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28 機転

 春之助に誰何(すいか)された小野は慌てた。咄嗟(とっさ)のことで何も思い浮かばない。


「あ、怪しい者じゃないよ」


 絶対に怪しい者だよなあ、と思いながら、小野は話を続ける。


「え、えっと、僕は、その、閻魔様のお使いなんだ」


「閻魔様?」


 春之助が怖がりながらも聞いてきた。小野は、臨終時幸福度の話は避けながら、嘘にならない範囲で答える。


「そ、そう、閻魔様。このままだと、清吉さんが無実の罪で首を切られてあの世に来ちゃうでしょ。そうなると困るんで、この世で正しい裁きが行われるよう、春之助君を助けに来たんだよ」


「ほ、ホントにそうなら、姿を見せてよ」


 春之助が不信感いっぱいという顔で言った。やむを得ない。姿を見せよう。小野は消えるくんのボタンを押した。


 学生服にリュックを背負って座る少年の姿が現れた。春之助が驚いた様子で小野の姿を見つめる。


「ちょ、ちょっと待ってね」


 そう言うと、小野はリュックを置いて立ち上がり、リュックの中から閻魔様の法廷に出るときに着る衣装と冠を出した。


 本当は、枕元に立って神の御告げのように話す場面を想定していたのだが、まさかこんな状況になるとは。春之助の前で慌てて着替える。恥ずかしい……


「ほら、ね!」


 閻魔様の法廷の衣装を着た小野が、笑顔で春之助に言った。急いで着たので、冠は傾き、衣装も乱れている。


 春之助が怒ったような恥ずかしいような表情で聞く。


「ずっと姿を消して私を見ていたの? もしかして、お風呂や(かわや)も覗いてたの?」


「の、覗いてなんかないよ。安心して!」


 湯屋には付いて行ったが、家の風呂やトイレは覗いていない。嘘にはならないよな、と自分を無理矢理納得させながら、小野は答えた。


 それを聞いた春之助は、少しホッとしたようだ。確かに年頃の子が知らない間に覗き見されてたら嫌に違いない。


「驚かせてゴメンね」


 小野は謝った。それを聞いて少し落ち着いた春之助が小野の前に正座した。慌てて小野も正座する。


「閻魔様の使いに失礼なことを言って申し訳ありませんでした」


 そう言って、春之助が頭を下げた。小野が慌てる。


「い、いやいや、こちらこそ怖がらせて申し訳ない!」


 小野も頭を下げた。慌てて頭を下げたので、冠が落ちた。小野が慌てて冠を被り直したが、またすぐに落ちた。


「ぷ、くく……ははは」


 それを見た春之助が我慢しきれず笑い始めた。小野もつられて笑った。良かった。少し安心してくれたようだ。



† † †



「では、清吉さんは、お仙さんを(かば)って身代わりになっているという訳なんですね」


「うん、そうなんだ。明日、取り調べがあるんだよね。何とかして助けてあげたいんだ」


 小野と春之助は、2人並んで文机の前に座り、一件記録を見ながら明日の作戦会議をすることにした。


 こんなにサポート対象者と接して良いのか分からなかったが、ここまで晒け出したのだ。毒を食らわば皿までだ。


 春之助が腕組みをしながら言う。


「ただ、清吉さんは自らの意志で身代わりになっているんですよね。それを(くつがえ)すのは大変そうですね」


「そうなんだよね。何か証拠とかから上手く話を持っていけないかなあ」


 小野と春之助が話していると、廊下を歩く音が聞こえた。慌てて小野が消えるくんのボタンを押す。


 小野の姿が消える直前、障子が開いて、春之助の父親が顔を出した。春之助の父親が驚く。


「い、いま横に誰かいなかったか? 話し声が聞こえたんで気になって見に来たんだが……」


 春之助が慌てて取り繕う。


「だ、誰もいないですよ父上。私が勉強のため声を出して自問自答していたのです。こうした方が色々と考えを整理できるんです」


「春之助と違う声が聞こえたような……」


「こ、声色を変えて自問自答してるんです。こんな風に」


 そう言うと、春之助が小野の声色を真似て話した。春之助君、ゴメン……


 父親はまだ不思議そうな顔をしていたが、春之助は無理矢理話題を変えた。


「そういえば、父上、もし明日の取り調べで更に調べたいことが出てきたときは、私が自ら事件現場に行くことも可能なのでしょうか?」


「現場か。滅多に行かないが、どうしても行かないと分からない場合は、行ってもいいぞ。何か気になるところがあるのか?」


「いえ、初めての取り調べですので、もしそのような疑問が出たときのため、事前に聞いておこうと思いまして」


「そういうことか。まあ初めてのことだし、自分が納得できるまで調べていいぞ」


「ありがとうございます!」


「それじゃあお休み。あまり夜更かししないようにな」


「分かりました、お休みなさい」


 父親が障子を閉めて歩いて行った。しばらくしてから、春之助がふうっと息を吐いて安堵した。小野が消えるくんのボタンを押して姿を現した。


「危ないところだったね、ありがとう」


 小野が小声でお礼を言った。春之助が小声で答える。


「危機一髪でした。でもこれで今晩は大丈夫そうですね。あと父上から私が納得できるまで調べてよいとの言質も取れましたし」


「すごい機転だね!」


「ありがとうございます!」


 小野が素直に感心してそう言うと、春之助が笑顔で答えた。2人は夜遅くまで小声で話し合いながら作戦を練った。

続きは明日投稿予定です。

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