82 おやびんブートキャンプ8
「それでは今日の軍バトの指揮は貴様がとれ、同士しゅうへー」
「え? 俺っすか?」
「そうだ。どのみち明日からワテクシはいないからな、誰かがその大任を担うべきだろ?」
「その白羽の矢が立ったのが俺なんですか…… うーん、ちと荷が重いなぁ」
軍師にしゅうへーさんを任命したのだが、本人的には腰が重いようだ。しかし、
「いやいや、しゅうへーさんしかいないっしょ」
「まぁね、お頭以外で考えたらしゅうへーさんだよね」
「皆んなもサポートするからお願いしますよ」
軍板に次々としゅうへーさんを推す声があがる。実質ベッドルームを仕切ってきたのはしゅうへーさんだからな、皆んなの信頼も厚いのだろう。
「ん〜、そこまで言われたら断われないよな。わかりました、至らぬ点も多々あると思いますが、頑張ってみます!」
これはさすがのしゅうへーさんもむげには断わらんわな。良き良き。
「それでは、さっそくですが、今日は先程話したように、皆さんのっけから全力でお願いします。特攻隊の皆さん! 今日も一番槍でベッドルームこれに有りと分からせてやって下さい! それでは全軍出撃ぃっ!!」
軍師様の号令のもと、開戦の火蓋が切って落とされた。やはりパパ、ヒロ率いる特攻隊の突撃力はベッドルームの花形と言わんばかりの勢いがある。
そして特攻隊に続けと、続々と攻撃が繰り返される。エース級のメンツは幽霊廃課金者を徹底的に削りにいって、デッキ割れを狙う。
出だしは実に好調と言って良いが、楽々寺が異常事態に気付く前に、どれ程差を伸ばせるかが最重要なのは皆も理解しているらしく、手を休める者はいない。普段賑やかな軍板も静かなものである。
時は進み20時、いよいよ楽々寺もいつもと余りにも違う展開に気付いたらしく、普段よりは早めに攻勢を仕掛けてきたが、
「ついに向こうさんも動き出したようです! ここからが正念場ですよ! 向こうがフルメンツ揃うまでに差を広げてやりましょう!」
しゅうへーさんの激が飛ぶと、おう! と、口々に呼応する。まだまだ士気は高い。しかしながら安全圏と言える程の差も無いのは事実。ハッパを掛けるタイミングは絶妙だな軍板殿。
21時。
事態が大きく動き始めた。いよいよ楽々寺もフルメンツで凸ってきたのである。単純な全軍による乱打戦となると、圧倒的に相手の方が強い。更にはベッドルームは長期間の疲弊も隠せず、勢いは衰え始めている。
「くっそ、ここまでかよ」
「ジワジワと縮められてますぅ」
「やはり課金者勢は強いなぁ」
やはりそうなると弱気なコメントも出てくるも、
「皆さん、諦めてはいけませんよ」
御大、お頭さんが現れた。
言うなりこれでもかと攻撃をおこなうお頭さんを見た団員は、
「え? お頭?」
「なんでいるの?」
「軍バト嫌いなんじゃ?」
そう、軍メンの言葉通り、お頭さんは超が付く鳩派。攻撃されるのはもちろん、するのも相手に申し分ないと思ってしまう人で、基本、軍バトには参加しないのである。ならなんでこんなゲーム始めたのかはかなり謎であるが。
「皆んな!! お頭だってこんなに頑張ってんだぞ! 俺達が弱音吐いてる場合か!!」
しゅうへーさんがすかさず喝を入れると、
「そ、そうだな! まだ抜かれたわけでは無いんだ!」
「俺達の悪癖はここで捨てないとな!」
落ちかけた士気がどうにか回復したようだ。お頭さんの求心力はさすがにすさまじいもんがあるな。
22時。
ついに点差が捉えられてしまった。善戦虚しくも相手の火力に飲み込まれてしまった。
「まだですよ! 私達はまだ終わってませんよ! メデジン・カルテルの皆さんに私達の成長を見せるのが私達の出来る恩返しです! 諦めてはいけません!」
おお、お頭さんよ、中々嬉しいこと言ってくれるな。確かにそいつは格別の恩返しだわ。
「大丈夫ですよお頭!」
「諦めてませんて」
「勝負は下駄を履くまで分からない。でしょ?」
「メデジンの皆さんに残念がられたらお頭の恥になるぞ! みんなけっぱれ!!」
なんと言うか、本当にお頭大好きっ子達の集まりなんだなと痛感する。士気の衰えはどうやら無いようだ。
ただ、それとは別に口々に言うのは、楽々寺もいつもと様子が違うと。いつものような余裕が感じられない、どこか鬼気迫る何かを感じるとか。
……正直思い当たる事はある。ワテクシ達の存在だ。食客にメデジン・カルテルがいる事に、和尚や副長の澪さんが警戒しているのだろう。我々がいるというプレッシャーが悪い方向に働いてしまっているのだろう。ベッドルームには申し分ない気分でいっぱいだが、ここでじゃあワテクシ達が出ていってあげるのも違う気がするしな……
そんなわけで、士気こそ高いが、それでも戦況は芳しくなく、徐々にその差が広がってゆく。
そんな中、しゅうへーさんが意を決して軍板にコメントをした。
「本当は俺達だけでどうにかしたかったけど、このままじゃ勝てない。今日だけはどうしても勝ちたいんです! 今日勝てたらベッドルームがもう一つ上のステージに行ける気がするんです! 恥を忍んでお願いします! メデジン・カルテルの皆さん! 出撃して下さい!」
なるほど、そこまでこの軍バトに賭けてるのか。これはもう四の五の言ってる場合じゃ無いな……
「了解だ軍師殿。メデジン・カルテル出るぞ、撃鉄を起こせ」
「お? いいのかおやびん? 手は出さないつもりだったんじゃねぇのか?」
「軍師殿の命令だ。従わないわけにはいかんだろ?」
「そっか。それもそうだな。んじゃ、暴れてやりますかね」
「待ってました! 僕も最近軍バト出来て無くてフラストレーション溜まってたんですよね!」
「……わくわく。うでがなる」
言うが早いか、3人が突撃を始めれば楽々寺に猛追を始める。
コイツらはコイツらでバトルジャンキー街道まっしぐらだな。恐ろしいらや頼もしいやら、普段から少人数で鎬を削っている軍団の面目躍如だ。もっとも、教官として威張り散らしていた手前、恥ずかしい所は見せれないのだろう。普段より熱が入っているのは間違い無い。
そんな圧巻の戦闘力を目の当たりにした軍板では、
「ふわぁ〜…… トーコさん、教官さん達ってめっちゃ強かったんですね」
「ああそっか、マキちゃんは以前おやびんさん来た時いなかったもんね。あのねマキちゃん、本番はこれからだよ」
「本番? ですか?」
「そそ、本番。見ててごらん、嵐が吹き荒れるから」
なんだかエライ持ち上げられ方だが、これは一世一代のドヤチャンス! ワテクシはこの時の為に廃課金しとるんや! 見さらせ!
「ポチポチ阿修羅―――― 推して参る!!」
地獄の連射が猛威を振るう。全てはドヤる為! 持て囃される為に!!
「す! すごっ!!」
「は? なにこれ!?」
「手が何本あるの!?」
「いやいやいや、もう笑うしかないなこれは」
「いける! これならポイント抜き返せるぞ!」
「皆んな軍曹に続け!! 死ぬ気でポチれ!!」
軍板のコメントは喜色に溢れ返り、ポチポチにも力が入る! 楽々寺も最後の猛ラッシュで全力の抵抗を見せる。
もはやポイントを見る暇も無い程に全員かポチポチに集中して軍バトは終了した。
結果
ベッドルームが最後の最後、見事に捲って勝利したのだった。
「ヒャッヒャッヒャ! ざまあみやがれ和尚! 悔しがってる姿が目に浮かぶぜ!」
「凄いけどクズwww」
「でも勝ちは勝ちだよね」
「ほんと、ありがとうございました」
軍板が勝利の喜びに包まれる中、小夜が仕掛けた。
「……おーかしら、おーかしら」
勝利のお頭コールだ!
当然、こんな美味しいシチュエーションを見たメデジン・カルテルメンバーは、
「おーかしら! おーかしら!」
「おーかしら! おーかしら!」
「おーかしら! おーかしら!」
全力で乗っかる。
「え!? ちょ!? やや、やめて下さい! そんな恥ずかしい!!」
恥ずかしがるお頭さん。しかし、ベッドルームのメンバー達も、
「おーかしら! おーかしら!」
「おーかしら! おーかしら!」
コールを始めた! 総勢50人からのお頭コールはお頭さんの悲鳴と共に、暫くの間鳴り響いたのであった。




