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第3話 乙女ゲーム世界のはずなのに

「アーサー様付きの情報局員について、ご教示いただけませんでしょうか」

 私は王都の刑部省情報部のオフィスにいた。


「何に気づいた」


 そして、私の目の前にいるのは、マインクラフト伯爵。

 刑部省情報部のトップだ。


「アーサー様謀反の可能性がございます」

「どういうことだ」

「アーサー様の本意ではないかもしれませんが、結果として、そのような動きになる可能性が」

「説明したまえ。エリス君」


 現状の知識として、アーサー様に近づいている男爵令嬢セリア・サクリファイスの動きと、周囲の男たちの動きを報告する。


「あくまで、シルビア様のご懸念でございますが、アーサー様がセリア様に乗り換えるといったお考えを持たれていると。怯えと言ってもよいかもしれません。本来なら、アーサー様がセリア様を愛妾としてお迎えする程度かとは思われるのですが、そうではなく、シルビア様とのご婚約を解消し、セリア様を正妃として迎えようというお考えを持たれていると」


「何か言質のようなものは取れているのか」


「シルビア様のご懸念ですので、まだ思い込みの部分も大きいかもしれません。とは言え、お子様たちの火遊びにしては、火力が高すぎる懸念があります」

「火力というと?」

「もし、婚約破棄に及べば、お二人だけの問題ではなく、サファイア侯爵家を巻き込んだ政変となる可能性もございます。また、サクリファイス家の扱いなども含めて、安定している王国の政治に楔が打ち込まれる可能性が」

「ふむ。最近アーサー様の周囲に身分の低い令嬢がいらっしゃるのは承知している。合わせて、ご学友達も、それを諫めるでなく、ともに心を許しているとも聞く」

「そこまで、調査済みですか」

「ほかの方々はともかく、王太子には、うちの部員をつけてあるからな。少し火遊びが過ぎるのではないか、との報告がある」


「シルビア様のご懸念が実現する可能性が?」

「シルビア様がそのように感じられていることがすでに問題だな。エリス君。部員を何人か使っていい。少し調査に入れ。アーサー様には、君の同期のジェイムスをつけてある」

「了解しました」

「調査結果をもとに、親からお叱りを入れていただくのが無難なところだ。場合によっては、セリア嬢にしばらく遠くへ行っていただく方法も検討しよう。しばらく頭を冷やしていただかなくてはな」

「了解しました。アメリアをお借りしてよろしいですか?」

「かまわん。使え」

「了解しました」



 アメリアは私の同期の一人だ。

 本部を訪れた際、オフィスで暇を持て余していたように見えたので、名前を出してみたのだ。


「アメリア。ちょっといい?」

「エリスのためなら、いつでも」


 アメリア・グレイハウンド。

 グレイハウンド子爵家の四女ということで、口減らしに出されたのは私と同じだ。

 特徴は、その豊満な肉体だ。


 すでに何人もの男を、その肉体で蕩けさせ、そのまま地獄へ一直線させている。

 ついでに言えば、閨房術の個人教授をした一人でもあるが、技術と経験で言えば、私を十分に超えている。

 ついでに、私にはアメリアのような豊満な肉体はないので、そもそも勝ち目がない。



「男爵令嬢セリア・サクリファイスとその周辺を探ってほしいの」

「具体的には?」

「シルビア様を追い落として、自分が正妃の座につこうとされている」

「なかなかに不敬なたくらみね」

「愛妾くらいにしておいてほしいのだけど、アーサー様の方がね」

「ふむ。承ったわ。うまくやるから、今度一晩時間をくれない?」

「わかったわ」


 そう言って、唇にキスをする。

 潤んだ、瑞々しい唇はとても甘く感じる。


「今はシルビア様付き、よね」

「そうよ」

「なら、報告はそちらに。タウンハウスの方にお邪魔するわ」

「話が早くて助かるわ」

「エリスのためだからね」


 私はアメリアと別れて、馬車に乗り込む。

 既に日が暮れており、あたりは闇。

「タウンハウスへ」

「了解です」


 御者が馬車を走らせる。

 もちろん、御者も情報部の人間だ。

 しばらく走ると、馬車が止まる。


「目の前を馬車が塞いでいます。男が三人。武装してます。松明が三本と、馬車にランプ。椅子の下にフリントロックと剣があります」


 襲撃?


「情報が洩れているのか、見張られていたのか」

「後者の可能性かな」

 深夜の隠密行動をしているわけではない。

 タウンハウス前にでも張っていれば、十分に察知可能だ。


「ヤバい。銃を持っています」

「あなたは、馬車を見捨てて逃げて。あなたを追うようだったら、返り討ちにして」

「了解」

「追わないようだったら、外側から銃撃を」

「了解」

 その言葉の後、御者はいきなり大きく動いた。

「賊か! くそっ俺は死にたかあねえんだ」

 そう叫んで逃げ出した。

 うん。あまり演技うまくないね。


 私はフリントロックの撃鉄を起こした。


「女! 出てこい。出てこなければ撃つ!」

 私はその言葉を無視して、床に伏せ続ける。


「出てくるつもりがないか。構え」

「撃て」


 轟音。


 三発の弾丸が馬車を撃ちぬく。

 そのタイミングで飛び出す。


 火薬煙で視界が遮られる中、私は男たちに近づくために走る。

 前世世界の銃ならともかく、この世界の銃は、最新がフリントロック式の、黒色火薬をふんだんに使うものだ。三丁で一斉発射、それも夜となれば、大幅に視界を奪うことになる。

 私は煙の中を走る。

 そして、煙が晴れた隙間に見えた男に向かって撃ちこむ。


「ぎゃっ」


 そのまま、フリントロックを捨てる。

 弾倉という概念がないので、すべての銃は単発連発である。だから、左手で持っていた剣に持ち替え、煙の中から、一突き。


「何だ! こいつ!」


 私は無言でもう一人に斬りつける。


 剣を持っていた左手が飛ぶ。


「わっ」


 そのタイミングで銃声。

 道を塞いでいた馬車の御者がもんどりうって倒れた。

 逃げたはずのこちらの御者の射撃だ。

 演技は下手だが、射撃はうまいな。


 戦闘はあっさりと終わった。


 そこに馬の足音。

 三人ほどの武装兵。

 刑部省王城警護隊の人間だ。


 まあ、いわゆる治安維持のためのお巡りさん的な扱いの人たちだ。

 銃声を聞きつけてきたのだろう。


 とりあえず、こいつらの裏に誰がいるのか、いろいろと明らかにしてもらおう。

 二人ぐらいは、まだ息があるし。


 ため息をつく。

 乙女ゲームの世界のはずが、いつの間にやら陰謀渦巻く権力闘争ゲームになっているような気がした。

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