18 宇治の夜
翌日、北条泰時の軍勢は、いくつかのグループに分かれて移動を始めた。藤一郎は、幸島四郎に従い、京都の宇治を目指すことになった。
本降りの雨の中、爺が藤一郎の乗る馬の口取りをし、小野が武具や食糧等を乗せたもう1頭の馬を曳いて歩く。
藤一郎は大鎧、爺と小野は胴丸という簡素な鎧に烏帽子姿で、その上から雨具を被っている。
藤一郎は華奢なこともあり、大鎧のサイズが身体に比べて大き過ぎるように感じる。もしかすると借り物なのだろうか。
一同は、雨の中を黙々と進む。
小野は、魂が顕現した姿ということもあり、幸い疲れは出なかった。これがもし生前だったら、すぐにバテて動けなくなっていたかもしれない。
「爺も篤も、疲れはないか?」
馬上から藤一郎が心配そうな顔で聞いてきた。爺が笑顔で答える。
「そのようにお声がけいただけるだけで、爺は元気が出て参ります。まだまだ行けますぞ」
「ありがとうございます。私も平気です。藤一郎殿はお優しいですね」
小野がそう言って話しかけると、藤一郎が苦笑しながら答えた。
「はは、よく父上からは軟弱者と叱られるがな」
阿佐美に事前に調べてもらった情報だと、藤一郎はとても優しい性格で、争い事には向いていないらしい。その優しさと「武士の誉れ」との間で葛藤し、中々臨終時幸福度が上がらないということだった。
日暮れ前、一行はようやく栗子山という場所に到着した。ここで一泊するようだ。雨は止まず、むしろどんどん強くなっている。藤一郎達は、木の陰に座ると、携行食の握り飯や焼き味噌を食べた。
「ここまで来れば、宇治橋まであと少し。おそらく官軍は橋の向こうで待ち構えているでしょう。明日は戦になりますぞ」
「いよいよか……」
藤一郎は真剣な顔で頷いた。ここに至るまでに何度か戦はあったが、いずれも藤一郎の出番はほとんどなかった。事実上、明日が初の戦いという状況だ。
「藤一郎殿。とにかく矢が鎧の隙間に入らないよう、お気を付けくだされ。時々鎧をこうやって揺らして、鎧に隙間が出来ないようにするのですぞ」
爺が立ち上がって体を揺すり上げる動作をした。藤一郎が笑う。
「分かってるよ、爺。あと、兜はこうやって、てっぺんに気をつけながら傾けるんだよね」
そう言って、藤一郎が笑いながら少し下を向いた姿勢をした。ことあるごとに爺から言われているようだ。戦場の知恵のようなものか。
藤一郎が呟く。
「明日は何とか手柄を立てて、新しい所領を頂きたいものだ」
「そうですな。きっとお父上もお喜びになられるはずです」
爺が笑顔で言った。
その後、陣営は真夜中に急遽移動し、平等院まで進んだ。宇治川は目と鼻の先だ。
藤一郎達は、平等院近くの神社で小屋を借り、仮眠を取ることになった。
爺が知り合いの従者に聞いたところ、一部の者が宇治橋で官軍と戦い、敗走したらしい。
爺が囲炉裏で火を熾し、皆で体を温める。夏とはいえ、ずっと雨で濡れたままだったので、火の暖かさが心地よい。
「宇治橋の守りは固いようですし、明日は浅瀬を渡ることになるかもしれませんな。少しでも寝て体力を温存しましょう」
爺が藤一郎に言った。土砂降りの雨の中、宇治川の方からはゴウゴウと音が聞こえる。
藤一郎達は、それぞれ床に横になって寝ることにした。
† † †
藤一郎と爺が寝入ったのを見計らって、小野は静かに起き上がった。今回持ってきたアイテムをチェックする。
懐の中に忍ばしたタイムリモコンと消えるくんを確認する。幸い防水仕様のようで、問題なく使えそうだ。
腰袋の中には、分子解離銃を入れている。
久場に教えてもらったところによると、分子解離銃の照射は、1点に収束させることもできれば、威力は下がるものの広角に拡散することもできるらしい。
矢が飛んできたときは、この広角モードで対処する予定だ。
あと、身に付けている小袖と袴、烏帽子のほか、胴丸をチェックする。
これらは閻魔庁特別仕様で、高い防御性能を有するとともに、付属の手袋をはめておけば、強い負荷がかかったときにパワードスーツ的な能力を発揮するとのことだ。
一通りチェックした後、小野も眠ることにした。とは言え、初めての戦を前に気が張っているのか、小野は中々寝付けなかった。




