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#6 ダンジョン

 剣士の男の子ウィングは、私に席に着くよう勧めてくれる。

 お互いに腰かけたあと、メンバーの自己紹介が始まった。


「改めて、俺はウィング・サンロード。お前は?」

「私はパトナ・グレム! よろしくね、ウィング!」


 ウィング・サンロード。

 太陽のような赤い髪と、透き通った空色の瞳。

 笑う時のあどけない表情から、素直な印象を受ける。

 爽やかな名前にぴったりって感じだ。


 ウィングの隣に座っているのは、杖を持った白髪の女の子。

 頭にはシスターベールを被っている。

 ウィングよりちょっと青みの深い、水色の眼をしていた。


 彼女は私に会釈して、大人しい自己紹介をする。


「私はラーン・キャブといいます。よろしくお願いします、パトナさん」

「こちらこそ、ラーン!」


 そっと微笑む彼女からは、やっぱり素直な感じがした。

 このパーティ、悪い人はいなさそうだ。

 むふふ、アタリのパーティだったかも。


「…………」


 と、思ったのも束の間。

 私の隣に座る、長い黒髪の人だけ喋らない。

 変わった剣を持ってるけど、たぶん剣士?


「…………」


 待ってみても、なにも言ってくれない。

 今って自己紹介の時間だよね?

 いいや、こっちから訊こうっと。


「ねぇ、あなたの名前は?」

「…………」


 質問すると、暗い紫の瞳がこちらを睨む。

 奥側の眼は前髪に隠れてるけど、横からだとチラっと見えた。


「拙者、センコウと申す。ジャンパから参った」


 あ、喋ってくれたよ。

 良かった、嫌われてるのかと思った。


「ジャンパ? 遠いの?」

「東の果て、海を隔てた場所にござる」

「へぇ……そんなところから来たんだ、すごいね!」


 正直、私は海を見たことはない。

 けど、きっと簡単には来れない距離だ。

 なんせ東の果てだもんね。


「長旅ご苦労様! よろしくね、センコウ!」

「……グリードに参ったのは一年前でござるが」

「あっ、そうなの? でもご苦労様だよ、うん」

「…………」


 自己紹介を終えたセンコウは、眉を顰めて黙る。

 軽いノリは嫌いなのかも?

 仲良くなる方法、なにか考えとこう。


 全員が喋って、お互いのことがなんとなく分かった。

 するとウィングが立ち上がる。


「よしっ、これでライセンスが取れる!」

「え? ウィング、もしかして……」

「おう! 俺はそのためにパーティを組んだ!」

「そうなの?! 実は私もライセンス取りたいんだ!」

「うおお、マジか! じゃあライバルだな!!」


 偶然だけど、同じ目的のパーティに入ったみたいだ。

 なんか嬉しいな。


「それじゃ、ラーンとセンコウも?」

「いえ、私はウィングさんにお誘いしてもらって……」

「ライセンスなど、とっくに取得済みでござる」


 みんなそうかと思ったけど、違ったっぽい。

 でも、そのほうが心強いかもね。

 初心者だらけのパーティって、なんか大変そうだし。


 ✡✡✡


 さて、一緒にやっていく仲間は揃った。

 受付に戻ってきた私は、ウィングと一緒にダンジョンを選ぶ。

 お姉さんからは、いくつかの簡単なイラストと、ダンジョンの特徴がまとめられた紙束を渡された。


「ウィングはどこがいい?」

「うっし、俺はこの“聖なる灯火(ホワイトヒート)”ってとこだ! 絵の火がカッコいいからな!」

「イラストで選んだの?」


 ウィングが指差すダンジョンを見てみる。

 遺跡っぽい壁に囲まれた火のイラストは、確かにカッコいいけど……


「じゃあ、私はこの“神秘なる逆光(ホワイトライト)”ってとこ」


 私が選んだのは、森の中に白い光が差し込む、平和っぽいダンジョン。

 景色が良さそうだから、ちょっと行ってみたい。


 でも、行けるダンジョンはひとつだ。

 というわけで、ウィングと睨み合ってみる。


 ――いざ、尋常に勝負っ!

 先行はウィングから!


「しりとりはじめ!」

「め……メッセージ!」

「ジュエル!」

「ル……ルート!」

「トータル!」

「ル……ルビー!」

「ビール!」

「ル……!? ル、ルーン……あっ」


 計画通り。

 私、しりとりには自信があるのだ。


「試験を実施するダンジョンは、“神秘なる逆光(ホワイトライト)”でよろしいですか?」

「はい!」

「かしこまりました。試験は次の日の出までですので、頑張ってくださいね」


 向かう先は“神秘なる逆光(ホワイトライト)”に決まった。

 レベル2か……それほど難しいダンジョンには見えないけど、油断しないぞ。

 これが初めての冒険なんだからね!


 ✡✡✡


 各々で準備を整えてから、目的のダンジョンに向かう。

 まあ、私は街を見て回ってただけだけど。

 観光の時間が手に入ってラッキーである。


 ――レベル2のダンジョン、“神秘なる逆光(ホワイトライト)”。

 ここでの試験目標は、ダンジョン最奥にあるという果実、“ペルパ”を持って帰ること。

 ペルパの実物を見たことは無いけど、イラストでは赤く熟していて、なかなかおいしそうだった。


 ダンジョンについては、期待通りの景観だ。

 イラストでイメージした通り、緑豊かな場所である。

 ほのかな土の香り、風の気持ち良さ、透き通る川のせせらぎ、天井知らずの空……

 想像以上の澄み具合に、危険な場所であることを忘れそう。


 でもまぁ、今回はそうもいかないかもね。


「ル! ばっかじゃねーか!」

「ル攻めっていうんだよ、ふふん」


 ここに来ても、まだ悔しそうなウィング。

 しりとりの結果に納得がいかないようだ。

 隣でずっと喚いていた。


「パトナさん、ウィングさん。ダンジョンには魔物がいるので、気をつけて……」

「……大声は魔物を引き寄せるでござる」


 後ろからは、先輩たちのアドバイスが聞こえる。

 つい気が緩んでしまいそうだけど、そこはきちんと気をつけないとね。

 

 耳を塞いで歩いていると、センコウが急に私を抜かした。

 彼は自分の剣に手をかけつつ、どんどん進んで行く。


「センコウ、どうしたの?」

「…………」


 なにかあるのかと思って尋ねても、答えてくれない。

 ただ黙って、足音もなく前進していく。


 なんだろう?

 よく分からないけど……


「あっ、おい、センコウ! 魔物は俺が倒すからな!」

「知らんでござる。敵は斬る……それだけでござろう」

「俺がリーダーだからな、サンロードは!」


 センコウに負けじと、歩調を早めるウィング。

 ふたりは肩を並べて、前へ進むスピードを競い合った。


 夢中なふたりは後ろを振り返らない。

 普通に歩く私とラーンから、だんだん距離が離れていく。

 ふたりに気にした様子はないけど……

 これ、大丈夫かな。


「ね、ラーン。パーティってこういう感じでいいの?」

「いえ、その……あまり」


 歯切れの悪いラーンは、少し困った顔をする。

 うーん、控えめな子なんだね、ラーンって。

 あまり前に出ないっていうか。


 それじゃ、私が代わりに注意してあげよう。


「ふたりとも、あんまり遠くに行かないようにねーっ!」


 大きな声で呼びかけたけど、センコウは完全無視だ。

 ウィングだけチラッと振り向いた。

 そのまま戻ってはこないけど。


「うーん、戻ってこないよ」

「……あの、パトナさん。大きな声はですね……」

「あっ、ごめん! さっき注意されたばっかり――」


 再三の注意を受けて、ラーンのほうへ顔を向ける。

 けれど、彼女は私を見ていなかった。

 その視線が捉えていたのは――一匹の魔物だ。


「フォレストラビットです。額に生えた角で、突進攻撃をしてきます」


 魔物の説明をするラーンは、冷静に戦闘態勢に入る。

 私はまだ切り替えられてないのに。


「……いつの間に、出てきたのかな」

「えっと……パトナさんの声に反応しちゃったみたいです」


 さっそくやらかしたね、うん。

 いーや、この戦いで挽回すればいいんだ!


「よし、ラーン! 一緒に頑張ろうね!」

「そうですね」


 不安そうなラーンは、私の後ろへと回った。

 私はさっそく両腕を突き出して、詠唱の構えをとる。


「“唄え、短き命! 勇気の欠片、誓いを守れ!”――脈打つ情熱(フレイム・ヴェイン)!」


 手のひらから生まれた火球は、勢いよく発射された。

 狙いはフォレストラビット!

 火球はまっすぐ飛んで行って……くれない。


 なんの気まぐれか、その軌道は急に反転する。

 そうして、まるで反抗するかのように、私に牙を剥いた。


「ぎゃーっ!?」

「パ、パトナさん!?」


 腰を仰け反らせて、間一髪で避ける。

 火球は私の顔面スレスレを飛んでいった。


 今、ちょっと熱かった。

 燃えるかと思った!

 怖いよ!


「ふぅ、避けれて良かった――」

「パトナさん、魔物が来ます!」

「ほぇ?」


 安心して、悠長に態勢を立て直していると……魔物が襲ってくるではないか。

 飛び掛かってくるフォレストラビット。


「キューッ」

「うひゃあっ!」


 咄嗟に転んだことで、なんとか攻撃は避けれた。

 すごく危なかったけど。


「油断しちゃダメですよ、パトナさん!」

「ご、ごめんね……」


 これじゃ名誉挽回どころじゃないよ。

 うぐぐ、これ以上のブザマは晒せないな。


「よしっ、もう一回!」


 フォレストラビットは次の攻撃を構える。

 その隙に立ち上がった私は、また詠唱の構えをとった。

 今度は外さないぞ!


「“唄え、短き命! 勇気の……”」

「おいっ、パトナ! ふざけんじゃねーっ!」

「こ、今度はなに!?」


 いきなり怒鳴り声を浴びせられる。

 ウィングの声だ。


 なにごとかと動揺してると……いきなり剣が降ってきて、フォレストラビットを貫く。


「ぎょえっ!?」


 白い身体は赤く染まって、瞬く間に生気を失った。

 なんて衝撃的な倒し方だろう。


「な、なんなの、ウィング!」

「お前、俺に向かって魔法を撃ったろ!?」


 剣に遅れてやってきたウィングは、私に怒っているらしい。

 穏やかじゃない顔を向けてくる。


「パトナ、裏切ったな?」

「う、裏切ってないよ」

「じゃあなんで魔法が飛んでくるんだよ!」


 いや、魔法なんか飛ばしてないんだけど。

 ウィングに向けて撃つ意味ないし……


「さっきから、なに言って――あっ」


 首を傾げたとき、ピンとくる。

 最初に撃ったやつ、もしかするとウィングも襲ったのかな。

 なるほど。


「えっと……コントロールの問題だね」

「は?」

「裏切りじゃないよ。ところで、当たってない?」

「あんなもん当たったら死んでたっつの!」

「そ、それは言い過ぎじゃ……とにかく、ごめんね?」


 私が素直に頭を下げると、彼は訝しげに腕を組む。

 傍で見てたラーンも補足してくれたけど、納得はしない。

 思ってるより怒ってるみたいだ。


 でも、不満があるのは私のほうだって。

 そもそも、ウィングとセンコウは先に行きすぎだ。

 今は帰ってきたからいいけど……まったく。

 注意しとかないとね!


「あのさ、ふたりとも。もっと近くで歩いてよ」

「あん? なにが?」

「魔物が出てきたのに、まともに戦えなかったじゃん!」

「魔物?……なんだよ、出てきたなら言えよ!」


 いや、近くにいなかったウィングが悪いよね?

 逆に怒られても困るよ。


「センコウも、分かった? ひとりで先に行ったら……」


 センコウにも念を押しておこうと、視線を向ける。

 けど、向けるべきセンコウがどこにもない。

 よく周りを見ると、その姿はどこにもいなかった。


「ウィング、センコウは?」

「知らねぇ。どっか行ったぜ」


 いや、『どっか行ったぜ』じゃないでしょ。

 行かせちゃダメだよ。


「ラーン!」

「は、はい! センコウさんを探しましょう!」


 うぅ、パーティの統率が取れて無さすぎだよ。

 勝手にどっか行っちゃダメじゃん、センコウ!

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