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#15 ベリーグッド

 衝撃は拡散して、だんだんと治まっていく。

 それに合わせて、光も少しずつ晴れていった。


 やがて視界は、元に戻り始める。

 私は一度だけ瞬いて、最初にみんなの姿を求めた。


「みんな、平気…………?」


 恐る恐る、声を掛けてみる。


「――問題ないでござる」

「あっ、センコウ」


 まず返事をしてくれたのはセンコウ。

 彼はその場に片膝をついて、身を屈めていた。

 剣を仕舞ってから、冷静に立ち上がる。


 そんな彼の後ろには、尻餅をつくラーンもいた。

 ポカンとした表情の彼女は、ダンジョンの奥を見上げている。


 その視線の先を追ってみる。

 すると、そこには――ダンジョンボスの亡骸が、仰向けに横たわっていた。


「う、うわっ…………!?」


 焼け焦げた大きな猫が、白眼を剥いている。

 その巨体のせいで、墓の群れに頭を突っ込んでいた。

 鋭い爪も、獰猛な牙も、だらしなく光っていた。


 い、いきなり見たらビックリするなぁ。

 ていうか眼が……すごいことに……

 魔法が直撃したとこから、ヒドい傷が出来てるよ……うへー。


 勝ったことを実感するよりも、ボスの有様に眼を覆いたくなる。

 あんまり見たくなかったから、思わず眼を逸らした。

 そうして移動した視線の先には、折れた剣を眺めるウィングが。


「あっ、ウィング! 大丈夫!?」

「ん? おう、まーな」


 あれ、なんかテンション低い?

 もしかして、剣が折れてるから……?

 あれって多分、私の魔法のせいだよね。


「ウィング……えっと、剣折っちゃってごめんね?」

「いや、気にすんなよ。また買えばいいしな!」


 ぶっきらぼうに言った彼は、折れた剣を鞘に仕舞う。

 そして、おもむろにボスを指差した。


「パトナ、やっぱお前の魔法はすげーよ! 一撃じゃねーか!」

「あっ、うん」


 剣士として、自分の剣が壊れたらヘコむはず。

 だけど彼は、それをあまり見せないように振舞ってくれた。

 ちょっと申し訳ない気持ちになってると、ラーンに肩を叩かれた。


「帰りましょう、パトナさん。無事に素材も入手しましたし」


 見ると、彼女の腕には大きな尻尾が。

 手の中に収まりきってないよ!……と思ったら、半分はセンコウが持っていた。

 どっちにしろ重そう……


「そんなの抱えたまま帰るの?」

「テレポーターが出現しているはずなので、そこから帰りましょう」

「テレポーター?」


 質問しながら、私は尻尾の真ん中のところを持つ。

 こっちに来たウィングも、私とセンコウの中間くらいを持った。


「ダンジョンボスを倒すと出現する、魔力の柱です。大抵はダンジョンの外に繋がっています」

「なにそれ!? なんか都合良くない!?」

「確かにそうかもしれません……ダンジョン研究者の注目の的らしいですが、詳しいことは分からないそうですよ」

「へ、へぇ……まあダンジョンだから、そういうのもあるのかなぁ」


 帰りが保証されてるなんて、ダンジョンって意外と優しいんだ。

 なんて思いつつ、私たちサンロードは、ダンジョンから帰還するのだった。


 ✡✡✡


 ギルドに帰ってきて、まず依頼を完了させる。

 「お疲れさまでした!」と、お姉さんに労われた。

 そう言われると、確かに疲れてる気がした。


 そんなわけで、ラウンジのテーブルを借りる。

 そのままグッタリして、動けなくなった。


「うあー、疲れたよぉ……」

「ふふ、そうですね。でも、みんな無事で帰ってこれました」

「ランク3はもうコリゴリだよ…………」


 私がそう呟くと、対面に座っていたウィングが、勢い良くテーブルを叩く。

 めっちゃうるさいし、振動がすごい。


「なに言ってんだよ、パトナ!! 次はランク4に挑戦だ!!」

「はぁ!? 絶対ムリだよね、常識的に考えて!」

「んなことねーって! 俺たちは最強のパーティだからなっ!」


 ウィングってば、相変わらずのお調子者ぶりだよ。

 いくらランクが早く上がるからって、さすがにランク4には行く気にならない。

 冗談抜きで死ぬし。


「命を粗末に扱うことはなかろう」


 換金所から戻ってきたセンコウが、ウィングの隣に座る。

 彼はテーブルに銅貨を並べた。


「今はこの銭で堪えるでござる」

「……どう分けるの?」

「四等分でしょうか」


 占めて、ボゼルン33枚。

 ライヴァーズ三枚は、ウィングの剣代として取ってある。


 合計を数え終わると、銅貨を分け始めるラーン。

 最終的には、全員に8枚ずつ行き渡って、1枚が余った。


「……すっくね」

「宿代で消えるでござるな」

「この1枚はパーティの貯金にしましょう」


 渋い顔のウィング。

 センコウは黙ったまま、服の襟みたいなとこに銅貨を仕舞う。

 ちょっと楽しそうなラーンは、貯金分を革袋へ入れた。


 少ないかもしれないけど、初めての報酬だ。

 額なんて関係なく、私は嬉しい。

 だいたい、これが少ないっていうのもピンとこないし。


「宿ってお食事とか出るんでしょ?」

「安宿の飯はマズいし、寝る場所も野宿よりマシってレベルだぜ」

「まあいいじゃん、明日頑張ろう! ね?」


 フキゲンなウィングを宥めるつもりが、逆に訝し気な眼で見られた。


「……パトナ、お前もしかして」

「な、なに?」

「マトモに泊まれるとこ、確保してんじゃねーの?」

「え……」


 その時、私はなんとなく察する。

 これって……もしかして、師匠に迷惑かかるんじゃ?

 ヤバい、誤魔化そう。


「確保してるわけないじゃん、だって……」

「だって?」

「私、師匠もいないのに」

「いるだろ。誰だよ師匠って」

「ニョッタ師匠なんて知らないよ。拠点もないよ」

「ちくしょーっ、俺をそこに泊まらせろ!」


 ぜんぜん誤魔化せなかった。

 肩をガクガク揺さぶられて、「泊まらせろ」と連呼される。

 でも、師匠になんの許可も取ってないのに、そんなことできないよね……


 なんて考えてると、揺れる視界に馴染みのある姿が映った。

 ――トラフだ。

 彼は向こうのテーブルで、ふたりの仲間と話していた。


 ふと、私の視線に気付くトラフ。

 そんな彼を、紫髪でツインテールの女の子が気にする。


「どしたの、トラフ?」

「いや……なんでもない」


 遠めから聞こえた会話と、私に向けられたトラフの微笑み。

 言葉のない祝福に、私も思わず笑顔になる。

 私たちは目線を交わして、密かに通じ合った。


 ふふ、トラフも仲間を見つけられたんだね。

 すごく距離が近いし、パーティの仲も良さそうだ。

 ヘンだけど、なんだか自分のことみたいに嬉しいや。


「泊まらせろーっ、パトナ!!」

「拙者もお願い申す」

「……あ、あの、良ければ私も…………」


 トラフから意識を戻すと、宿泊志願者が増えていた。

 ……とりあえず、師匠のとこに帰るしかなさそうだ。


 ✡✡✡


「じゃ、話してみるけど……待ってね」


 私が言うと、3人は大人しく頷いた。

 みんな縋るような眼差しだ。

 なけなしのボゼルンが懸かっているから、真剣になっている。


 そんなに泊まれるところ、あったっけ?

 なんて、ちょっと気後れしつつも、拠点の扉を開く。

 こっそり覗くと、昨日と同じ場所にニョッタ師匠がいた。


 案の定、師匠は魔法陣に向き合っている。

 邪魔になりそうで、少し話しかけづらい。

 でも、まあ、別に気にしないんだろうけど。


「……た、ただいま、師匠」


 扉から顔だけ出して、控え目に声をかけてみる。

 でも、彼女の反応は無い。

 気付いてないみたいだ。

 もっかい。


「わ! ただいま、師匠-っ」


 今度は若干、大きな声で呼んでみた。

 そしたら、驚き交じりに振り向いてくれた。


「パトナ。お帰り…………なにしてますの?」

「え? えへへ、いや……ただいまーって」

「早く入りなさいな」


 いつも通りの、あまり愛想は良くない表情。

 でも、細めの眉が困ったように動くだけで、その印象はかなり変わる。

 大人っぽいけれど、どこか可愛らしくもあった。


 言われて、そそくさと入室。

 その時、パーティのみんなが扉を覗くんじゃないかと思って、慌てて振り向いてみる。

 扉の向こうには影も見当たらなかった。

 ひと安心だ。


「…………あら」


 挙動不審な私を見て、師匠はそう呟いた。 

 おもむろに立ち上がった彼女は、私の服をジッと眺める。


 え?

 これって……あれかな。

 ファッションチェックかな?

 「まだまだ田舎娘ですわね」って言われるの?


 なにも言えずに、ドキドキしながら言葉を待つ。

 すると、師匠は私の顔を見て――


「頑張ったみたいですわね、パトナ」


 そっと微笑んだ。


 ……褒められちゃった。


「あのっ、えっと……どうして?」

「服が汚れてますもの。微かに血も付いてますわ」

「え?……うわぁっ、ホントだ!」

「わたくしの服に着替えなさいな。洗ってあげるから」

「わあ!?」


 師匠はいきなり、私の服を脱がせようとする。

 でも、それは、さすがに抵抗した。


「い、いやいや! 自分で着替えるから、待って!」

「あ……そう?……いえ、そうですわね」


 師匠ってば、私を子どもに見すぎだよ!

 さすがに恥ずかしいよ、着替えくらいひとりで出来るのに。


 慌てて師匠から逃げた私は、彼女の眼に映らない隅っこで、素早く服を脱ぐ。

 そして、着替えがないことに気付いた。

 また焦ってると、師匠がタンスから服を取り出して、私に渡してくれる。


「落ち着きのない子ですわね」

「あ、うぅ……ありがと……」

「サイズが合わなかったら言いなさい」


 私って……自分が思ってるより子どもなのかな?

 いや、きっと師匠が傍にいるせいだ。

 大人すぎる師匠が悪いに決まってるよ、うん。


 恥ずかしいのを、怒ってることにすり替えてみる。

 そしたら、ちょっとだけ冷静になれた。

 ……あ、そういえば、パーティのみんなが待ってるんだっけ。


 服に袖を通しながら、師匠に話しかけた。


「ねぇ、師匠? 頼みがあるんだけど……」

「なに?」

「私のパーティのみんながね、ちょっと今、金欠で……寝泊りするところがなくて」


 なんだか遠まわしに頼もうとしてると、半開きだった扉が全開になる。

 勢いよく入って来たのはウィングだ。


「早くしろよ、パトナっ! まだ頼んでねーだろ!」

「ちょ、ちょっと……! 今から頼もうとしてたんだよ!」


 待つように言ったのに、やっぱり待てなかったらしい。

 なんとなく予想はついてたけど……

 ていうか、まだそんなに経ってないよね?

 我慢できなくなるの、早いと思うなぁ。


 チラッと師匠の表情を窺うと、少し険悪になっていた。

 扉を雑に使われたから、そうなるのも無理はない。

 けど、これじゃ泊めてもらえないかも。


「ご、ごめんなさい、パトナさん……やっぱり迷惑でしょうか」

「拙者は野宿の心構えもござる」 


 ウィングが荒ぶるせいで、なぜかふたりが弱気になっている。

 きっと、8ボゼルンを前にしてたら、つい口に出ちゃったんだよね。

 だから今になって、やっぱり遠慮が出てるのかもしれない。


 でも、やっぱり野宿は可哀想だ。

 同じパーティの仲間として、なんとかしてあげたい。

 よし、ここは私がヒトハダ脱ぐぞ……!


 私は師匠に頭を下げて、大きな声で頼んだ。


「お願い、ニョッタ師匠! みんなは私の大事な仲間なんだ……! だから、泊まらせてあげて!」

「別にいいですわ」

「え!?」

「ただし、この拠点のルールは守っていただきますわよ」


 よ、良かった……!

 これで誰も不幸にならずに済むよ!


「ありがとうございます、パトナさんのお師匠様……!」


 ラーンは私に続いて、師匠に頭を下げた。

 センコウとウィングもそれに倣う。

 その後、ウィングは一早く顔を上げて、私を見た。


「パトナ、ありがとよ!」

「え? あ、えへへ……」

「やっぱお前は良いやつだぜ!」

「そうかなぁ、えへへ」


 快活なウィングの笑顔が眩しい。

 私が照れていると、師匠は優しく囁いた。


「パトナ。良い仲間を持ちましたわね」

「……! うんっ!」


 苦楽を共にしたパーティの仲間を、師匠に認めて貰えた。

 それだけで、私の心は信じられないほど満たされるのだった。


 まだまだ災厄消滅への道は遠いけど……

 今の私の目標は、少しずつニョッタ師匠に認めてもらうことだ。

こっから本番の本番です。

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