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2 閻魔様の執務室

 小野がドアを開けると、中は広い執務室になっていた。


 正面奥の大きな執務机を見ると、スーツを着た中年男性がノートパソコンの画面を眺めていた。疲れ顔が気になるが、それ以外はごく普通の日本人という感じだ。


 執務机の背後の窓の外は、美しい空と、眼下に雲海が広がっている。ここは雲の上のようだ。


 執務室の手前には、応接セットがあり、その左側には大きな鏡が置かれていた。これがあの有名な真実を映し出す「浄玻璃鏡(じょうはりきょう)」だろうか。


 鏡には、先程見た美少年の姿が映っていた。これが自分だなんて、未だに信じられない。


「魂の姿にまだ慣れないかな? ちなみに、それ普通の鏡だよ」


 まるで小野の心を見透かしたかのように、執務机の疲れ顔の男性がノートパソコンを閉じながら言った。


 男性は立ち上がると、応接セットのソファーに座った。男性に促されて、小野は男性の向かいに座る。


 男性が笑顔で小野に話しかけた。


「小野君だね。初めまして。閻魔です」


「は、初めまして」


 この一見普通の中年男性が閻魔様のようだ。小野はドキドキしながら挨拶した。


 閻魔様が話を続ける。


「実は、折り入って君にお願いがあってね」


「はあ、どういったことでしょうか」


「日本の年間の死者数って、どれくらいか知ってる?」


 突然、閻魔様が質問してきた。日本の死者数なんて考えたこともなかった。小野は適当に答える。


「す、すみません。分かりませんが、10万人くらいでしょうか」


「日本政府の近年の統計上は、だいたい100万人から150万人というところだね」


 桁違いの数だった。閻魔様が続ける。


「閻魔庁は、原則として亡くなった日本人を管轄しているんだけど、毎年これくらいの数の人を扱っている」


「日によって増減はあるけど、単純計算で毎日3000人から4000人くらいの手続を行わなければならない」


「このうち9割ほどは、簡易審査で処理できるけど、残り1割、300人から400人くらいは、実質的な審理を行う必要がある」


「つまり……」


 閻魔様が話を止めて小野の顔を見つめた。小野が思わず聞く。


「……つまり?」


「人手不足なんだ! お願い、閻魔庁の仕事を少し手伝ってくれない?」


 閻魔様が頭を下げた。小野が慌てて聞く。


「え? ぼ、僕が閻魔様のお手伝いですか?」


「うん、お願い!」


「で、ですが、どうして僕なんですか? 僕には悪行もありましたし、特に取り()のない学生ですよ」


「大丈夫! 悪行が0の人はいないよ。君は善行、徳をいっぱい積んでいるようだし、何よりも困った人を放っておけない性格だ」


「それに、君の名前って『小野(おの)(あつし)』だよね? 閻魔庁では、長いこと小野(おのの)(たかむら)っていう人が仕事を手伝ってくれてるんだけど、ほら、君の氏名とほとんど同じでしょ」


「名字はともかく、名前が合っているのは漢字の『竹』の部分だけですし、理由になっていないような……」


「お願い! これも何かの縁だと思って、困っている私を助けて!」


 閻魔様がまた頭を下げた。流石(さすが)に閻魔様にこれ以上頭を下げさせるのはヤバいと感じた小野は、承諾することにした。


「ど、どうか頭を上げてください! 分かりました。僕で出来ることでしたら、お手伝いさせていただきます」


「ほんと? ありがとう! じゃあ、ここの紙の上に右手を置いてもらってもいいかな?」


 一瞬で明るい顔になった閻魔様がそう言うと、ローテーブルに一枚の紙が現れた。小野が言われるままに右手を紙の上に置くと、紙が光り輝いた。


 小野が驚いて紙から手を離すと、いつの間にか紙に文字が浮かんでいた。


「はい、採用手続完了! これ人事異動通知書ね。君を閻魔庁冥官(みょうかん)に採用する。司命(しみょう)(第128部門)(づき)を命ずる。欠員が出てホント困っていたんだよ」


「み、冥官? 司命?」


「うん、詳しいことは司命から説明してもらうから。本当にありがとう! よろしく!」


 閻魔様がそう言った瞬間、小野は、いつの間にか多くの人が行き交う廊下に立っていた。

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