64 大便小便を兼ねる
「デカッ!! 何だこれおやびん! テントってこんなにデカいもんなのか!?」
優と一緒に巨大テントの設営をして小一時間。不慣れな作業のせいで偉い時間は掛かってしまったものの、何とか形にはなった。
その間に料理を担当していた日向と小夜も、ほぼほぼ料理を完成させたらしく、巨大テントにビビっている。
「いや、これは中々見ないレベルだな。ほれ、他のキャンパーさんのテント見てみろ」
キャンプ場はワテクシ達の他にもチラホラキャンパーはいる。穴場だけに大した人数でもないがね。お一人様はともかく、仲間や家族の複数人でもここまでデカいテントはいない。
「……ひろい」
「だろ? 大便は小便を兼ねるって言うだろ? デカい方が良い。実はこれマスターから借りてきたんよ。アイツはキャンプマニアなんだよ」
「大は小を兼ねるな! しかしマスターと夜中にキャンプ場で会ったら叫んじゃいそうだけどな」
「まぁな。ヤーさんが死体遺棄にでも来たんかと思うわな」
「二人共中々に辛辣ですね」
眉をひそめる優を尻目に、今度は日向達のこしらえた料理を見やる。所狭しと並べられた料理は想像を大きく超えてくる出来栄えだった。
「おっほー! コイツは日向ご馳走だなおい!」
「だから任せろっつったろ? とは言ってもあんまり機材とかないからな、手の込んだ料理は作れないけど」
「いやいや、こんだけ出来れば上等上等! 日向は良いお嫁さんになるな!」
「……ヒナちゃんは私の嫁」
「いーやワテクシの嫁だ」
「おや? 優君はアタシを嫁にしたく無いのかい?」
「ああ! すいません! 僕の嫁です!」
ノリに付いて来れなかった優にしっかりと突っ込む辺りは流石の日向さんである。
「……みんなのお嫁さんになっちゃった」
「ハイハイ、もう嫁でも母ちゃんでも好きな様にしてくれ。温かいうちにさっさと飯にしようぜ」
そんなある種達観の境地にたどり着いた日向に促され、いよいよ花見を開始する事にした。
「……じゃ、おやびんかんぱいの音頭よろしく」
「えー、こほん。皆さん本日は絶好の花見日和に恵まれ、これもひとえに皆様の普段の行いの賜物と、大変喜ばしい限りでございます。ここで長々と話すも無粋ですので、料理に、桜に、存分に楽しみましょう。それでは、乾杯!!」
「「「おっぱーい!!」」」
「もまいら何の迷いも無く着いて来やがったな!!」
「なーんかぶっ込んで来るとは思ってたからな!」
「……乾杯とおっぱいを掛けてくるとは……」
「僕も今回は着いてゆけましたよ!」
中々におちゃめな奴らだな。コイツらからドンドン恥じらいが抜け落ちて行ってるのが気のせいで無ければ良いのだが。
「ぶはーい。労働の後のビールは格別じゃわい」
「僕も汗びっしょりになりました」
「案外テントの設営って重労働だろ?」
「はい! でも楽しかったです!」
「そりゃ良かった。わざわざこんなとこまで連れてきた甲斐もあるってもんよ」
「アタシ達だって頑張ったんだぜぇ?」
「……そーだそーだ」
「おう! 2人のこさえてくれた料理も美味いぞ。よくまあこんなに造れたもんだなぁ。おぢさん脱帽だ」
「へっへーん。ドヤぁ」
「……ドヤぁ」
「お? おまいらもドヤのなんたるかがわかってきたみたいだな。だがまだまだ一丁前のドヤラーには程遠いがな」
「一丁前のドヤラーってなんだよ!」
「……むう。しょーじんせねば」
「小夜さん! そこは精進しなくていいやつです!」
楽しい宴会は始まったばかりである。