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#7 インコンパティブル

あまり作品に関係ないことは言いたくありませんが、4は素数にしてもいいと思います。

 前を行く私とウィング、後ろにラーン。

 センコウを追いかけて、木漏れ日のダンジョンを走る。


「あっ!」

「どしたの、ラーン?」

「魔物です!」


 急ぐ道中にも、魔物は関係なしにやってきた。

 現れた以上は戦わないわけにはいかない。


 目の前にはフォレストラビットが2体。

 さっきよりも多いけど、こっちは3人だ。

 なんとかなるはず!


「ウィング、前に出て魔物を食い止めて! その間に、私が魔法を準備するから!」

「いや、俺が全部倒す!」

「えっ、ちょ!?」


 ウィングは私の言葉も聞かないで、ひとりで飛び出す。


「かかってこいよ、魔物ども!」

「キューッ」


 なんで勝手な行動するのかな、男の子ってば?

 ああもう、仕方ない……今のうちに詠唱しよう!


「“唄え、短き命……勇気の欠片、誓いを守れ!”――脈打つ情熱(フレイム・ヴェイン)っ」


 前へ突き出した私の腕から、勢いよく火球が放たれる。

 狙うはフォレストラビット1体。

 火球はまっすぐ飛んでいって――


 ……曲がった。

 横方向に進路を変えて、明後日の方向へ。

 そのまま、遥かな空へ消えていく。


「あの、パトナさん」

「……も、もう一回だね!」


 後ろから感じるラーンの困惑が痛い。

 でも私、こんなもんじゃないよ!

 やればできるから……!


 感覚に任せて、やたらと剣を振り回すウィング。

 魔物たちの注意は彼に向いていた。

 今のうちに後方支援の魔法を撃ちこめば、かなり有利になるはずだ。


「よし、集中っ!」


 師匠に教わったことを思い出せ。

 落ち着いて、前をまっすぐ見て、狙いを定めるんだ。

 余計な考えは捨てて……


「キュー!」

「このっ、おらァ!」

「キュッ……」


 ……うわわ、どうしよう?

 狙いが定まらないぞ。

 このまま撃ったら、ウィングに当たりそうだよ。


 正直、彼の剣捌きは素人っぽい。

 トラフだったら、もっとしなやかに動くと思う。

 その動作が読みづらいせいで、魔物に目標が定まらなかった。


「う、撃てない……」


 結局、私は手出しできない。

 なにもできずに、ただ戦闘を見ていた。


 ――しばらくして、ウィングはすべての魔物を倒す。

 時間はかかっても、ひとりで勝てるらしい。


「よ、よしっ!……お前ら、見てたか!」


 彼はドーンと胸を張る。

 そうして、剣の先で倒した魔物を示した。


 まあ確かに、強いのは分かったけど。

 素直に「すごい!」とは言えない。


「勝ったのはいいけど、協力しようよ!」


 私たちはパーティなんだから、協力して戦うべきだ。

 これじゃ仲間でダンジョンに来てる意味がない。

 もちろん、これはセンコウにも言えることだ。


「……協力?」


 わざとらしく剣の状態を確かめながら、訝しげな顔をするウィング。

 なんか聞く気なさそう……でも、言う。


「もしも勝てない魔物が相手だったら、どうするつもりなの?」

「そんなのいねーよ。俺は強いからな」

「いやいや、いくらなんでも自信過剰じゃない!?」


 うーん、私が説得するのは難しいみたいだね。

 というわけで、ラーンのほうを見る。

 彼女はちょっと驚くと、おそるおそる口を開いた。


「た、戦いながらチームワークを鍛えることも大事ですね」

「なんだよ、ラーンまで。へへっ、俺は強いから大丈夫だって!」

「で、ですけど……」


 頑張って話してくれるラーン。

 そんな彼女に、ウィングは不信の眼を向ける。


「ところでラーン、お前は戦えないのかよ?」

「へ?」


 いきなりの一言。

 ラーンは戸惑いながら、その手で杖を握る。


「わ、私はヒーラーなので……いちおう、回復がセンモンで……」

「そんじゃ戦いのことは分かんねーだろ? ま、心配すんなって!」

「い、いえ、でも」

「みんな俺が守ってやるよ。お前、戦いで役に立たねーし」


 なんでもない顔のウィングは、きっと悪気なく言ったのだろう。

 でも、彼がそう発言した瞬間、ラーンの表情は曇った。


 私も……嫌な気持ちだ。

 そんな突き放すような言い方しなくてもいいじゃん。

 ウィングはヒーラーの重要さを分かってない!


「ねぇ! もしもウィングが魔物との戦いで大ケガしたら、どうなると思ってる?」

「は?」

「誰も助けてくれる人がいなかったら、たぶんウィングは――死んじゃうよ?」

「な、なんだよ、いきなり」


 ニョッタ師匠がいなかったら、きっと今頃、ユウちゃんやトラフは……

 それくらい重要なのだ、ラーンの存在は。

 これは絶対、分かってもらわないと。


「フォレストラビットくらいなら、ウィングひとりで勝てるかもしれないけど――」

「もしかして説教か? お前だって、ろくに魔法のコントロールもできねーだろ!」

「……そうだけど! そんなこと、今は関係ないよね!?」

「あるだろ! 戦えないやつに説教されても、セットク力ねーっての!」

「べ、別に説教なんてしてないけどさぁ! だから、さっきのウィングの言い方は――」

「あー、うるせーなぁ! さっきだって、ちゃんと戦ったのは俺だけだろ!?」

「最後まで聞きなよ! ていうか、それはウィングが勝手に戦ったからじゃん! 私たちだって……!」


 ウィングは話を聞こうとしてはくれなかった。

 それどころか、めちゃくちゃな反論までしてくる。

 ちょっと不機嫌になってた私は、それに少しずつイライラしてしまう。


 あっという間に、私たちは引き下がれなくなっていった。

 そんな時――


「ふたりとも、ケンカはやめましょう? 今はセンコウさんを探しませんか?」


 口論する私とウィングの間を、ラーンが仲裁した。

 前に出る身体を押されて、ちょっと冷静になる。


 そうだ、今はこんなことしてる場合じゃない。

 センコウのことを優先しないと。


「…………」

「…………」

 

 黙って、ウィングと眼が合う。

 でも、どちらからともなく逸らす。

 話したいと思えなかったから。


 ✡✡✡


 肩を並べずに、そっぽを向いて歩く。

 私とウィングは、お互いに接触を避けた。


「ふ、ふたりとも。仲良くしてください……」


 心細そうな声を出すラーン。

 残念だけど、それは聞けないよ。

 それに、きっとウィングも同じ気持ちだし。


 そうして、サツバツと抜けていく行く道中。

 その道の先に、座り込む人影があった。


「あ……」


 眼を凝らしてみると、その腰に剣がついている。

 服装もちょっと変わってるから、見間違えることはない。

 あれはセンコウだ。


 早足で近付いていくと、彼のほうも私たちに気付く。

 でも、大した反応も示さないで、静かに座ったままだった。


「センコウ、なんで勝手にどっか行くの!?」


 開口一番、改めて問う。


「…………」


 眼を瞑って黙るセンコウ。

 なにやってるの?

 もしかして寝てるの?


「答えて、センコウ!」

「…………」

「ぐぬぬ……!」


 ああもう、自分勝手すぎるよ!

 自由か!

 私たち、ちゃんとパーティ組んだよね!?


「勝手にパーティから離れたらダメじゃん! それは分かってるよね!」

「知らんでござる」

「し、しっ…………!?」


 知らんじゃないでござる!!

 反省すべきでござるよ、センコウ!!


 衝撃的な発言すぎて、すぐに言葉が出ない。

 その間にセンコウが立ち上がる。


「拙者は確かに、貴殿らとパーティを組んだでござる。しかし、仲良くダンジョンを攻略する気などござらん」

「なんで!」

「ランク3以上でなければソロで活動もできぬゆえ、やむなくパーティに入っているだけでござる。他人との協力など、拙者には向かぬ」

「な……なんなの、それ…………」


 ……自分勝手。

 さも当然みたいな顔して、めちゃくちゃなこと言うなよ。

 実はふざけてるんじゃないの?


「ちょっと言わせてもらうけどさ――」

「パトナさん、落ち着きましょう!」


 思わず言い返す私を、後ろからラーンがおさえる。

 掴まれた腕から、かすかに手の震えが伝わった。


「こ、このままじゃパーティがバラバラです……出直しませんか?」

「え……?」


 小さな声でそう提案する彼女。

 他のみんなにも聞こえたようで、口々に反発が出た。


「なぜ撤退を? なんの意味があるでござる?」

「……バラバラでも、俺が魔物を倒してやっから大丈夫だ!」


 ……なるほど、出直すのも良いかもね。

 ウィングもセンコウも自由すぎるよ。

 こんな状態じゃ、ラーンの意見が正しいに決まってんじゃん。


「うん。帰ろう、ラーン」

「はぁ!? おい、パトナ……!」

「私たちが帰ったら、どのみち帰るしかないでしょ。ひとりでクリアしても意味ないんだから」

「…………」


 私とラーンが引き返すと、ウィングも渋々ついてくる。

 かなり後方から、センコウもついてきているようだ。

 途中で「解せぬ……」という声が聞こえたから、彼も渋々だろう。


 はぁ、こんなはずじゃなかったのに。

 パーティでの冒険って、もっと楽しいと思ってたよ。


 ✡✡✡


 トボトボ歩いて、失意のままダンジョンを出る。

 そのまま、ほとんど会話もしないで、みんなでギルドに戻った。


 ラウンジのテーブルを借りて、話し合いの態勢になった。

 反省会だ。


「とりあえず、今回は大失敗だね」

「パトナのせいでな」

「……いや、ウィングのせいだよ」

「なんだと!」


 会話になると、私たちはすぐケンカになってしまう。

 そこをまた、ラーンが仲裁してくれた。


「あの! 誰のせい、というのはやめませんか? パーティの失敗は、みんなの失敗ですから……」

「……ごめん、そうだね。ラーンの言う通り、みんなの失敗だよ」


 そう、みんなの失敗。

 統率が取れなかったこと、それが原因なのだ。

 ラーンってば良いこと言うなぁ。


「拙者は無関係でござろう」


 マジメな顔をして、まためちゃくちゃなことを言うセンコウ。

 まったく、この男は……なんなの、ほんと。


「言っとくけど、センコウが一番……あ、いやいや、みんなの失敗だし。無関係とかないから」

「貴殿らの諍いに、拙者がなにか関与したでござるか?」

「…………」


 くっそー、ガマンしなきゃ。

 「元はと言えば」とか言っちゃいけないんだ。

 うぐぐ……


「……おい、パトナ。お前が仕切るなよ!」

「はい?」

「このパーティのリーダーは俺……」

「どうでもいいよっ」


 話が進まない。

 もうアレだよね。

 ウィングたちの口を塞ぐべきだよね。

 いや、そんなことしちゃダメだ……


 私は頭を抱えて、苦悩を募らせる。

 それにもお構いなく、ウィングはフキゲンそうに発言した。


「あのさ、パーティ解散しねぇ?」


 その言葉は、私たちが囲むテーブルの中心に落ちる。

 ちょっとの間だけ、会話が固まった。

 グラスの氷がカランと鳴った。

32も特別に素数とします。

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そういった反響が、なによりも励みになります。

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