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29 取り調べ

 翌朝、春之助は眠たい目を擦りながら父親と一緒に奉行所へ出勤した。小野は姿を消して付いて行く。


 昨晩、春之助と小野は明け方近くまで作戦を練っていた。2人とも最後は寝落ちしてしまったが、いよいよ本番だ。


 歩きながら、春之助に父親が聞く。


「その風呂敷包みの中身は何だ? ユキと何やら話していたようだが」


 ユキは、春之助の母親だ。春之助が悪戯(いたずら)っぽく笑う。


「ふふ、秘密です。あ、父上、一つお願いがありまして」


「なんだ?」


「今日の清吉の取り調べの際に、店の者も呼んでもらうことって可能でしょうか」


「まあ、堀端屋は奉行所からも遠くないし、別にいいぞ。全員が揃うまで、清吉の取り調べの順番は後回しにしておこう」


「ありがとうございます!」


 春之助が嬉しそうにお礼を言った。 


 出勤後、春之助は、奉行所の蔵に入って事件の証拠物を用意した。他に誰もいなかったので、小野が姿を現し、2人で証拠物を確認しながら、昨晩練った作戦を微修正する。


「いよいよだね」


「ええ、緊張してきました」


「あれだけ考えたんだし、きっと大丈夫だよ」


 小野が久場を真似てニカッと笑った。春之助もつられて笑う。


「そうだ、試したいことがあって。ちょっとそこに立っててね」


そう言うと、小野は春之助から離れて、蔵の奥の方へ行った。


「聞こえるかな?」


 突然、春之助の耳元で小野の声が聞こえた。


「聞こえます。まるで耳元にいるようです」


 春之助が驚いて言った。小野が説明する。


「これは、遠くから対象の耳元に話しかけることができる指向性スピーカーというものなんだ。後で執務室に戻ったときにも試してみるね」


「分かりました」


 その後、春之助は証拠物を持って執務室に戻った。小野は、戻った春之助に、少し離れた廊下から小声で話しかける。


「いま、姿を消して廊下にいるよ。聞こえたら背伸びしてみて」



 春之助は背伸びをした。どうやら聞こえてるようだ。


「聞こえてるようだね。それじゃ、取り調べのときは、適当に場所を探して座るね。よろしく」


 春之助がコクンと(うなず)いた。


 しばらくすると、父親が吟味方の同心と一緒に春之助のところへやってきた。


「それじゃあ清吉の取り調べに行こうか。堀端屋の主人夫婦の他、娘や番頭に手代、小僧も全員揃ったそうだ」


「最初は私が概要を聞くから、あとは春之助が納得行くまで聞けばいい。遠慮しなくていいからな」


「ありがとうございます!」


 春之助は一件記録と証拠物等を入れた風呂敷包みを持って立ち上がり、父親に付いて行く。小野も姿を消したままその後ろを付いて行った。



† † †



 春之助達が障子を開けると、小さな部屋に出た。部屋の前方の障子は開け放たれていて、縁側の向こうは小さなお白州みたいな場所になっている。


 お白州みたいな場所には、ムシロが敷かれていて、縄で縛られた若者が座っていた。おそらく清吉だ。その両側に同心が控えている。


 人は見かけによらないとはいえ、どう見ても悪いことが出来なさそうな優しそうな顔をしている。


 清吉の後方には、数人の男女が座っていた。堀端屋の主人夫婦と思われる2人の隣に、人一倍心配そうに清吉の背中を見つめる若い娘が座っていた。お仙だろうか。


 春之助の父親が部屋の中央に座った。父親の左斜め前、文机が置かれた場所に吟味方の同心が座る。書記役のようだ。


 春之助は、父親の右斜め前に座った。


 小野は、取り敢えず春之助の前方、縁側に出たところへ座った。小野が春之助に指向性スピーカーを使って小声で伝える。


「僕は春之助君から見て少し右側の縁側に座ったよ」


 春之助が小さく頷いた。


 春之助の父親が大きな声で取り調べを始めた。


「その方、堀端屋の手代、清吉で間違いないか」


「はい、左様でございます」


 清吉が春之助の父親の方を見て、しっかりした声で答えた。春之助の父親が清吉の後ろに控える男女に聞いた。



「後ろに控えるのは、堀端屋の主人その他店の者で間違いないか」


「間違いございません」


 堀端屋の主人と思われる男性が答えた。


 春之助の父親は、清吉に質問を始めた。


 

「清吉よ、堀端屋の手代、庄吉を殺したのは、お主で間違いないか」


「間違いございません」


「なぜ殺した」


「あの晩、庄吉は具合が悪いと言って先に寝ており、私一人で夜遅くまで帳簿の整理をしていたのですが、それが仮病と分かり、頭にきて手刀で刺してしまいました」


「なぜ仮病と分かった」


「帳簿の整理が終わり、帳簿を蔵に片付けに行くときに、縁側で庄吉が座ってのんびりしているのを見て気づきました」


「庄吉との普段の仲はどうだったのか」


「庄吉は、仕事はできるのですが粗暴なところがあり、内心良くは思っておりませんでした」


「何かこの場で言っておきたいことはあるか」


「いえ、ございません」


「では続いて別の者から尋ねる」


 春之助の父親が質問を終えた。概要だけ聞いて、後は春之助に任せるようだ。春之助に自由に質問させて、足りない部分を後で追加質問するつもりなのだろう。


 いよいよ春之助による取り調べが始まった。

2/20誤字を修正しました。

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