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1 天国への審査

 大学生の小野(おの)(あつし)は、ふと気づくと真っ白な何もない空間に立っていた。道路に飛び出した子どもを助けようと咄嗟(とっさ)に追いかけたところまでは覚えている。ここはどこだろう。


 突然、小野の目の前に古ぼけた机と向かい合う2脚の椅子が現れた。その横には立て看板があり、「座ってお待ちください」と書かれていた。


 小野が素直に椅子に座ってしばらくすると、何の前触れもなく、突然、向かいの椅子にノートパソコンを持ったスーツ姿の女性が現れた。


「はい、お待たせしました。小野篤さんですね。それでは簡易審査を行いますので、今しばらくお待ちください」


 驚く小野をよそに、女性は椅子に座ってノートパソコンに何やら入力し始めた。小野は、椅子に座ったまま女性の入力作業を見守る。


 ほどなくして、女性が笑顔で小野に言った。


「はい、終わりました。では結果をご説明しますね」


 女性がノートパソコンを見ながら説明を始めた。


「小野さんは、家族や友人と口喧嘩をして相手の心を傷つけるなど、悪行点は2500ですね」


「一方、多くの人に優しく接し、人助けをして感謝されるなど、善行点は53万6800ですね。某アニメで有名なあの戦闘力よりも高いなんて、半年前に異世界経由でこちらに来られた元公務員の方に次いで今年暫定第2位ですよ。素晴らしいです」


「あと、小野さんの臨終時幸福度は80ですね。こちらはギリギリクリアです」


「簡易判定の結果、小野さんは審理省略、これで手続終了です。天国行きとなります」


「は、はあ、ありがとうございます」


 よく分からなかったが、小野はとりあえずお礼を言った。


 ……ん? 天国? 小野は慌てて女性に聞いた。


「て、天国ってどういうことですか? ここはどこなんですか?」


 女性がノートパソコンの画面を見た後、笑顔で答えた。


「あ、すみません。小野さんの場合ご説明が必要でしたね。それではご説明します」


 女性が神妙な顔をして、小野に説明を始める。


「ここは『あの世』です。残念ながら、小野さんはお亡くなりになりました。お悔やみ申し上げます」


「え、亡くなった? どういうこと?」


「小野さんは、道路に飛び出したお子さんを助けようとして車に撥ねられ、路面で頭部を強打。脳挫傷でお亡くなりになりました」


「そ、そんな……でも、僕はこうして元気ですよ?」


 小野は思わず椅子から立ち上がって女性に聞いた。女性がニッコリ微笑む。


「今の小野さんのお体は、魂が具現化した姿となっています。ご覧になりますか」


 女性がそう言うと同時に、机の脇に大きな鏡が現れた。小野が鏡を見ると、見たこともない中学生くらいの美少年が映っていた。何故か服装は、自分が中学校の時に着ていた詰め襟の学生服だ。


「だ、誰これ?!」


「小野さんの魂の姿ですよ。実年齢より子どもっぽいようですが、善行を積んでるだけあって美しい魂ですね」


 子どもっぽいと言われて少しショックだったが、まあ否定できないな。と考えたところで、小野は、自分が助けようとした子どものことを思い出し、女性に聞く。


「あ、あの、僕が助けようとした子どもはどうなったのですか?」


「はい、小野さんのおかげで一命を取り留めました。軽い打撲程度です」


「よ、良かった……」


 幸い、あの子は助かったようだ。小野はホッとする。


 残念ながら、自分は死んでしまったようだ。いつの間にか善行は積めていたようだが、パッとしない人生だった。ついぞ彼女も出来なかったし……


 少し落ち着いてきた小野は、椅子に座り直し、女性に聞いた。


「あの、僕はこれから天国に行くのでしょうか?」


 女性が笑顔で答える。


「はい、通常だとそうなのですが、小野さんの場合は、(えん)()様から呼び出しを受けていますので、一度そちらへ行っていただきます」


 すごく怖いワードが聞こえた。小野は思わず聞き直す。


「え、閻魔様って、()()閻魔様ですか?」


「ええ、そうです。()()閻魔様です」


 女性がにこやかに答えた。小野が続けて聞く。


「これって、よくあることなんですか?」


「申し訳ありません。それにはお答えできません」


 女性が急に真顔になって答えた。不安だ。


「それでは、後ろのドアをノックしてお入りください。くれぐれも粗相のないようにしてくださいね」


 小野が後ろを見ると、いつの間にかドアが現れていた。前に向き直ると、すでに女性はいなくなっていた。


 小野は椅子から立ち上がって、改めてドアの方を向いた。何の変哲もない木製のドアだが、ドアプレートに「在室中」と掲げられている。


 小野は、深呼吸をしてドアをノックした。


「どうぞ」


 中から男性の声が聞こえた。小野は意を決してドアを開けた。

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