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あおの告白2

最寄駅でタクシーを拾って実家に着いたのは、0時近くやった。

多くの家の電気が消えている中、実家だけは門灯が照らされ、

一階にある居間の部屋の明かりも、まだついてた。

さすがにこの時間だとまだコートがいったわ、と着替えに帰らず

居酒屋からそのまま直行したのを、少し後悔して足早に家に入った。

「ただいまー」

玄関を開けて声をかけたが返事はない。

そのまま中に入っていくと、居間に両親が並んで座ってた。

「返事なしって、どしたん?」

両親は答えず、うつむいたまま。すぐに理由はわかった。

目の前にある布団。その中に見える人の姿。

るいやった。

眠ってるようにしか見えん。

「……なんなん」

両親は無言のまま。信じれんかった。

「死んでないよな?」

父親は小さく頷いた。

「ああ、死んではない。ただ起きないんだよ。何をしても」

そんなアホなことが……

弟の身体を揺するが、反応はなかった。

「無駄だ」

父親の言葉に続けて、母親が話した。

「朝になっても起きなかったのよ。でも、疲れてるんだと思ってそっとしておいたの」

「仕事から戻っても寝ていたから、身体を揺すった。でも、反応はない。近づくと呼吸はしている。医者に連れて行こうと持ち上げようとしたが、動かしちゃだめかと思って救急車を呼んだ」

父親はまだスーツ姿のままだった。

市役所での事務職、高卒だから上に行けず、今では上司が年下。

酒をたまに飲むとよく話していた、大学には行かないとダメだ。

世の中、学歴だぞ。

おれに言葉強く語っていた、あの姿は今はなかった。

「なんですぐ連絡くれんかったん?」

「起きないだけだぞ、それで連絡するのか? 病院への説明にも困ったくらいだ」

「でもね、かかりつけの先生が事情を話してくれたの。あの子、心療内科にかかってたのよ」

「そんなん、初耳やし」

「あんたたちずっと連絡取ってなかったでしょ、誰にも話せなかったんでしょうね」

正直、おれは別に避けて連絡してなかったわけやない。

何となく、こいつがそんな雰囲気を出してたから、連絡せんかった、それだけや。

「で、原因はわかったん?」

「いや、わからない」

「はぁ、じゃ、なんで病院から戻ってきてるん?」

「身体はどこにも異常がなかったんだ」

「なら、なんで起きんの?」

「医師は話の最後に、もしかして、と言った後に、クライン・レビン症候群かもしれません、と話してくれた」

「なん、そのなんとか症候群って?」

「睡眠障害のひとつらしく、寝てしまったらいつ起きるかわからない病気で原因も不明らしい。悩みやストレスの負担が脳に影響してるのかもしれないと話したが、もう本人にしかわからない」

母親が弱々しく呟いた。

「きっと何かあって現実から今は逃避したいのよ、楽しい夢の中にいたいの。死んでないんだもの。起きるのをみんなで待っててあげましょう、冬眠してると思って……」


おれは二人をその場において、二階に上がり、弟の部屋にあるパソコンを開いた。

検索するとさっき聞いた病名が目に入ってきた。


【クライン・レビン症候群】

別名眠り姫病。一度、寝てしまうと数日間、眠った状態が続く。

海外では10日間寝続けて起きたこともあったらしい。原因は不明。

若者がなりやすいケースが多く、寝たり起きたりを繰り返しそのうちに治るケースもある、

と書いてあった。


なんで弟が……

両親が寝たあと、ふたたび弟の隣に座った。

弟に目をやるとパジャマのままやった。

布団から出ている手にはスマホが握られて暗闇の中、寂しく光り続けてた。

弟の手をゆっくりと離して、スマホを取りあげた。

まだ指紋認証式のスマホ使ってたんか。

るいの指にかざすと、画面が開いた。

未読のメッセージと無数の着信履歴が入ってた。

登録名は、中野凛。

最後に弟が読んだと思われるメッセージを開いた。


ーー同じ大学に合格できたんだよ! もうすぐ会えるんだねっ

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