「ミッション」という言葉を使ったのが何だか面白かったが、小野は笑いを(こら)えて話を聞いた。藤原が話を続ける。


「お二人ともご承知のとおり、閻魔庁をはじめとした地球の『あの世』所管庁では、亡くなられた方の臨終時幸福度を高めて天国へ行けるようサポートを実施しています」


「しかし、この地球は、他の異世界に比べて長期未済案件が多い状況となっています。何故だか分かりますか?」


 なんだろう。さっぱり分からない。ワタルも分からないようで、首を(かし)げていた。


 2人の様子を見て、藤原が話を続ける。


「各所管庁による分析結果によると、その主たる原因は、二度にわたる世界大戦です」


 藤原がため息をついた。


「私の生きていた頃には信じられないことですが、日本だけでも300万人以上、地球全体だと数千万人の方が命を落としています」


 小野は、二度の世界大戦で多くの人が亡くなったということは当然理解していたつもりだったが、そのあまりにも多い数字に息をのんだ。


「この亡くなられた方の中には、臨終時幸福度が基準に達していない方が多くいらっしゃいます。しかし、戦争の影響もあり、平行世界で臨終時幸福度を高めることが難しいのが実状です」


「そこで、何とか二度の世界大戦の勃発を回避した並行世界で臨終時幸福度を高めることができないか。各所管庁共同で研究を続けてきました」


「戦争が起きなければ、多くの方の臨終時幸福度を高めることができますが、一方で、他の多くの方の人生への影響も甚大なものになります」


「そもそも二度の世界大戦を回避できるのか、回避できたとして、回避後の地球世界全体での人生への影響が臨終時幸福度や魂統合時の負荷の観点から許容範囲になりそうか、膨大かつ詳細なシミュレーションが必要でした」


「長い長い年月がかかりましたが、()(ろく)(第1部門)(づき)参事官(研究担当)をはじめとした各所管庁の研究部門がついにシミュレーションを終えたのです!」


 藤原が熱弁する。詳しいことは分からないが、本当に困難な道のりだったのだろう。


 藤原が、悲しい顔になった。


「シミュレーションの結果、残念ながら、完全に世界大戦を回避することはできないことが分かりました……あまりにも復原力が強すぎたのです」


「ですが、世界大戦の規模を大幅に縮小し、かつ、その時代以降の数多くの方の人生への影響を許容範囲にできる時点がついに判明したのです」


 藤原が突然立ち上がった。


「それが、あの有名なサラエボ事件だったのです!」


 小野とワタルは、呆気(あっけ)にとられながら、上気(じょうき)した藤原の顔を見た。

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