瀬野瑠生(せのるい)の告白1
「ぎりぎり、か」
真っ暗になっていた、モニター画面に「WINNER 」と文字が浮かび上がった。
(うそつき)
「やっぱりきみか」
(きえて)
「そうだよね」
画面の向こうの敵がなぜか、みんな知っている顔に見えた。
中学や高校のときのクラスメイトや、先輩たち、両親に兄まで……
どの顔も無表情で、彼らから敵意さえ感じた。
あんな幻覚が見えたのは、薬を飲み過ぎたせいだろうか。
「ねえ、きみ?」
ぼくは彼女の名前が思い出せなかった。
きみはそれから返事をしなくなった。
名前で呼ばないのを怒っているのかと思ったけど、すぐに違うと気づいた、
あの声も幻聴なんだって。
パソコンの電源を切った。
ゲームをしても気分転換にはならないとわかっていた。
でも、あんな風にこの状況を逃げきれたらと思った。
それは単なる思考の逃避だった。
布団の上では今もスマホが光り続けている。
その横には錠剤薬の殻が数個、落ちていた。
いま、見えている景色はゲームでも幻覚でもなく、現実だ。
早くスマホの電源を切らないとだめだ、あるいは、
窓を開けて投げ捨てないとだめだ、心がぼくにそう訴える。
しかし、点滅しながらスマホも寂しげに訴え続けていた。
早く手に取って、そしてメッセージを読んで、お願いだからと。
20分以上、電源の切れたパソコン画面の前に座っていた。
窓の外から雨音が小さく聞こえ始めた。
しばらくすると、雨音が激しくなって、雷鳴が轟いた。
ピシャッーーツ。
ゲームで聞いたのと同じ響きだった。
これは、始まりの合図。
両手が机の上を押して、この身体を支えはじめる。
両膝が真っ直ぐに伸びて、身体がイスから立ち上がる。
これが自分の意思かどうか正直、わからなかった。
コントローラーに操作されている、それに似た感覚だった。
ベッドに向かってフラつきながら進んでいった。
ベッドの上に倒れこんだあと、スマホに手を伸ばした。
スマホに届いているメッセージを開いた。
ーー同じ大学に合格できたんだよ! もうすぐ会えるんだねっ
それを見たとたん、目の前がまた真っ暗になった。