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るいの告白6

カレンダーを眺めても、季節が伝わらない。

ずっと部屋で寝続けているのだから、

気温の変化もわからないし、景色の移り変わりも知らない。

周りで何も起こることなく、ただ時間だけが過ぎる。

そういった生活にも慣れていった。


病気になって4年が過ぎたらしい。

でも、ぼくの体感としては半年といった感じかな。

最初のころは目覚めて数時間で、すぐに眠たくなった。

最近は、眠気もすぐには起こらず、起きてご飯を食べた後に、

家族と話をするといった時間が増えていった。

病気になる前、こんな風に話をする機会はなかったと思う。

ぼくがこの状況に慣れていったように、

家族もこの状況をすっかり受け入れている。


主治医から、

「たまに脳波に乱れがみられますね」

と言われたが、それは健康な人間にも起こることらしい。

感情の変化、周りの変化に脳は常に反応している。

脳を使わずに生きることは不可能だから、それは当然だ。

脳波の動きを示すデータを画像として見せられて改めて納得したが、

ぼくの場合、その乱れたときの振り幅が一般より、かなり高かった。

「たとえば、地震の揺れが大きければ、直接的な被害だけでなく、二次災害のように間接的な影響をもたらすことがありますよね。それに似てると考えてください」

と医師は言った。

そのせいで揺れが収まったあとも脳のどこかに影響を与えているのではないか、

と話してくれたが、それがわかっても治療法が見つかるわけではないそうだ。

最終的には、焦らず、気長に待つのが最善の道だった。


今日の日付けを確認してから、兄に声をかけた。

「ねぇ、兄ちゃん、どこ」

「あー、どうした?」

台所の方から声が聞こえてきた。

今日は兄が食事の支度をしてくれていた。

兄は一人暮らしをしてたので、家事も器用にこなした。

ほんとに自分にないものを全部持っていかれた気がして、

最初は嫉妬や拒絶といった負の気持ちばかりだったが、

病人という立場を時間をかけて受け入れていくうち、

兄の存在はぼくにとって心強いものに変わっていった。

「えっと、ひとつお願いがあるんだけど」

「なんか、嫌な予感しかせんわ」

と言いながらも、その表情は穏やかだ。

「ま、ええよ」

「まだ言ってないんだけど」

「病気のうちは、何でも聞いてやるわ」

「ありがと」

「その代わり元気になったら、おれの言うこと聞いてもらうな」

「うん、わかった、何だって聞くよ」

元気になったら、か。

前は元気な自分に戻るのが不安だったのに、

最近はその日がいつ来るんだろう、と期待している。

夢をたくさん見ることに飽きてきたのか、

そんなたくさんの夢を見すぎたせいで、

今までの嫌な過去というものが薄れてきているのか、

理由ははっきりしないけど、これは、いい傾向なんだろう。


兄は、手際よく作った食事を目の前に置いた。

「じゃ、行ってくるとするわ」

自分で行きたかったけど、さすがに外出はできない。

兄にすべてを任せることにした。

「うん、兄ちゃんに託したからね」

「託すとか、おおげさ過ぎやろー」

と笑いながら部屋を出ていく。

ううん、それは託すくらい大事なことらしいんだよ、

と中途半端な気持ちなのは、その願いは今のぼくの気持ちでなく、

メモに記していた過去の自分の願いだったから。


カレンダーにもう一度、目をやった。

「早いな、もう3月か」

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