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23 戦いの後

「ただいま戻りました!」


 小野は第128部門の執務室に戻ってきた。雨天の行軍や渡河で服は汚れていたはずだが、どういう原理なのか、身につけた服や鎧は出発時の綺麗な状態に戻っていた。


「お疲れ様、どうだった?」


 久場が心配そうな顔で小野に聞いた。


「正直なところ自信はないですが、無事に宇治川を渡ることができました」


「おお、宇治川を渡りきったのは初めてじゃないか。これは期待できるぞ!」


「では司命(しみょう)様、今回のサポート対象者である桜田義之さん、通称、藤一郎さんのその後の人生を確認してもよろしいでしょうか」


「うん。阿佐美さん、よろしく」


 阿佐美がノートパソコンで調べ始めた。小野と久場が心配そうに作業を見守る。


「出ました。藤一郎さんは、承久の乱を無事に生き抜き、宇治川の戦いで佐々木信綱らと一緒に先陣を切ったことなどが評価されて、褒美をもらったそうです」


「その後、故郷に戻り、下河辺(しもこうべ)氏や北条氏の御内人(みうちびと)の郎党として活躍したそうです。50歳で糖尿病に起因する心筋梗塞で亡くなりましたが、臨終時幸福度は暫定値で88。これなら天国へ行けると思います!」


「やったあ!」


 小野が飛び上がって喜んだ。


「101回目の正直だな」


 久場がホッとした様子で小野に言った。小野が笑顔で答える。


「藤一郎殿は筑後六郎との真剣勝負に全身全霊をかけて挑み、生き抜きました」


「残念ながら負けてしまいましたが、力を出し尽くし、悔いの残らない戦いが出来たのでしょう。幸せな人生を歩めて本当に良かったです」



† † †



「藤一郎さんは、無事に簡易審査を終えて天国へ向かったそうです」


 阿佐美が自席から応接セットに座る久場と小野に報告すると、ノートパソコンを閉じ、応接セットの小野の隣に座った。


「いやあ、うちの一番古い未済案件がこれで解決だ。小野君、本当に素晴らしいよ!」


 久場が紅茶を一口飲んだ後、小野に言った。


「ありがとうございます! ですが、今回は初めての戦場で本当に怖かったです。分子解離銃を初めて使いましたし」


「あれだけの激戦を経験したんだ。後はどんな場面でも大丈夫だよ」


 そう言って久場がニカッと笑うと、話を変えた。


「それにしても、筑後六郎はどうして藤一郎の首を取らなかったんだろうな」


「北条泰時の軍勢が宇治川を渡ってきたんで、トドメをさす前に逃げたんですかね」


 阿佐美がクッキーを食べながら久場に言った。それに小野が答える。


「筑後六郎は、逃げるというより、宇治川を渡ってきた軍勢に向かって行ってましたね」


 久場がタブレット端末を見ながら話す。


「鎌倉時代の歴史書、吾妻鏡(あづまかがみ)によると、筑後六郎、すなわち八田(はった)知尚(ともひさ)は、あの宇治川の戦いで討ち死にしているそうだ。もしかすると、自らの死を覚悟して、まだ若い藤一郎を見逃したのかな」


 小野がそれを聞いて思い出した。


「そう言えば、筑後六郎は、落馬した藤一郎を見て、生きているのに気づいたのかニヤッと笑ってました」


「それに、なぜか藤一郎の戦いぶりを敵方の武将である北条泰時に向かって大声で褒めてましたし」


 小野の話を聞いて、久場が(つぶや)く。


「勇気を振り絞って自分に立ち向かってきた若武者に、輝く未来を見たのかもしれないなあ。まあ、真相は分からんがな」


「天国にいる筑後六郎さんに聞いてみます?」


 久場の呟きに対して、阿佐美が事も無げに言った。


「え? そんなことできるんですか?」


 小野が驚いて聞くと、阿佐美が笑顔で答える


「ええ、テレビ電話みたいな感じで会話ができるわよ」


「まあ、それはそうだけど、それをやっちゃうと何だかロマンがないなあ」


 そう言って久場が笑った。


 小野は、藤一郎と筑後六郎が天国で笑いながらあの一騎討ちの話をしている状況を想像して、ニコニコしながら紅茶を飲んだ。

次話から第3章となります。

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