30 質問
春之助が緊張した面持ちで質問を始めた。
「清吉、普段寝起きしている部屋は何階の何人部屋か」
「2階の3人部屋でございます」
「お主の他に誰がおるのか」
「庄吉と、あと源吉という者がおります」
「庄吉を刺した日の朝は、庄吉も源吉も同じ部屋におったのか」
「はい、おりました」
「朝起きる時間は同じだったのか」
「はい、3人一緒に起きて、1階に下りました」
「1階に下りるときは、着替えを済ませて下りたのか? 何を持って下りた?」
「はい、着替えてから下りました。特に何も持っていませんでしたが……あ、手拭いは持って下りました」
「源吉は今日来ておるか?」
春之助が後方の男女に聞いた。清吉よりも年上と思われる青年が答える。
「は、はい、私が源吉です」
「源吉よ、清吉はいつも何を持って部屋から1階に下りる?」
「先ほど清吉が申したとおり、手ぶらか手拭いを持つかしております」
「分かった。では清吉、1階に下りてからの1日をどう過ごしたのか」
清吉はどうしてそんなことを聞くのだろう、という顔で答える。
「はあ、まず顔を洗って、皆で食事をした後、開店の準備をしました」
「開店準備では何をしたのか」
「蔵から反物を出したり、帳簿や筆を用意したりしました」
「閉店までは何をした」
「お客の相手をしたり、小僧に指示をしてお使いに行かせたりしておりました」
「昼飯は?」
「皆で食べました」
「閉店後は何をした」
「皆で夕食を食べまして、私は店に戻って帳簿の整理をしておりました」
「お主が一人になる時間はあるのか」
「帳簿整理のとき以外は誰かと一緒です」
「帳簿整理はいつも一人か」
「はい……あ、あの日は忙しかったので庄吉に手伝うようにお願いしましたが、仮病で断られました」
「いつ頼んだのか」
「え、えっと、夕食の後です。庄吉は、具合が悪いと言って部屋に戻りました」
「お主は3人部屋には戻ったのか」
「いえ、戻っておりません」
「朝起きてから戻っていないのか?」
「は、はい。そうです」
「帳簿整理の後は何をした」
「帳簿を蔵に持って行きました」
「蔵にはどのように行くのか」
「縁側を通ります」
「それ以外に蔵へ行く通路はあるのか」
「ありません」
「蔵へは毎日行くのか」
「はい。帳簿を片付けに毎日行きます」
「その後は?」
「ええっと、縁側を歩いていると、庄吉が座っているのを見まして」
「庄吉は誰の部屋の前に座っておったのか」
「……堀端屋の主人の娘様の部屋の前です」
「どうして答えを躊躇った?」
一瞬答えが止まった清吉に春之助が問うた。清吉が慌てて答える。
「い、いえ、特に何もございません」
「その娘の名は何という?」
「お仙様でございます」
清吉がお仙の名前を口に出すとき、特別な感情があるように小野は感じた。実情を知っているからかもしれないが。
春之助が少し間を置いてから質問する。
「庄吉は何をしておった?」
「し、庄吉は、縁側に座っておりました」
「お主から見てどちら向きに座っておったのか」
「……左側です」
少し考えてから清吉が答えた。春之助が続けて聞く。
「どのように座っておったのか」
「ええっと、中庭の方を向いて座っておりました」
「どのように?」
「え……縁側から足を外に出して座っておりました」
「こんな寒い時期にか」
「は、はい。そうです」
「右側にお仙の部屋があるのか」
「はい。そうです」
「庄吉は何をしておったのか?」
「……何もしておりませんでした」
「庄吉はいつもその縁側に座っているのか」
「いえ、そうではございません」
「では、なぜその日、庄吉はそこに座っておったのか」
「分かりません」
「その後どうした?」
「庄吉が仮病だと分かり、腹が立ち、小刀で刺しました」
「なぜ仮病と分かった」
「庄吉は具合が悪いと言っていたのに、縁側にいたからです」
「毎日帳簿を蔵に片付けることは、庄吉は知っていたのか」
「は、はい」
「ではなぜ庄吉は、お主に仮病が露見するにも関わらず、お主が必ず通るであろう蔵へ向かう唯一の通路、縁側に座っていたのか」
「分かりません!」
清吉が苛立ちながら答えた。春之助は更に尋ねる。
「庄吉を見て、お主はどうした」
「仮病だと分かり、腹が立ったので小刀で刺しました」
「どのように?」
「小刀で庄吉の背中を……」
「どうやって? どちらの手で?」
「し、庄吉の後ろから右手で」
「後ろとは?」
「ま、真後ろです。真後ろに立って、刺しました」
「真後ろに立って、どこをどのように刺した?」
「み、右手で上から振り下ろして刺しました」
「刺した小刀はどこから出した」
「……懐です」
「いつ小刀を懐に入れたのだ?」
「え……」
春之助の問いに、清吉が言葉を詰まらせた。




