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25 書状

 書状を懐に入れた春之助は、機会を見つけてその中身を読もうとしたが、ことあるごとに邪魔が入った。これも復原力による妨害だろうか。単に偶然かもしれないが。


 結局、春之助は、書状を懐に入れたまま、夕方に父親と一緒に奉行所を出た。帰宅するようだ。小野も付いていくことにする。


 馬や駕籠(かご)を使うのかなと思ったが、春之助と父親は、お供1人を連れて一緒に歩いて帰るようだ。


 春之助は、30分ほど歩いて家に帰り着くと、自室の文机の上に書状を置き、部屋を出て行った。


 小野は、万が一に備えて、姿を消したまま文机の横に座り、書状を見守る。部屋は明かりがなく暗い。


 小野がいつの間にかウトウトしていると、春之助が自室に戻ってきた。食事や風呂を済ませたようで、寝間着に厚手の羽織を着込んでいる。


 春之助は、行灯(あんどん)に火を(とも)し、住み込みの女中が持ってきてくれた炭を()(ばち)に入れ、背中を温めながら、文机の前に座って書状を開いた。


 小野は、姿を消したまま、翻訳機能のあるゴーグルをかけて横から覗き込む。


 書状には、丁寧な字で次の内容が書いてあった。


堀端(ほりばた)屋の()(だい)清吉(せいきち)は犯人ではありません。犯人は、私、◼️◼️です。清吉さんを釈放して、私を捕まえてください』


 書状を読んだ春之助が息を呑むのが分かった。残念ながら、肝心の名前部分が破けて分からない。あの同心との引っ張り合いのせいだ。


 小野は、今後の対応を相談するため、一度閻魔庁へ戻ることにした。



† † †



「真犯人からの手紙か……」


 閻魔庁、第128部門のソファーに座り、小野から一連の状況を聞いた久場が腕組みをして(つぶや)いた。久場の向かいに座る小野が話を続ける。


「そうなんです。名前の部分は、あの同心の妨害で破れてしまって分からなくて……このままだと、春之助さんの臨終時幸福度が下がったままのような気がしまして」


 小野の隣に座った阿佐美が応じる。


「たまたま拾った書状の中身が裁判に影響しないかずっと気にするほど真面目な人ですからね。冤罪の可能性があると知って、それを解決できなければ、絶対に一生悔やみ続けますよ」


 そういうと、阿佐美がどら焼きを手にとって食べた。久場がため息をつく。


「一難去ってまた一難か……今回初めて手紙を読むところまで進んだんだ。なんとか天国へ行けるようにしたいね」


「となると、春之助さんがこの真犯人を見つけ出して冤罪を防げるよう、サポートする必要があるということですね」


 小野が言った。相当ハードルが高そうだ。久場が(うなず)くと、阿佐美に尋ねた。


「閻魔帳データベースで、堀端屋の清吉さんの人生を調べられないかな。何かヒントがあるかもしれない」


「調べてみます」


 阿佐美が自席に戻り、ノートパソコンで検索を始めた。


「ありました。清吉さんは、堀端屋の手代、今でいう中間管理職のサラリーマンですね。同じく手代の庄吉(しょうきち)さんを殺した罪で、寛政元年12月13日に17歳で刑死しています。小野君が行った日から2か月ちょっと後ですね……」


 阿佐美がノートパソコンを見ながら言った。


「清吉さんは、やはり冤罪ですね。堀端屋の主人の娘で、1歳年下のお(せん)さんを(かば)って自ら身代わりになったようです」


 阿佐美が閻魔帳データベースで調べたところ、事件の概要は次のとおりだった。



 ……寛政元年9月25日(西暦1789年11月12日)夜。お仙に一方的な好意を寄せていた庄吉が、お仙の部屋に忍び込み、お仙の寝込みを襲った。


 お仙は抵抗し、枕元に置いていた手刀で、抱きついてきた庄吉の背中を刺した。


 その直後、事態に気づいた清吉がお仙の部屋に助けに入ったところ、清吉と庄吉が揉み合いになり、縁側から中庭に転げ落ちた。


 転げ落ちた際、庄吉は背中から落ちた。背中に刺さっていた小刀が深く刺さり、そこで庄吉が絶命した。


 その後清吉は、お仙に固く口止めすると、自らが手刀で庄吉を刺したと言って自首した……



「ちなみに、清吉さんは、お仙のことが好きだったようね。身代わりで死刑になったけど、愛するお仙を守れたという気持ちがあったんで、臨終時幸福度は問題なく天国に行っています」


「お仙さんの人生も調べてみますね」


 阿佐美がノートパソコンで検索すると、驚いた顔をした。


「あ、お仙さん、長期未済案件に入っていますね」


「お仙さんも、実は清吉さんのことが好きだったようです。清吉さんを助けるべく自首しようとしたけど、両親に止められ、しばらく家に閉じ込められてしまったそうです」


「店の小僧さんを使って、本当は自分が犯人だという書状を奉行所に投げ込んだのですが、結局、あの同心が燃やしたみたいですね……」


「お仙さんは、その後、近くの堀に身を投げています。もちろん臨終時幸福度は足りていません。こちらも過去に何度かサポートしているようですが、臨終時幸福度が伸び悩んでいて、天国へはまだ行けていません」


「なるほど、もしかすると、これを踏まえて上手く春之助さんをサポートすれば、お仙さんもまとめて天国へ行けるんじゃないか?」


 阿佐美の説明を聞いた久場が言った。小野が心配になり久場に聞く。


「あの、かなり難易度が高そうですが、僕で大丈夫でしょうか……」


「大丈夫! 小野君ならきっとクリアできるよ」


 そう言って、久場がニカッと笑った。

続きは明日投稿予定です。

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