表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/42

32 落着

 何も答えない清吉に、春之助は優しく話しかける。


「清吉よ、先ほどお主は、庄吉は粗暴と言ったね。あれは、女に対してではないか? 庄吉は、お仙にも手を出そうとしていたのではないか?」


「それに気づいたお主は、お仙を守るため、庄吉の行動を警戒していた。事件のあった日は、そもそも帳簿整理などしていなかったのではないか?」


「あの日の晩、お主は源吉や庄吉と一緒に3人部屋で寝ていたのだろう?」


 清吉は否定しなかった。春之助は続ける。


「夜中、庄吉が3人部屋にいないことに気づいたお主は、慌ててお仙の部屋の様子を見に行った。そして、争う声に気づき、お主はお仙の部屋に助けに入った」


「おそらく、庄吉が寝ているお仙に抱きついて、抵抗するお仙が枕元の小刀を取り出し、庄吉の背中を刺したのだろう」


「それを見たお主は、庄吉をお仙から引き剥がし、庄吉と揉み合いになったのではないか? そして、2人とも縁側から転げ落ちた」


「庄吉は、背中から落ちて、小刀が身体に深く刺さり死んだ。その後、お主はお仙を説得して、自分が庄吉を刺し殺したとして、身代わりになり自首した。違うか? 清吉」


「違う! 私だ、私が殺したんだ!!」


 清吉が立ち上がって叫んだ。同心が落ち着かせようとしたが構わず暴れる。同心がやむを得ず清吉をムシロに押さえつけ、再度縛り上げた。


「清吉さん、もうやめて!!」


 その様子を見ていたお仙が叫んだ。目には涙を浮かべている。


 お仙は立ち上がると、両親の制止を振りほどいて清吉の前に走り出た。戸惑う同心を押し退けて、清吉の隣に座る。


 お仙は、泣きながら春之助に言った。


「お与力様の仰るとおりです! 私が庄吉を刺して殺しました」


 それを聞いた清吉が、必死に叫ぶ。


「違う! お仙様は何もしていない! 私が庄吉を殺したんだ!!」


 春之助が、静かに言った。


「清吉よ、お主は優しい。お仙を守ろうとしているのであろう。だが、その優しさが、かえってお仙を苦しめているのではないか?」


「もし逆の立場だとするとどうだ、清吉。お仙がお主を(かば)って、お主の身代わりに首を切られたら、お主はどう思う? 嬉しいか?」


「嬉しい訳がない!」


 清吉は、そう叫んだ後、ハッとした顔をして黙った。春之助が優しく言う。


「そうであろう、清吉。お仙も同じ気持ちだ。なあ、お仙」


 お仙が泣きながら(うなず)いた。


「清吉にお仙、お主らはお互いに好いておるのではないか?」


 春之助の問いに、清吉とお仙がお互いに顔を見合うと、慌てて目を逸らした。2人とも頬を赤らめている。


 春之助は、恥ずかしがる2人を見てクスッと笑うと、今度は堀端屋の主人の方を見て言った。


「ときに堀端屋、ここからは私の独り言だが、不法な行いに対して人を殺した場合は、原則として遠島(えんとう)、つまり島流しだ。もちろん、情状酌量による減刑の余地は多分にあるがな」


「一方、妻と密通しようとした男を夫が切り殺した場合は、構いなし、つまり、罪にはならん」


「私が見る限り、清吉とお仙は、まるで仲睦まじい夫婦のように見えるがな」


 春之助の()()()を聞いた堀端屋の主人が、春之助の意図を察して話し出す。


「恐れながら申し上げます。わが娘お仙と清吉は、あの事件の前に夫婦となっております」


 驚いた顔で清吉とお仙が後ろを振り返り、そしてお互いの顔を見た。


 お仙がニコッと笑う。それを見た清吉が照れながら笑顔になった。


 春之助が左後ろの父親の方を向き、緊張した顔で言った。


「私の取り調べは以上です」


 春之助の父親が一同に向かって威厳のある声で言う。


「それでは、本日の取り調べはここまで。お仙については追って沙汰があるまで両親の預かりとする」


 清吉とお仙、そして堀端屋の一同が頭を下げる。


 春之助の父親が立ち上がり、後ろの障子を開けて部屋を出て行った。春之助と吟味方の同心が後に続き、小野もこっそり付いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ