19 戦の始まり
翌朝、藤一郎達は夜明け前に食事や身支度を済ませると、幸島四郎の下に合流し、宇治橋へ向かった。
遠くで雷鳴が聞こえたが、幸い雨は上がったようだ。
辺りはまだ暗くて良く見えないが、宇治橋の向こうには官軍の軍勢がひしめいているのが分かった。
幸島四郎が皆に伝える。
「下流に浅瀬があるそうだ。そちらへ向かうぞ!」
藤一郎達は、幸島四郎に従い宇治橋に向かって左手、下流に向かって進んだ。宇治川は増水していて、どこが浅瀬か分からない。
しばらく進むと、何騎かが渡河を敢行していたが、いずれも途中で流されるか、官軍の矢で倒されていた。
薄暗がりの中、多くの武士や従者が流され、射殺されるのを目の当たりにして、小野は恐怖で頭が真っ白になりそうだった。
「よし、我らもここで渡るぞ!」
幸島四郎が馬の頭を宇治川に向けながら軍勢に向かって叫んだ。藤一郎が緊張した面持ちで意見する。
「お待ちください、四郎殿。どこが浅瀬か分からない状況では危険です。現にここで渡ろうとした者は皆流されております!」
「怖気付いたか藤一郎!」
若い藤一郎の反対意見に、幸島四郎が激怒する。爺が加勢する。
「藤一郎殿の言うとおりです。どうかもう少し様子を見て、渡れそうな場所を探しましょうぞ」
「もうよい! 藤一郎はここに残れ。者共、進むぞ!」
「おう!」
藤一郎や爺の意見は却下され、幸島四郎の軍勢は、藤一郎達を置いて渡河を始めた。
何人かの武士が、藤一郎に「臆病者が」などと罵る。
「あんなことを言われて、このままじっとなどしてられん。我々も進むぞ!」
藤一郎が顔を真っ赤にして叫んだ。このままでは溺死してしまう。小野が慌てて説得した。
「お待ちください、藤一郎殿! 勇気と蛮勇は違います。先ほど藤一郎殿ご自身が仰ったとおり、ここで渡るのは危険です。どうかここは堪えてください」
「し、しかし!」
渋る藤一郎に、爺も説得する。
「無事に向こう岸へ渡れる場所を探します。どうか、それまで辛抱してくだされ!」
爺の必死の説得を聞いて、藤一郎は怒りに体を震わせながら、何度か深呼吸をした。少し落ち着いたようだ。
藤一郎達は宇治川を渡る幸島四郎の軍勢を見つめる。すでに何騎かは流されたり射殺されていたが、軍勢は宇治川の真ん中まで進んだ。
このまま渡河できるかと思った矢先、上流から流木のかたまりが流れてきた。藤一郎が叫ぶ。
「流木が来るぞ!」
幸島四郎をはじめ何騎かが藤一郎の声に気づいたが、増水した川の中で身動きが取れない。次々と流木にぶつかり流される。
そして、流木だけでなく流された人馬が他の者にぶつかり、あっという間に幸島四郎の軍勢は全員流されてしまった。
藤一郎達は目を凝らして下流を見たが、残念ながら誰も川岸に戻っては来なかった。
「ああ……四郎殿と郎党が……」
藤一郎が馬上でがっくりと項垂れた。
向こう岸から、官軍の笑い声が聞こえてきた。藤一郎がキッと向こう岸を睨む。
このままだと、無理に渡河して皆の後を追いかねない。小野は慌てて叫んだ。
「藤一郎殿! 皆の無念を晴らすためにも、渡れる場所を探して進みましょう! そして、無事に渡って手柄を立てましょう!」
「そうです、ここで渡ろうとしても、同じ結果になるだけですぞ!」
「……うん、そうだな! よし、渡れる場所を探して下流に進もう!」
藤一郎達は更に下流を目指すことにした。
続きは明日投稿予定です。




