9 廃人
「おやびんさーん、イベント頑張ってるみたいじゃないですかぁ」
「おお和尚さん。太陽の野郎が紫に見えるのはなんでかね?」
「ダメだw この人イベントポチり過ぎて廃人になってるw メディック! メディ〜ック!!」
坊さんにメディックを呼ばれるなんてワテクシもいよいよだと感じる今日この頃。
いや実際、廃人プレイなのだが。平日の昼間なぞ、真っ当なオッサンなら仕事がある。ワテクシも例に漏れず社畜街道を全力疾走だ。
となると必然的に腰据えて出来るのは帰宅後となるのだが、寝食をギリギリまで削ってポチっている。たかだかカードの為になぜワテクシはここまで突き動かされたのか……
「ここんとこ平均睡眠時間が2時間でつ」
「身体こわしますよ?」
「なんのこれしきオギノ式! 1位を目指す代償なら安いものハッハッハッ……グゥzzz」
「寝てるからwww」
「ちなみに和尚さんは50傑に入れそうかね?」
「これが微妙なところで、40位くらいまで上げても少し目を離せばもう落選してるって感じで。凄い激戦なんですよ」
「わかるわぁ。おまい等仕事せーよってくらいに昼間順位落ちまくるの」
「泣いても笑ってもあと1週間、お互い悔いの残らない様に頑張りましょう」
「んだんだ、頑張んべ」
イベント報酬に皆、目の色を変えてポチっているみたいだ。特に250位までが地獄の様になっている。携帯の熱さも尋常ではない。それでもポチり続ける、そこにイベントがある限り。
ポチりまくって親指の痛みが快感になってくる頃、イベントも大詰めを迎える。残すところは土、日、月曜日の午前だ。月曜日の正午きっかりに終了となる。
なんとしても1位を。その為にワテクシは暗い覚悟を決める。
二徹だ。
土、日と死ぬ気でポチり捲る。そして月曜日の午前は捨てる。ワテクシの予想が正しければ必ずそれで逃げきれるはずなのだ。ともあれ、先ずはこの週末で大量リードを作らねばならん。その為に二徹は避けられないだろう。その旨、軍板で皆に報告しておこう。
「皆のもの、尻の穴かっぽじってよく嗅げ」
「おやびん、それを言うなら耳の穴かっぽじってよく聴けだよ」
「ああそれだ。些細な間違いだ」
「で、なに? あらたまって」
「これからワテクシは修羅道に入る。話し掛けても返事がない、ただの屍の様だとなっても気にするな。ただの屍と思ってくれ」
「つまりこれまで以上にイベントに集中したい……でOK?」
「流石だな藍華、話が早くて助かる。有り体に言えばそうだ。ガチで1位を狙っていく所存でありす」
「わかった、じゃ、うちらも出来るだけのサポートはするから。少なくとも軍バトはうちらに任せといて」
「かたじけない! 1位を獲れた暁にはみんなにもれなく接吻をしてやろう!」
「いらないし!!」
そんな感じで地獄の週末へと突入した。ワテクシは修羅。ポチポチ阿修羅! ワテクシの前は誰も走らせぬ! ぬおおおおおおおおおおおおお…………
それはまさに地獄だった。シッダールタ先生も裸足で逃げ出す苦行。マッスィーンの様にひたすらに、ただただひたすらにポチり続ける。いつの間にか時間の概念が消え去り、より効率を求めたポチりへと昇華されてゆく。ゾーンだ。1流のアスリートなどに見られる究極の集中状態、ゾーンに入ったのだ。
もちろん、んなわきゃない。そんなスペサルな能力あったら、さえないサラリーマンなんぞやってない。
とはいえ、カフェインを致死量近くまでがぶ飲みし、デスロードは完遂された。ぶっちゃけもっと差は開く予定だったが、ハジメちゃんを始め(別にハジメちゃんのハジメと始めを掛けたわけでない! コイツ寒いダジャレぶっこむなとか思わないでくれ)プレイヤー全体的に徹夜、或いは睡眠時間を削ってプレイしたらしく、思った程開かなかったのは誤算だった。
それでもワテクシの予想通りならイケるはず。それでダメなら素直に負けを認めるよりあるまいて。
そして月曜日の午前は過ぎて、イベントは終了した。
結果発表。
1位 おやびん
2位 ハジメ
おおお……
やったぁーっ!! 獲ったどー!! ぬおーっ!!
記念すべき初イベント個人優勝を見事にゲットした。課金や二徹の甲斐もあったってもんだ!
「おやびんさんおめでとうございます。くそー、届かなかったなぁ、最後、あんなに重くなりさえしなければ……」
「ハジメちゃんありまとー、いやー僅差だったなぁ、危ない危ない」
やはりワテクシの思惑は的中していた。月曜日の午前は集中過多でサーバーが重くなると踏んだのだ。実際プレイ中何度となく重たい状態はあった。それが最後の追い込みで皆んなが悪あがきすれば、ろくにポチれなくなるレベルにもなるだろう。集中過多でログインすら出来ないプレイヤーもいたとか。
いやはや、逃げ切り作戦大成功! テッテレー♪