16 初出張を終えて
「そうか、まさか別の強盗が入るとはなあ」
「珍しいですね。復原力の新しいパターンかもしれませんね。後で第1部門に情報提供しておきますか」
「うん、そうだな。あの並行世界を分析してもらうと、復原力についての新しい知見が得られるかもしれんな」
小野は、執務室中央の応接セットのソファーで、向かいに座った久場と阿佐美に初仕事の状況を報告した。久場と阿佐美は、小野の話を興味を持って聞いてくれた。
「初出張を終えてみてどうかな?」
お茶を一口飲んで湯飲みをローテーブルに置くと、久場が小野に聞いた。小野が答える。
「色々と緊張しましたし、悩みましたし、怖い目にも遭いましたが、この仕事に就いて良かったと思いました」
「僕は大学卒業前に死んだので、簡単なアルバイト程度しか経験したことがありませんでした。今回が生まれて初めての就職です。あ、死んで初めての就職でもあるのか」
そう言って小野は笑った。久場と阿佐美も笑う。小野は少し照れながら話を続けた。
「あの世とこの世では色々と違うのかもしれませんが、自分の仕事を通じて、人の幸せに貢献できたということがとても嬉しいです。まだ始めたばかりではありますが、もっと皆の役に立ちたいと思えました」
久場が満面の笑みで喜ぶ。
「素晴らしい! まさに冥官の鑑だ」
阿佐美も優しく微笑みながら喜ぶ。
「人を幸せにできて、自分もやりがいを感じられる仕事なんて、生きている間でもそうそう巡り会えないわよ。良かったわね」
「はい、本当に良かったです。もしよければ、引き続きここで働かせていただけないでしょうか」
「もちろん大歓迎だ! 引き続きよろしく」
「こちらこそ、小野君にいてもらえて嬉しいわ。引き続きよろしく」
久場と阿佐美の二人が小野に返事をしたとき、阿佐美の自席から着信音のような音が鳴った。阿佐美が自席からタブレットを持ってソファーに戻ってきた。
「第425部門から連絡が来ました。貝原さんは、無事に審査を終えて、これから天国へ向かうそうです」
「貝原さんからの伝言で、自分の2回目の人生でいつも見守ってくれた『遠い親戚のお兄ちゃん』があの世にいたら、よろしく伝えてくれということです。小野君の思いは、貝原さんにしっかりと伝わってるわね」
それを聞いた小野は、また涙ぐんでしまった。恥ずかしいけど、嬉しさが勝った。
「良い仕事をしたな。よし、それじゃ、この勢いで次の案件でも小野君に活躍してもらおうか。阿佐美さん、うちの『長期未済案件』の件数って今何件だったけ?」
久場に聞かれた阿佐美が、タブレットで調べる。
「ええっと、うちの部門は少ないほうですが、本日時点で2058件ですね」
「す、すみません、長期未済って何ですか?」
何やら不穏なワードと件数を聞いて、小野が久場に聞いた。久場が苦笑しながら答える。
「今回の貝原さんは2度目の人生で臨終時幸福度をクリアできたけど、世の中には中々クリアできない人が結構いるんだよ。そういった人達の並行世界がどんどん滞留しちゃっててね」
阿佐美が続ける。
「うちの部門の最も古い長期未済案件は、鎌倉時代のある武士ね。現在、101回目の人生に挑戦中なの」
久場がニカッと笑って言う。
「小野君、どうかな? 次はこの武士をサポートしてくれないかな。なあに、分子解離銃のほか、様々なアイテムがある。それらを使えば大丈夫だよ」
「な、何だか急に天国へ行きたくなってきました」
小野が苦笑しながら言った。久場と阿佐美が慌てて小野をフォローする。
「そ、そんなこと言わないで、小野君! 一緒に頑張っていこうよ」
「そうよ、まだ仕事を始めたばっかりじゃない。30年くらい頑張りましょうよ」
久場と阿佐美の必死さに、思わず小野は笑ってしまった。
「す、すみません。冗談です。色々な並行世界に行って、色々な人に会って、そして少しでも多くの人が幸せになるようお手伝いしたいです。今のところは」
「よ、良かった! って最後に含みを持たせてるのが心配だなあ」
「ふふふ、まあ、ぼちぼち頑張りましょう」
「はい、引き続きよろしくお願いします!」
小野は笑顔でそう言った。
続きは明日投稿予定です。次話から第2章となります。




