るいの告白11
「あの頃、きみのことを好きだった、のは兄ちゃんだと思う」
それはきっと自分だけ話に入れてないもどかしさ、
楽しそうにする二人への幼稚な嫉妬から出たセリフだった。
言ったあとで、とても恥ずかしくなったが、
彼女の顔をちらっと見ると、
「それ、知ってましたよー」
真剣そうだった彼女の顔が、ふと緩んだ。
「え?」
「おれ、前に一回、りんちゃんにフラレたんや。すまん」
と説明する、あおの顔は彼女とは対照的に少し引きつっていた。
「それっていつ?」
「彼女がうちに来た、帰りに送っていくときやっけ?」
「はい、おくり狼、あおさんでしたねっ」
「兄ちゃん、そりゃダメでしょ」
何だか、それを聞いて真剣に考えるのが、バカらしくなった。
好きとか嫌いとか、もうどうでもいいって思ったのに、
「るいさんのことが好きだったから、お兄さんを断ったんです。で、るいさんは?」
変わらず、彼女は聞いてきた。
そんなに簡単に、なんで異性に好きって言えるのかわからなかった。
ぼくは生まれて今まで、まだ誰にも好きと言ったことがないし、
好きといった感覚がどんなのかも、よくわからない。
そんな、ぼくが今、彼女に言えることは、一つしかなかった。
「ぼくは、きみを、好きになりたいです」
二人はぽかんとしたまま、しばらく無言だった。
かと思うと、突然、一斉に笑い出して、
「なぁ、聞いた、好きになりたいです、やて。大人が真剣に言ってるわ」
「ほんとですよ。ねぇ、あおさん、彼は病気から戻って中学生に逆行してません?」
「やっぱり? おれも、そうかなって感じてたんや」
ぼくは思った、この二人のノリこそ中学生のそれだろって。
まじめに言って損した、と後悔していると、
「じゃ、おれはそれを応援するわ、がんばれよ」
「仕方ないですねー、応援してあげましょうか」
他人事のように話す彼女に腹が立って何か言いたかったけど、
その顔つきを目にして、思いとどまった。
彼女の目には涙が溢れていた。
「じゃ、そろそろ時間やし帰るか、弟よ」
「う、うん」
「りんちゃんも、ありがとうな」
「こちらこそ、遠いところまで来ていただいて、ありがとうございました」
「おい、お前もなんか言えよ」
「あ、ありがとう、ございました」
「なんで敬語なんですか。るい君、それで先生が務まりますかー」
「大丈夫だよ。きみみたいな良い生徒に出会えたから、先生になろうと思ったんだ。ぼくの最初に生徒になってくれて、ほんとにありがとう」
彼女がまた涙目になりそうになると、
「中学生のくせに、年上のお姉さまを泣かしちゃダメやろ」
あおはぼくの頭を叩いて、腕を引っぱった。
そのときになって、やっとぼくは気づいたんだ。
どうして二人が、ぼくを茶化すような話し方をしてたのか。
まじめに当時の話をしていたら、涙ばかり流れて、
きっと話なんてできなかったんだね。
それくらい、ぼくと過ごしたあの頃は、二人にとって大変な日々だったんだ。
二人はずっとその過去を思い出にしながらも、まだその過去の中でもがいている。
ぼくだけが、すっかりそれを忘れて、ひとり勝手にのんきに過ごしていた。
「兄ちゃん」
「どした?」
「ぼくって、結局、フラれたのかな」
「かもな」
「なら、兄ちゃんと一緒か」
「そやなー」
「でもさ」
「あ?」
「兄ちゃんを見習う、今もあきらめてないんでしょ?」
「かもな」
「今って好きな人とかいると思う?」
「そりゃいるやろ」
「でも、それでもいいって。好きって気持ちをまた見つけたいんだ」
「おまえ、ストーカーにはなるなよ?」
「ぼくは、そんなタイプじゃ……」
「いや、そんなタイプやし」
そう言い合いながら駅まで歩く道のりはとても楽しく、
駅にまだ着かないでほしいと思っていた。
こうやって二人で話すことも家に戻ったらなくなる。
あのときの、あおの目は真剣だった。
家を出ていくのはきっと本当なんだ。




