11 並行世界へ
「よし、準備は出来たかな?」
「はい!」
久場が小野に聞いた。小野は頷いた。
小野は、自席の前にリュック姿で立った。
学生服のズボンのポケットには、タイムリモコンと消えるくんが入っている。
リュックの中には、現金の入ったポーチと分子解離銃のほか、阿佐美が用意してくれた資料と着替えが一式入っている。
あの世では着替えは不要だが、平行世界では衣服が外的要因で汚れることがあるので、その場合は必要に応じて着替えることになるらしい。
「平行世界へ移動するときは、ちょっと眩暈がすると思うんで、気をつけてね」
「タイムリモコンのチャプターボタンを押せば、人生の岐路に順次移動できる」
「ホームボタンを押せば、ここに戻ってくることができるから、無理しないようにね。分からないことがあったら、阿佐美さんが作成してくれた資料を読むといい」
「小野君、頑張ってね!」
久場と阿佐美がそれぞれ小野に言った。小野が笑顔で答える。
「ありがとうございます。それでは行ってきます!」
小野は、ポケットからタイムリモコンを取り出し、チャプターボタンを押した。
† † †
軽い眩暈を感じた小野は、気づくと、人目のない路地裏に立っていた。
小野は、壁際に寄ると、タイムリモコンに表示された時刻を見た。西暦1979年8月20日月曜日14時ちょうどだ。
リュックから取り出した資料によると、場所は関西の地方都市。貝原の最初の人生だと、15時頃に駅前の駄菓子屋で万引き犯と間違われるらしい。
小野は、資料の住所と写真を見ながら、目的の駄菓子屋を探す。
駄菓子屋は、路地裏から出てすぐの駅前の通りを少し歩いた所にあった。駄菓子屋が見える木陰で待つことにした。
天気は曇りだが蒸し暑い。とはいえ、ここ最近の夏の暑さに比べればマシだ。黒の詰め襟の制服にリュックを背負っているので、見た目はかなり暑そうに感じるが、汗は出なかった。
15時少し前、イガグリ頭でTシャツ、短パン姿の少年が、駄菓子屋に入って行った。閻魔様の裁判で見た貝原の少年姿だ。小野は急いで駄菓子屋に入った。
小野が店に入ると、貝原が真剣な表情でお菓子を選んでいた。どうも5円のチョコを2つ買うか、10円のチョコを一つ買うかで悩んでいるようだ。
小野がお菓子を選ぶフリをしながら貝原の様子を見ていると、店内に小学生2、3人が入って来た。そのうちの1人、見るからにガキ大将っぽい男の子が、貝原にちょっかいを出した。
「なんや、貝原か。お前にお菓子を買う金なんてあったんやな」
貝原は下を向いて何も言わない。ガキ大将っぽい男の子が貝原を押しのけた。
「邪魔や、貧乏人。貧乏がうつるわ」
よろめいた貝原がお菓子の棚にぶつかった。その時、ガキ大将っぽい男の子が、貝原にわざとぶつかって、10円のチョコを貝原のポケットに入れるのが見えた。
ガキ大将っぽい男の子は、お菓子を買うと、ニヤニヤしながら他の子どもと店の外に出て行った。
どうやら、貝原が万引き犯に間違われるのは、このガキ大将っぽい男の子の仕業のようだ。酷い話だ。これを阻止すればいいのだろう。
貝原は、ガキ大将っぽい男の子達がいなくなると、ホッとした表情でまたお菓子を選び始めた。
小野はそっと貝原の隣に立つと、貝原に声をかけた。
「ねえ、ボク、さっき棚にぶつかったときに、ポケットにお菓子が入っちゃったよ」
「え?」
貝原が慌ててポケットを確認する。10円のチョコが出てきた。
「ほんまや。ありがとう、お兄ちゃん」
貝原が笑顔でお礼を言った。
「いえいえ、どういたしまして」
小野が笑顔で答える。貝原は、そのポケットに入っていた10円のチョコを買うことにしたようで、駄菓子屋奥のオバチャンにお金を払うと、お店を出て行った。
小野もお店を出ようとすると、奥からオバチャンの声がした。
「お兄ちゃんは、何も買わへんの?」
小野は慌てて貝原と同じチョコを買い、店を出た。




