14 ラーメン屋①
小野は、貝原と同僚が飲んでいた居酒屋から見て駅の反対側にあるラーメン屋の前に立っていた。
タイムリモコンの表示は、あれから24年後の西暦2014年12月12日金曜日。今は20時15分だ。仕事帰りと思わしきコート姿の男性が、足早に目の前を通り過ぎて行った。
ラーメン屋は、駅前の大通りから路地に入った所にあり、意外と人通りは少ない。
貝原の最初の人生では、21時過ぎにこの店に一人で押し入り、店長とアルバイト店員を殺害後、店の売り上げを盗んでいる。
小野はリュックを開けて中の資料を見た。1回目と2回目の介入が上手くいっていれば、このラーメン屋では何も起きないらしい。店でラーメンでも食べながら、何も起きないことを確認後、あの世に戻ってね♪ と資料の最後に書かれていた。
お言葉に甘えることにしよう。小野はラーメン屋に入った。
† † †
「っらっしゃーい!」
ドアを開けると、店長とアルバイト店員の威勢の良い声が聞こえた。店は奥に細長く、右手に厨房とカウンター席があり、通路を挟んで左手にテーブル席が3つほどあった。
小野は、店内を見て声を上げそうになった。左手一番奥のテーブルに、貝原が座っていたのだ。20歳のときよりも老けているが、間違いない。
貝原は店内入口側に向かって座っており、貝原の向かいには女性が2人座っていた。後ろ姿でよく分からなかったが、おそらく妻と娘だろう。
貝原は、最初の人生では結婚後二女をもうけるが、30歳のときに離婚している。今回の人生では離婚しなかったようだ。向かいの妻子と思われる女性2人と雑談する貝原の表情は、とても穏やかだった。
小野は、とりあえずカウンターに座り、リュックを足下に置くと、店長にラーメンを注文した。
ラーメンを待っている間、小野はテーブル席の貝原達の会話に耳をそばだてた。
「ねえ、ほんとだって。駅前の雑居ビルの前を通ったときに幽霊を見たんだって。お姉ちゃんが勤務してる交番の上司も、昔見たって言ってたらしいよ」
「そんなのいるわけないでしょ」
「いや、いるかもしれないぞ。お父さんも昔不思議な経験をしてな……」
そう言うと、貝原があの居酒屋で経験したペン&契約書浮遊等怪事件について話し出した。
「お父さん、それマジじゃん! それって妖怪のせいじゃない?」
「はは、最近流行りのアニメか。まあ妖怪か幽霊か神様かは分からんが、あのお陰でお父さんは詐欺に遭わずに済んで、こうしてお母さんと結婚できたって訳だ」
あのときの介入が功を奏したようだ。小野は少しウルッときてしまった。
「へい、お待ち!」
ラーメンが出来上がった。小野は店長からカウンター越しに受け取る。豚骨醤油で中々美味しい。
小野はのんびりとラーメンを食べた。食べ終わる頃には20時55分になっていた。貝原一家も帰り支度を始めた。小野はリュックの中からお金を取り出そうとした。
ちょうどそのとき、店に男性が一人で入って来た。カウンターは空いているのに、何故か小野のすぐ右隣に座る。
店長が男性に声を掛けた。
「あ、お客さん、すみません。もう閉店なんですよ」
「動くな!」
突然、男が小野に包丁を突きつけ、小野を後ろから羽交い締めにした。男に引っ張られ、小野は通路に立たされた。
想定外の展開に、小野は何も出来なかった。首筋に包丁が突きつけられている。
「おい、こいつが殺されたくなければ、売り上げ全部だせ!」
まさか新たな強盗が現れて、しかも自分が人質になるとは想像もしておらず、小野は慌てた。
出発前に久場に聞いた話だと、小野の体は魂が顕現したもので、大怪我をすれば、魂自体が消滅することがあるらしい。これはマズい。
「お、落ち着け!」
「うるせえ! 早く金を出せ。俺は本気だぞ!」
店長が強盗犯に声を掛けたが、強盗犯は興奮している。
「や、やめるんだ! 相手は子どもだぞ」
奥のテーブル席から、貝原が声をかけた。強盗犯が貝原の方を向く。
「うるせえんだよ! あんまり騒ぐとこのガキを殺すぞ」
貝原が立ち上がり、小野と強盗犯に近づいた。
「落ち着くんだ」
「うるさいって言ってんだよ!!」
強盗犯が貝原の方へ包丁を向けた。今だ!
小野は、ポケットの中に手を入れて、消えるくんのボタンを押した。




